父が〈巨匠の遺作〉として売った絵、全部私が描きました ~無名の令嬢画家、王都一の鑑定士と自分の名前を取り戻します~
最新エピソード掲載日:2026/10/28
「二百年前の巨匠ロランドが、晩年に描いた傑作です」
競売場に響く父の口上を、ベレニスは最後まで聞けなかった。
金色の額の中の白猫は、昨日、自分の寝台で寝ていた猫だ。
「お父様、その名画の猫、昨日うちにいました」
会場が静まり返る。父は娘の悪ふざけだと笑い飛ばそうとするが、一人の鑑定士が立ち上がった。
「では、誰にも見せていない下絵を、ここで描けますか?」
蔵の古い画布に、練習のつもりで描いてきた絵。それが巨匠の遺作として売られ、自分には新しい筆一本さえ買えない値段しか渡されていなかった。
その日、ベレニスは初めて、人前で自分の名前を署名する。
王都一の鑑定士シプリアンと訪ねるのは、自分の絵が飾られた屋敷や画廊。名画を手放したくない持ち主もいれば、作者の名前など気にしない人もいる。だから、描いて見せる。自分にしか描けない一枚を。
「君の絵は好きだ。でも、この見積もりには反対する」
「……高すぎますか?」
「安すぎる。額縁より安い画家があるか」
一枚ごとに名前を取り戻し、本当の客を増やしていく。やがて彼が大切に隠していた絵にも、見覚えのある署名を見つけて――。
競売場に響く父の口上を、ベレニスは最後まで聞けなかった。
金色の額の中の白猫は、昨日、自分の寝台で寝ていた猫だ。
「お父様、その名画の猫、昨日うちにいました」
会場が静まり返る。父は娘の悪ふざけだと笑い飛ばそうとするが、一人の鑑定士が立ち上がった。
「では、誰にも見せていない下絵を、ここで描けますか?」
蔵の古い画布に、練習のつもりで描いてきた絵。それが巨匠の遺作として売られ、自分には新しい筆一本さえ買えない値段しか渡されていなかった。
その日、ベレニスは初めて、人前で自分の名前を署名する。
王都一の鑑定士シプリアンと訪ねるのは、自分の絵が飾られた屋敷や画廊。名画を手放したくない持ち主もいれば、作者の名前など気にしない人もいる。だから、描いて見せる。自分にしか描けない一枚を。
「君の絵は好きだ。でも、この見積もりには反対する」
「……高すぎますか?」
「安すぎる。額縁より安い画家があるか」
一枚ごとに名前を取り戻し、本当の客を増やしていく。やがて彼が大切に隠していた絵にも、見覚えのある署名を見つけて――。
1. その猫、昨日うちにいました
2026/10/28 13:16