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力戦奮闘の美少女殺戮兵器3

 自身の師であるユリア。

 その守護隷である下陰玲児から構成陣の確認を依頼されたその翌日、つまり今日、志田桐生は約束通りユリアの屋敷を訪れていた。

 住宅街にある、日本には似つかわしくない洋館。

 その建物の門前に立ち、腕時計を確認する。


 午前十二時。

 予定の時刻だ。


 桐生は時計から視線を外し、自身の隣に並んでいる少女を見やる。

 おかっぱ頭に猫耳と尻尾。

 学校の制服をコンセプトにした可愛らしい衣装に、左右で色の異なる黒目赤目(オッドアイ)


 彼の守護隷であるキシリアだ。


 キシリアが右の黒い瞳と、左の赤い瞳で桐生を見やり、ポツリと呟く。


「……めんどくさい」


「ここまで来てそれを言うんだ」


 守護隷からの至ってシンプルな愚痴に、桐生は苦笑を浮かべる。


「キシリアちゃんは特に何をするでもないでしょ?

 下陰くんの構成陣を探すのは私がするからね。

 君は先生の守護隷と一緒に、そのお菓子でも食べてればいいよ」


 桐生の言葉に、キシリアの視線が自身の右手に握られている紙袋に落ちる。

 ユリアの屋敷を訪問するにあたり、手土産として購入しておいた和菓子。

 昨日、ユリアに渡した老舗和菓子店の水ようかんに比べれば見劣りするも、それなりに評価のある一級品だ。


 キシリアが視線を紙袋から桐生に戻し、微かに眉をしかめる。


「他人の守護隷……問題に口出すのおかしい」


「……キシリアちゃんの言いたいことも分かるんだけどね」


 キシリアから視線を逸らし、桐生は穏やかな微笑みを浮かべる。


「まあ、私にも私の考えがあるからね。

 ここは私の我儘に付き合ってもらえるかな?」


 感情のない表情に疑問符を浮かべるキシリア。

 彼女の疑問には気付きながらも、桐生はあえて彼女の疑問には答えず、屋敷の玄関に向けて歩き出した。


 美しい庭園をのんびりと歩いて横断する。

 キシリアの気配をまるで感じないが、彼女が音もなく付いて来ていることは、背後を振り返らずとも分かっていた。


 屋敷の玄関前に辿り着く。

 桐生に少し遅れて、背後から歩いてきたキシリアが、彼の横に並んだ。

 視線をキシリアに向けて、すぐにまた玄関に視線を戻し、呼び鈴を鳴らす。


 呼び鈴の鳴る音が、屋敷内から聞こえてくる。

 だがしばらく待っても、屋敷から誰も出てくる気配はない。

 桐生はもう一度、呼び鈴を鳴らしてみるも、結果は同じであった。


「はて?

 もしかして先生だけじゃなく、守護隷も留守にしているのかな?」


「……なら帰ろう」


 端的に話すキシリア。

 だが屋敷に誰もいないほうが、むしろ作業もやりやすいため、帰るという選択肢はない。

 しかし勝手に屋敷に侵入して、もし屋敷にまだ人が残っていた場合、取り繕うのに苦労しそうだ。


「さて……どうしたものかな」


 そう玄関の前で思い悩んでいると、屋敷の中から言い争うような、騒がしい声が聞こえてきた。

 やはり屋敷に誰もいないということはないらしい。


 桐生は少しばかり思案した後、玄関の扉に手を掛けた。

 不用心にも扉がすんなりと開く。

「すみませーん」と声を掛けながら、桐生は屋敷の中を覗き込んだ。


 玄関の扉を開いてすぐにある廊下。

 そこで何やら、二人の少女が揉み合いをしていた。

 何事かと怪訝に眉根を寄せる桐生。

 巫女装束に身を包んだ少女が、自身の腰元に抱きついているメイド服の少女を引きはがそうと、必死の形相で奮闘していた。


「離せこの――私は初めから、水ようかんを食べたら帰ると、話していたはずだ!

 ろくな用もないのに、退魔師の私が死霊魔術師の家になどいられるものか!」


「そう仰らずに、折角ですからお昼もご一緒しましょうよ。

 私ね、女性のお友達はサツキさんが初めてなんです。

 二人でガールズトークに花を咲かせましょう」


「誰が友達だ!

 死霊魔術師の守護隷とそんなものになった覚えはない!」


「お友達ですよね?

 ()()()()()


「お友達――だけども!」


 ニコリと微笑むメイド服の少女に、まるでナイフでも突きつけられているような悲壮感の漂う表情で、コクコクと頷く巫女の少女。

 そんな二人のやり取りを眺めていると、少女らの背後から幼い少年が姿を現し、玄関に立つ桐生を見つけた。


「む?

 何者だ貴様?」


 少年の問いに答えようとするも、桐生が何かを言う前に、少年が勝手に先を続ける。


「うむ、そうだな。

 まずはこちらから先に名乗り、恐れ戦かすのが良いだろう。

 俺はあの、例の、噂の、井戸端会議の、夢にも出てくる、プラトン様だ。

 どうだ?

 恐れ戦け」


 見えない誰かと会話しているかのように、一人で相槌を打ちながら、少年がそう話し掛けてきた。

 どう反応すれば良いのか分からず、桐生はとりあえず平凡な挨拶を返す。


「えっと……申し訳ありません。

 勝手に玄関を開けてしまい。

 私は死霊魔術協会横浜支部局局長、志田桐生です。

 突然の訪問をお許しください」


「死霊魔術協会だと?」


 メイドの少女と言い争いをしていた巫女の少女が、丸くした瞳を桐生に向けた。

 巫女の腰に抱きついたメイドの少女もまた、きょとんと目を瞬かせ、桐生に視線を向ける。

 二人の少女の注意がこちらに向いたことを確認して、桐生は言葉を続ける。


「先日、ユリア様より引越しのご挨拶をいただいたのですが、やはりこちらから出向かなければ失礼に当たると思い、お伺いした次第です。

 ユリア様は御在宅でしょうか?」


「ああ……そういうことですか。

 それはわざわざご丁寧にありがとうございます」


 メイドの少女が、巫女の少女から体を離して、淀みない所作で立ち上がる。

 桐生に向けてニッコリと微笑んだ後、僅かにその笑顔を曇らせて、メイドの少女が口を開く。


「しかし申し上げにくいのですが、ユリアは今、外出中でして、すぐには帰宅されないと思います。

 わざわざお越しいただいたのに、申し訳ありません」


「そうですか。

 いえ、約束もなくお伺いしたこちらが悪いので、お気になさらないでください。

 偶然、近くに立ち寄る用事がありましたので、御在宅ならばと思った次第です。

 また後日、改めてご連絡をいたしまして、お伺いさせていただきます」


 そう淡々と話して、桐生は隣に並んでいるキシリアから紙袋を受け取った。


「つまらないものですが、どうかこれを受け取ってください。

 近くの和菓子屋で購入したものですが、とても評判も良く、きっとお口に合うと思いますよ」


「まあ、和菓子ですか。

 それはお気遣い頂きまして」


 メイドの女性がぺこりと頭を下げ、青い瞳を柔らかく細める。


「どうでしょう?

 もしもお時間が許すようでしたら、ぜひお上がりになってはくれませんか?

 お気に召していただけるか分かりませんが、紅茶をご用意いたしますので」


「……そうですね」


 悩む素振りを見せる桐生。

 だがここまでは計算通りだ。

 手土産まで持参した客人を、そのまま無下に帰すのは誰でも気が引ける。

 またその手土産が、和菓子などのように日持ちのしない食べ物であれば、早いうちにその個数を減らす必要があり、それを客人にもふるまおうとする可能性は高い。

 彼はそこまで考慮して、手土産を選んでいた。


 十秒ほどの熟考。

 桐生はニコリと微笑み、メイドの少女に答える。


「では、お言葉に甘えさせていただきます」


「はい。

 ぜひそうしてください。

 あとサツキさんも、もうしばらく残られますよね?

 志田様から頂きました和菓子を、折角なので皆さんで頂こうと思うのですが」


「うぐ……和菓子があるなら、食べてく」


 不承不承といった体で――だが若干頬を紅潮させて――巫女の少女が頷く。

 彼女の返事を受け、メイドの少女もまた、頬を紅潮させて表情を華やがせた。

 二人の少女の背後に立つ少年は、先程から会話には参加せずに、一人でどこかを無意味に指差している。


 そんな三者三様の様子を眺めて――


 桐生は浮かべていた微笑みを鋭くさせた。


==============================


「みんな、諦めないで!

 あたし達、ナースレインズが敗北してしまったら、一体誰がこの世界を救うっていうの!?

 今こそ正義の心を力に変える時よ!」


「そうね!

 あたし達はレッドグリーンブルーの意志を受け継ぐもの。

 ダーグブローアクセトルなんかに負けるわけにはいかない。

 みんなフォーメーションジョーズよ!」


「わたし達のフォースランダムがエトセトラするわ!

 トーテムサーターアンダギーを高めることで、リリーフランスターカンポンポスがブルギョロスなんだから!」


「いけない!

 ギロッポンシースークイネーだわ!

 きゃああああああああ!」


「ポポロ・ギ・ブルソ・ロスワンダモレー!」


 こうして、『美少女殺戮兵器ナースレインズ』は、世界を闇とかそんな抽象的なものに包み込もうとした悪の組織〇×△――最後まで名前を聞き取れなかった――に勝利した。


 スクリーンの中で勝利に涙する二十四人の少女と、猫やら犬やらウサギやらリスやらを足して割ったようなマスコット生物。

 感動的な音楽とともにスタッフロールが流れて、何やら真の黒幕っぽい影が映し出されるという次回作をにおわせる演出を最後に――


 映画は完結した。


 照明が灯り、客が映画の感想やらを口にしながら席を立ちあがる。

 そんな中、玲児は人混みを避けるために、席を立たずにぼんやりとしていた。

 すると、隣の席に座っていたユリアが、彼にしなだれかかるように肩を寄せてきた。

 上目遣いにした碧い瞳をキラキラ輝かせ、頬を紅潮させた彼女が、ポツリと言う。


「ロマンチックだったね」


「……どこがだ?」


 子供向けアニメを見て、なぜか心をときめかせているユリアに、半眼で訊き返す玲児。

 ユリアが玲児の胸をツンツンと指で突きながら、照れたように瞳を伏せた。


「悪の幹部シーチキンマヨネーズが、おにぎりの具にされたところとか素敵じゃない?」


「独特の感性だな。

 それに――」


 玲児は視線を自身の太腿に下ろし、冷めた心地で呟く。


「どうして上映中、ずっと俺の内ももを触っているんだ?」


「映画ってそういうものでしょ?」


「違うわ!」


 内ももを撫でるユリアの手を振り払い、玲児は堪らず立ち上がった。

 近くにいた客らが何事かと玲児に振り返る。

 だがそんな彼らの視線など意に介さず、玲児は声を荒げる。


「テメエの所為で、全然映画に集中できなかっただろうが!

 もとより集中して見るような映画でもなかったが、内もも触ったり耳に息を吹き掛けたり、一体何のつもりだ!」


「イヤだ。

 それを女の子に言わすの?」


「やかましいわあああああああああ!」


 カーッと顔を赤らめるユリアに、頭を掻きむしり絶叫する玲児。

 ずいっとユリアに顔を近づけると、玲児はギリギリと瞳を尖らせて、ドスの利いた低い声音で呟いた。


「いっそマジで、暗闇に乗じて襲っちまおうかと思ったぞ?」


「しかしお主は玉無しじゃから、それができんのじゃろう?」


 顔の赤らみをさっと打ち消し、ニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべるユリア。

 図星を指されてグッと息を呑み込む玲児に、ユリアがまた邪気のない笑顔を浮かべる。


「お昼ごはん食べてないし、喫茶店でも行こ」


「……金ねえから、お前がメシおごれよな」


 ささやかな抵抗としてそう告げると、玲児は深々と溜息を吐いた。


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