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~イストワール~  作者: 中村貴之
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出会い

 “魔法”

世界の理に干渉し、奇跡を現実のものとする神秘。

誰かを救うことも、誰かを破滅させることもできる強大な力。

―もし、もし貴方がある日突然、そのような力を手にしたとしたなら・・・。

貴方はどうしますか。

ただ他者のために善用し、神のように崇められるのを望みますか?

悪魔のように畏怖されようとも、ただ己の欲するままに、力を振るうことを望みますか。

―それとも・・・。

「・・・いらない、こんな力・・・こんな恐ろしい力、私はいらない!」

彼女のように、ただただ自らの手にした力に恐怖を抱き、悲嘆にくれ、涙しますか?








 グロワール魔法学院。

ここは世界に存在する六つの魔法学院の中でも、

その歴史が最も古く、今迄にも数多くの優秀な魔術師たちを輩出しており、学院のあるガリア王国有力者の子弟、またそれ以外の近隣諸国の王侯貴族の子女・令息も席を置く、伝統ある学院である。

ここの学院生は皆、自身の目指すべき姿に近づこうと日々自己研鑽の毎日を送っている。

「・・・にもかかわらずだ、ジーク。お前はこんな所で講義にも出ないで。・・・一体何をやっているんだ」

私―ミレイア・シュトラウス―は目の前のぐぅたら男に尋ねた。

「なにって、見てわかんないか?ほら」

ジークは、何を言ってるんだといわんばかりに手に持つ竿を揺らしながら答えた。

「そんなものは見たら分かる!私が言いたいのは講義にも出ず何故釣りをしているのかと・・ん、おい、竿が引いているぞ。引かないのか?」

揺れる水面を前に、ジークは興味なさげに呟いた。

「いいんだよ、釣りしてんじゃないんだから」

「は?」

「よーく見てみろって、餌だけで釣り針ついてないだろ」

言われて、私は水中を凝視した。

確かに、釣糸の先には針がなく餌であるミミズが結んであるだけだった。

「な」

・・・頭が痛くなってきた。

「・・・楽しいのか、それは?」

「試しにやってみるか、竿なら貸すぜ?」

「・・・遠慮する。時間は有限なんだ。これ以上無為に浪費したくない」

私はジークの襟首を掴んだ。

「なので、私はもうお前には何も聞かない。お前は、ただ黙って私についてこい」

「あれ?気のせいか?ひょっとしてお怒り、ミアちゃ、ぐふぅえお!」

そして、私は宣言通り、有無を言わせることもなくジークをそのまま引きずり歩きだした。


「で、結局のところ、俺に何の用なんだ?」

私の拘束から解放されたジークは渋々と、私の横を歩きながら尋ねた。

「詳しいことは、私にも分からない。ただお前と共に来るよう言われただけだからな」

「何処に?」

「学長室だ」

「あ~・・・悪い、急用が出来た」

突然、ジークは今来た道に戻ろうとした。

「これ以上私の手を煩わせるな」

しかし、私はすぐさまジークの袖を掴みそれを阻んだ。

「いや、待てってミア。よく考えてみろ。学長室だぞ。何かの間違いだろ。職員室ならまだ分かるよ?素行の悪い俺を優等生のお前が引っ張っていって、俺は説教。それで教師勢がお前にちゃんと俺のことを監督するように言う。これなら分かる。なんたって、昔からの俺たちの日常だからな」

「よく理解しているじゃないか、ジーク。私とお前が出会ってからのこの10年を・・・しかし、そこまで理解していて何故お前は日頃の態度を改めようとしないんだ」

今迄のジークの行動を思い出し、私の眉間には皺がより、ジークを掴む手にも、自然と力がこもった。

「愛かな・・・ごめんなさい、冗談です、勘弁して下さい」

私はさらに力をいれ、それ以上の戯言を封じ話を進める。

「ただ、貴様の言うことも分からなくはないがな。今回の呼び出しは私にも心当たりがない」

「だろ、ならきっと呼び出されたのはお前だけで、俺は何かの間違いだ。学長室なんて、優等生のお前しか用がないって」

「分からないぞ。劣等生のお前にとうとう退学処分が出たのかもしれないじゃないか」

「・・・マジ?」

それを聞き、ジークの顔色が少しばかり悪くなった。

「聞けば分かることだ。さぁ、着いたぞ。シャキッとしろ、シャキッと」

しかし、私はそんなジークを半ば無視し、おもむろに目の前の学長室のドアをノックした。

           

「ミレイア・シュトラウス、並びにジーク・ベルンハルト、只今参りました」

「入りなさい」

「失礼します」「失礼しま~す」

促されるまま、私達は入室した。

そこには、私達の担当教授コンシィールのラナ・フルール先生、副学長ネリス・ベルモット先生、そして学長のアイザック・シュトラウスの三人がいた。

「二人とも、随分と遅かったですね」

私達が入室すると、開口一番に副学長が眉間に皺を寄せながら口を開いた。

「まぁまぁ、ネリス。二人とも、こっちへ」

副学長を諌め、学長は私達に近づくよう促した。

「今日は二人に頼みたいことがあってきてもらったんじゃ」

「私達二人に、頼みごと・・・ですか?」

「うむ、実は今日この学院に新入生が入ることになっての」

「この時期に?入学式はもう半年も前に終わっていますが」

「シュトラウスさんの疑問は最もです。当学院への入学は四月の入学式以外は認めていません。本来であれば来年まで待っていただきます。ですが、今回はある理由から特例として認められる事なりました」

「その理由とは、一体・・・」

「それは貴方方が知る必要のない事です」

「ネリス。・・・それについては少々込み入った事情があっての。学生に話すことはできんのだよ。すまんの」

副学長の言葉に学長は申し訳なさそうに付け足した。

「いえ、出過ぎた質問でした」

「で、その新入生の話と俺たちがここに呼ばれたのとどう関係するんすっか?」

それまで黙って話を聞いていたジークが始めて口を開いた。

「うむ、それなんじゃが。二人にはその新入生の学院での生活の手助け、つまり監督役を頼みたいんじゃよ」

学長の言葉に私達は目を丸くした。





 「ジーク、早くしろ!待ち合わせの時間に出迎え側が遅れるわけにはいかんだろ!」

「・・・はいはい、今行きますって」

目の前をキビキビと足早に歩くミアの後に続きながら、俺は先ほどの学長室での会話を思い返した。


「・・・私たちに、ですか?」

「・・・何で、俺らが?」

「その新入生の入寮先が君たちと同じ《フェアムール》ということになっての。そこで寮監でもあるフルール先生に人物の選定を頼んだところ、二人の名が挙がっての」

この言葉に、ミアの眉が上がった。

「先生、何故私だけでなくジークもなのですか?」

「あらぁ、不満ですかぁ?」

「不満という訳では・・・ただジークのように素行の悪い者が傍にいて、その新入生にどのような悪影響をもたらすのかを考えると。おおいに不安です」

「うわ、ひどっ。お前そこまで言っちゃう?」

俺は、ミアの中での予想通りの、そして手厳しい自分の評価にがっくりした。

しかし、ラナさんはそんなミアの不安の声にも動じることなく微笑を浮かべた。

「シュトラウスさんの言い分も分かるわぁ。確かに普段のベルンハルト君の行いは決して褒められたものではないですからぁ」

くそっ、ここには俺の味方は居ないのかよ!

「でしたら・・・」

「け~ど、だからこそ私は貴方だけでなく彼にも今回の新入生の手助けを頼みたいんですぅ」

「?」

ミアは理解できないとばかりに困惑の表情を浮かべた。

「ふふ、大丈夫ぅ。今は分からないかもしれないけど、いずれ貴方にも理解できますぅ。何故貴方たち二人なのかがぁ」


 その後、不承不承の態ではあるが納得したミレイアに連れられ、指定された新入生との待ち合わせ場所に向かい今に至る。

『結局、なし崩しで引き受けることになっちまったなぁ』

学長室に行く前も行った後も、なんとなく状況に流されている自分に、俺は何とも言えない気分になった。

「よし、どうやら、間に合ったようだな」

そんな俺の思いなどとは裏腹に、安堵の声をあげるミア。

待ち合わせに指定された街の中央広場には、この時間帯にしては珍しいことに、不自然なくらい誰もいなかった。

まぁこれなら、待ち人を探すのも楽できるからいいんだが。

ただ・・・。

「後は、待つだけだな」

「そうは言うけどよ、ミア」

「ん、どうした?」

「相手がどんな奴か分からないって、待ち合わせとしてどうなんだろうな」

「・・・・・・言うな」

そう、実は俺たちは待ち合わせ相手についてなにも聞かされていない。

学院の制服を着て立っていれば向こうから声をかけてくる、とだけ言われたのである。

俺が言うのもなんだが、非常識極まりない。

「まぁ・・・何か訳があるのだろう。幸いなことに制服を着た者は私たち位しか、いや、そもそも広場には私たちしかいないのだし、相手もすぐに気づいてくれるだろう」

そりゃそうだ。

まあ、仮に人が大勢いたとしても、うちの学院は基本的に学外への外出は週末だけと決められているから放課後の時間帯に学院生が街の中央広場なんて目立つ所にいることはないがな。(俺たちは許可を得ているので問題ない)

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「なぁ、ミア」

「なんだ?」

「今から一勝負しないか?」

「は?・・・突然なんだ?」

「ただ、ぼけ~っと待ってるのも退屈だろ?待ち合わせの相手がどんな奴か、賭けないか?ルールはより相手の特徴を言い当てた方の勝ちで」

「却下だ、バカバカしい」

ミアは俺の提案をにべもなく切り捨てた。 

「そうだなぁ。俺は何となく男だと思うな。お前はどう思うよ?」

しかし、俺はそんなミアの態度など意に介することもなく続けた。

だって、暇なんだもん!

「・・・性別は女性だろう」

俺の態度に諦めたのか、ミアも自身の考えを述べた。

「その心は?」

フェアムール寮で空いているのが私との相部屋だけだからだ」

「なに、お前と新入生ってルームメイトになるの?」

「おそらくな。私が監督役に選ばれたのもそれが理由だろうし。だから正直な話、女性でないと私としても非常に困る。まぁ、流石に先生もそこは配慮してくれるだろうが」

「・・・だといいな」

俺も心底そう願った、相手のために。

「加えるなら、この時期に異例の入学が許されているのだから、何らか由緒ある家柄の方かもしれないな」

「んなの、ウチの学院では珍しくもないだろ?」

「可能性の一つだ。もしくは何らかの魔術に秀でていているのかもしれない」

「あ~、それはあり得るかもな。もしくは、もっと単純な話で、魔力の量が他の奴より多いのかもしれないな」

「ただ、どれも推論の域を出ない話だがな」

「確かにな。ま、会ってみてのお楽しみ「・・あの」って、ん?」


後に、ミアはこの時のことを振り返りこう語った。

―あの時、私達に非は無かっただろう。

―私たちは相手の特徴について何も教えられていなかったのだから。

―もし教えられていれば、相手が話しかけてくる前に、その存在に気づいたはずだ。

―誰が想像出来ると言うんだ?

―同級生となる新入生が、自分たちより遥かに幼い少女であるなどと。


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