第一話:シュヴォ・シェル・ハモレド
はじめまして、そしてこんばんは。狐 のこです。
数ある作品の中、手に取っていただきありがとうございます。
この作品は、小説賞に応募するために制作したものです。そのため、応募した内容が全て終わればそこで打ち切るつもりです。
そこそこ読まれていれば続きを制作するので、もし気に入って頂ければ応援してもらえると嬉しいです。
冥界最下層「オーラム・メヴーダード」。ここにはかつて天界を滅ぼしかねないほどの大罪人が送られる。神々が恐れた化け物種族を束ねた長。かつて天界の神であったが自身の強さに溺れ天界を支配しようとしたもの。理由は様々だが、その罪状は全てここに送られるにふさわしいものばかりだ。
ここに送られたものに死というものはない。死を超える苦痛を味わうことになる。全身の自由を奪われ、時間から断絶された空間に放り込まれ、そこで永劫に存在することになる。
オーラム・メヴーダードの入り口は堅固であることを感じさせる。漆黒の両開き形状の扉。そのてっぺんは肉眼でとらえることがやっとなほどだ。扉に手をかけるところはなく、押し引きでしか開けられないようになっている。
そんな監獄の入り口に二体の化け物が現れた。
片方は人間の身体、ワニの顔をしている。腕が太く、横幅が大きい。そんな身体を支える細い足。よくあの上半身を支えているなと感じてしまう。
もう片方は六本足の猫のような見た目をしている。銀色の身体に黒のまだら模様が散らばる毛色。顔は目の周りが黒、それ以外が銀という配色だ。
どちらも身体にあった鎧を着ており、背中からは真っ白な翼を生やしている。
二体は門の左手に立ち両手を当てる。
「いくぞ、せーの!」
ワニ頭の掛け声と同時に二体は腕に力を集中させた。
漆黒の扉は鈍い轟音を出しながら、毎秒数センチのペースで開いていく。
やがて門を通れるほどの隙間ができると、二体は体を横にしながら隙間をくぐっていった。
中に入ると二体は先ほど開けた方の扉に手を当てた。
「もう一度行くぞ。せーの!」
二体はもう一度腕に力を集中させ、先ほど同様鈍い轟音を開けながら門を閉じた。
「はぁ…、はぁ…。ちょっと休憩してから行きません?」
「そうだな…。ちょっと休んでから行くか。」
猫頭の案を聞き、二体は門に寝そべりながら座り込んだ。
「それにしても、こんな場所を巡回する必要なんかあるんすか?」
「ここに送られたものは全員、この程度の拘束を易々と解く怪物ばかりだ。そいつらがここから逃げ出さないか、数年おきに確認しなければならん。」
「とはいっても、これほどの拘束を解いて脱獄するとは思えませんがねぇ。」
猫頭はそう言うと、床に丸まるように寝転がった。
「ハトゥール、今は仕事中だ。寝転がるのはやめろ。」
ハトゥールと呼ばれた猫頭は渋々起き上がり、先ほどのように寝転がった。
「いいじゃないっすかタヌィンさん、どうせ誰も見てませんよ。」
「駄目だ。どんな仕事であれ、手を抜くことは許されん。」
ワニ頭:タヌィンの言葉を聞き、ハトゥールは口を膨らませながらそっぽを向いた。
(まったく…。頭の固い神様だなぁほんと。)
ハトゥール・ミフレ。冥天界治安維持組織「シェメゲン」に所属する神。数年前に配属され、今回初のオーラム・メヴーダードの巡回にあたる。
タヌィン・ツェット。ハトゥール同様、冥天界治安維持組織「シェメゲン」に所属する神。所属歴千年超えのベテランであり、オーラム・メヴーダード巡回も何十回と経験している。
「さて、そろそろ行くか。」
「えー、もう少し休んでからにしません?」
「十分休んだ。行くぞ。」
「へーい。」
二神はオーラム・メヴーダードの奥に進んでいった。
「にしても、本当に不気味っすね。」
ハトゥールはあたりを見渡しながら呟いた。
両側に並んでいる独房。そこにいる罪人は宇宙空間にいるかのように宙に浮かされている。全身を拘束され、一切の自由がない状況。この状況に苦しみ錯乱する者。全てを諦めピクリとも動かないもの。この空間に閉じ込められる過酷さがそれらを見ているとひしひしと感じてくる。
「まぁ、こんな場所になんか普通行くことはないからな。」
っすね。とハトゥールは相槌をうつ。
オーラム・メヴーダード内に二神の足音のみが聞こえる。独房内の音は独房外に届くことはない。故に、罪人がいくら物を申そうと二神に届くことはないのである。また、罪人は巡回神を見ることができない。五感すべてを封印されているからだ。
一方、巡回神は罪人の様子が見れる設計になっている。こうすることで、巡回神の負担を減らしながら罪人どもの監視が出来るというわけだ。
「そういえばハトゥール。」
タヌィンが突然口を開いた。
「扉の前で休んでいた時、『これほどの拘束を解いて脱獄するとは思えない。』って言っていたな。」
「まぁ、確かに言いましたけど。」
「そんなお前にクイズだ。このオーラム・メヴーダードから逃げ出せた者がどれほどいたと思う?」
「そりゃあ、ゼロであってほしいですけど…違うんでしょ?」
「65だ。」
「え?」
ハトゥールは唖然とした。
「だいぶ欠陥じゃないすかこの監獄!」
「違う。さっきも言っただろ。ここにはこの程度の拘束を易々と解く怪物ばかり収監されていると。」
「僕たちの全力の拘束をもってしても完全に縛ることができないってことすか…。だとしたら65回って少なくないすか?」
「まぁな。一つだけ言えるのは身体的な拷問と精神的な拷問を兼ね備えた監獄だからこそ、どちらかが劣っている化け物を収監できているってことだな。」
「てことは65体の化け物は両方とも化け物ってことすか。恐ろしい。」
ハトゥールは失笑交じりに言った。
タヌィンはそれに釣られるように軽く笑った。
「ちなみにその65体の化け物はどうなったのですか?」
ハトゥールは無垢な表情でタヌィンに聞いた。
タヌィンは軽く笑いながら言った。
「そりゃあもちろん、全員天界に届く前に消されたに決まっているだろう。」
「ですよね~。天界まで来ていたら大騒ぎになっていますしね。」
「そうだな。天界に届く前に食い止めてくれた先神達に感謝だな。」
「っすね~。」
二神は笑い合いながら苦しむ化け物どもを横目に進んでいった。
「タヌィンさん、奥に進んでいくほど強力な化け物が収監されているんすか?」
「いや、奥に進んでいけばいくほど長く収監された物という並びだ。」
「なるほど~。」
タヌィンとハトゥールは休憩することなく奥に進んでいく。
「にしてもどれくらいあるんすかこれ。」
「今でだいたい…収監歴約三千年ほどだな。だいたい半分くらいのところまで来たぞ。」
「これだけ歩いてまだ半分なんすか…。」
ハトゥールはガクッと肩を落とした。かれこれ1時間以上漆黒にくるまれた化け物を横目に歩き続けている。足への負担はないが、景色が変わらぬことに退屈してきているのである。
「いいから肩をあげろ。お前が志願したんだろ?」
「だって報酬がいいじゃないっすかこの仕事。だから志願したんすけど想像以上に退屈すぎて…。」
「もっと下調べするべきだったな。」
「ですね。誰も行かないわけですよ。」
「まぁ、帰ったら奢ってやるよ。」
「マジっすか!?じゃあ頑張ります!」
ハトゥールは肩をあげ、前足を大きく振りながら中足と後ろ足で歩き出した。
「お前4本脚でも歩けるんだな。」
「戦闘態勢時はずっとこれですよ。」
「なら今は戦闘に備えて下ろしておくべきではないのか?」
「大丈夫っすよ。どうせ何も異常なんてないですよ。」
ハトゥールはタヌィンに満面の笑みを見せた。タヌィンはそれを見て口角をわずかに上げた顔で返した。
ハトゥールはタヌィンの笑顔を見た後正面を向いたその時だった。
急にハトゥールが立ち止まったのである。
「どうしたハトゥール。」
ハトゥールはゆっくりと前足を下した。タヌィンはそんなハトゥールを見てすぐさま正面を向いた。しかし、タヌィンの目には相も変わらない景色が映っていた。
「タヌィンさん。」
ハトゥールはタヌィンに話しかけた。その声は微かに震えていた。
「どうした?」
「ここって空いてる部屋ってないですよね?」
「ああ。」
タヌィンの脳裏によぎる❞最悪❝。タヌィンは脳裏で理解しながらも、必死に否定しようとした。
「私には特にこれといった異変はないぞ。」
タヌィンは震えがわずかに混じった声でハトゥールに言った。実際、タヌィンが視認できる3つ先の独房までの間に異変は一つもない。しっかり独房内に宙に浮かされた罪人がいる。
「5つ先の部屋…。」
それを聞いたタヌィンは走り出した。ハトゥールもそれについていく。
ハトゥールが言った独房がタヌィンの視界に入った瞬間、「マジかよ…。」とタヌィンは心の声を漏らした。
その独房は、拘束具が抜け殻のような状態で宙に浮かされており、独房の入り口も反対側の独房まで吹き飛んでいた。




