最終話 自己物件のその先で
第31章 自己物件のその先で
地元を離れてから、気がつけば二年が経っていた。
あっという間の時間だった。
あの部屋にいた頃、終わらないと思っていた闇も、
気づけば抜け出すことができていた。
完全に元の自分に戻れたわけではない。
でも、それでいいと思えた。
この土地に来てから、ひとつの出会いがあった。
それは、ずっと探し続けていた夢。
「将来なにになりたいですか?」
その問いに、今の私は迷わず答えられる。
成功することがゴールじゃない。
挑戦することに意味がある。
そう思えるようになった。
叶うかどうかわからない夢でもいい。
無駄な時間なんて、ひとつもなかったと気づけたから。
DV保護施設にいたことも、引きこもっていた日々も、すべて無駄じゃなかった。
私は、この人生で、天国と地獄の両方を見てきたのかもしれない。
先日、地元に帰ったとき、
今勉強していることを友人に話した。
「去年、実は一度落ちちゃってさ。今年またリベンジなんだ」
そう伝えると、
友人は自分のことのように喜んで、応援してくれた。
その言葉は、うわべじゃなかった。
心からのエールだった。
だから、嬉しくて、思わず泣いてしまった。
逃げてばかりだった私が、
挑戦しようとしている姿を応援してくれたことが、ただ嬉しかった。
夢を見つけた私は、まるで世界が変わったようだった。
周りが優秀すぎて、劣等感ばかり感じていた子ども時代。
いつも上ばかりを見て、
自分を「負けている」と思い込んでいた。
でも今ならわかる。
自分の人生は、何度でもやり直せる。
つらいときは、仮面を被ってもいい。
それは、自分を守るためのものだから。
最近は、本音を話せる友人も沢山できた。
私は、必要なときに、自分の中の「女優」にもなれる。
周りの評価なんて関係ない。
私の人生では、私が主人公なのだから。
DV保護施設のことは、きっとメディアに取り上げられることはない。
それは、
たったひとつの、被害者たちの逃げ場だから。
でも、心に誰にも言えない傷を抱えている人は、きっとたくさんいる。
だから、伝えたい。
こんな私でも、ここまで来ることができた。
まだ途中でもいい。
まだ山に登る途中でもいい。
それでも、生きていれば、きっと報われる日がくる。
たとえそれが、
誰にも言えない過去の上に立っていたとしても。
あの頃の私は、
きっと自分自身を「自己物件」にしていた。
その傷は、きっと今も残っている。
それでも今、
亡くした先生や、亡くなった友人の想いを背負いながら、私は強く生きている。
それでも、私は自分の人生を生きている。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
この作品は、私自身の経験や感じてきたことを、ありのままに書いたものです。
書いている途中、何度も手が止まりました。
思い出したくないことや、言葉にしたくない感情もありました。
それでも書こうと思えたのは、あの頃の自分と同じように、誰にも言えない何かを抱えている人が、どこかにいるかもしれないと思ったからです。
自分の悩みを言葉にできなくなったとき、それが一番危険なのだと、私は思います。
この作品が、誰かの中にほんの少しでも残るものになっていたら嬉しいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
巳ノ星 壱果




