少し遅めの昼休憩にて
この話はフィクションです。
少し遅めの昼休憩をとるために、チェーンの喫茶店に来た。
先に飲み物を注文し、席に座って店内を見渡すと、店員や客が隣り合わせな二卓のテーブル席を凝視していた。
ひとつのテーブルには女子高生が三人ほどいて、もうひとつのテーブルには六十歳ほどの爺さんが座っていた。
俺はそこから離れた席に座り、遠くから彼、彼女らを見ていた。視線の間にいる客も、俺と同じ方をチラチラと見ていた。
「そうかぁ!来月からここでバイトねぇ……めでたいじゃない!」
爺さんが、壁際に座ってた女子高生に言った。
「そうなんですよ!がんばります!」
壁際に座っていた女子高生は元気に答えてた。
「昔からこのお店好きだもんねぇ」
「頑張りなよー!」
対面に座ってた二人の女子高生が、笑っていた。
「そしたらひとつ、アイスでも奢ってやろう」
「えーー!いいなぁ!」
「良かったねぇ!」
爺さんが得意げに言ったあと、女子高生二人が羨ましそうに言った。
一個かよって思った一方で、よくもまぁこの時代にそんな行いをするもんだとも思った。
「い、いいんですか?」
「かまわん、かまわん!俺みたいな老ぼれがお金を持ってたってしょうがねぇ!このチョコアイスで良いか?」
爺さんは女子高生の返事を待たずに店員を呼んで注文した。
女子高生は申し訳なさそうに、でもちゃんとお礼を言っていた。
ほどなく、チョコアイスが卓上に置かれた。その時に店員が持ってきた伝票を爺さんが受け取り、席を立った。
「じゃあな、頑張れよ!」
「ありがとうございました!」
女子高生は元気よく言った。爺さんは満足げに笑いながら会計を済ませ、退店した。
「優しいお爺さんだったねぇ」
「も、貰っちゃった……本当に良かったのかな……断った方が良かったのかな……」
「いいのよ。美味しく食べなー?」
壁際の女子高生が不安そうだったのに対し、二人の女子高生が肯定した。
ここで奢った事を持ちかけられる不安というのはあるかもしれないが……
あの爺さんの雰囲気からして多分大丈夫だろう。
自分がお金を持っていたってしょうがないと言っていたし、自ら奢ったのだからそういう筋にはならないだろう。
私は会計を済ませら退店した。最後に女子高生はひとりで美味しそうにチョコアイスを食べていた。
そんな微笑ましい光景を見たのが、三月の下旬頃のことだ。
先週、私は同じ喫茶店に訪れた。
この前見た爺さんが、同じ席に座っていた。
「しかし残念だなぁ。ここでじゃなくて別のお店で働くことになるなんてなぁ」
爺さんは天井を見上げてぼやいていた。
おおかた、チョコアイスをご馳走していた子がここで働いていないとか、そんな話なのだろう。
さもありなんとか、予想できたことなので、なんとも言えない気持ちになった。店員も残念ですねぇと話を合わせていたが、見せた笑顔は苦笑いにも見えた。
「まぁ恩を着せるようなのはシャバイがなぁ。ちと寂しいなぁ」
俺が注文をしたあと、もう一度嘆いていた。
何度も言うものじゃないだろうに。そんな事を思いながら、爺さんをちらと見たら、ちょうど目があってしまった。
「そういやあの日、にいちゃんもいたなぁ」
しかも俺のこと覚えてるのかよ。
「なぁ、覚えてるか?俺、あの日、女の子にチョコアイス奢ってただろう?あの子、別のお店に行くことになったんだと」
「へ、へぇ〜そうなんですね」
「元気な子だったからなぁ。お店もより明るくなると思ったんだが……寂しいなぁ」
うーん、この発言はグレー……もしくは、俺が気にしすぎなのだろうか。
いや、店のことを爺さんがどうこう言うのは筋違いだしなぁ……
なんとも返せず、静かに爺さんの話を聞いてたら、爺さんが返事を求めてきた。
「なぁ?思わんか?」
「そう……ですね。まぁでも、別のお店でも元気にやってますよ」
「そうかのう」
なんとしてもこの中身のない会話を終わらせたい……
「また、三人で仲良くしてるんじゃないですかね。二人はお客さんとしてかもしれませんけど」
とりあえず話を切り上げようと、それっぽく言って席を離れようとしたら、爺さんが怪訝な顔をした。
「三人?二人?なんのことだ?」
「……先月の話ですよね?ちょうどお爺さんの右隣のテーブル先にいた女子高生三人組にチョコアイスをご馳走してた……」
「俺には女の子一人しか見えなかったが……一人で来るなんて珍しいから、声をかけたんだ。チョコアイスもひとつしか奢ってなかっただろ?」
まさか、ひとりしか眼中になかったのか?
けど、爺さんは首を傾げてる。嘘をついてそうには見えない。
じゃあ、俺が見えてたあの二人は……?
「「……ぇえええええなになになになにこわいこわい!!」」
俺と爺さん、二人で呼応するように怯えた。
その時、たまたま同じ日に来ていた客や店員にも聞いたが、三人いると言う人もいれば、一人だけだったと言う人もいた。
俺たちはよりいっそう、怖くなった。
その出来事がきっかけで、俺と爺さんは仲良くなった。爺さんには息子がいるが離れた場所にいるようで、奥さんには先立たれたらしい。ただ単に寂しがり屋なだけだった。
ボードゲームが凄く好きと言っていたので、月末、他にいた客も混じえて、ボードゲームカフェに行く約束をした。
女子高生が何人だったか、結局わからない。
そんな、ほんのり怖い話。
啝賀絡太です。
今回はとっても短い話。ヒトこわかと思ったらナゾこわ的な。ナゾこわってあるんだろうか。
見ず知らずの子に奢る人は流石にいないだろうと思いましたが、実際にいるんでしょうか。
もし本当にいて、気分を悪くされたらすみません。
決してご馳走してあげる自体を責めるつもりなどはありません。
ただまぁ、もしそこで良いことしてもらったことを根に持たれたらやだなぁという、僕の卑屈な考えから、更に実はご馳走してもらった側が幽霊とかだったら怖いなぁみたいな考えから浮かんだネタでした。
また次のお話で会いましょう。
啝賀絡太でした。




