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光弘の告白 1

 俺と(しょう)は、光弘(みつひろ)を挟むようにして布団に横になった。


 本当は話したいことや、話さなければならないことがたくさんあるのに、強烈な眠気に逆らうことができず、あっという間に眠ってしまった。


 深い眠りの世界で、俺は誰かに名を呼ばれ、振り返った。

 振り返ると同時に、視界が真っ白に染まる。


 シミ一つない純白の世界に、(ゆい)を肩に乗せ、光弘(みつひろ)が一人たたずんでいた。

 両隣に気配を感じ視線をやると、いつのまにか勝と都古も立っている。


 「約束を果たしたいんだ。聞いてくれるか?」


 光弘はそう言って、哀しそうな瞳で微笑んだ。


 その言葉に、俺たちはこれがただの夢ではないことを知った。

 視線を交わし合い、光弘にむかってうなずく。

 そんな俺たちに、真剣な眼差しでうなずきかえすと、光弘は謝罪の言葉を口にした。


 「ごめん。本当は自分の言葉で全部話したい。けど、俺・・・あまり話さないようにしてたから。上手く話す自信がないんだ・・・・。」


 その言葉の意味に思い至り、俺はたまらない気持ちになった。


 恐らく本来光弘は、今ほどは無口じゃなかったんだ。

 自分の声が、言葉が、誰かを傷つけたりしないよう、話さないだけで・・・・・・。


 まともにしゃべれなくなるほどの長い時を、光弘は独り・・・ずっと我慢していたのだろうか・・・・・そんな想いが胸をふさぎ、俺は言葉につまった。


 「俺の過去に何が起きたのか見て欲しい。」

 

 そう言うと光弘は、視線を伏せ大きく1つ息をついた。

 色を失った瞳で顔を上げた光弘の、形の良い唇から紡がれる言葉に、俺たちは息をのんだ。


 「俺は・・・・・姉さんを、殺したんだ。」


 光弘の肩に乗る癒の瞳が紅く光った。

 真っ白だった世界が色を変え、形を成していく。


 すぐ目と鼻の先に、庭木の上に集う光の塊に向かって話しかける、制服姿の少女が現れた。


 『姉さんだ。』

 光弘の切ない声が聞こえた。 


 肩より少し長い、薄茶色の艶やかな髪。

 光弘にとてもよく似たその美しい少女の瞳は、紫がかっているように見える。


  偶然、家の前の通りで話し込んでいたらしい女の人たちが、彼女の姿を目にとめ、眉をひそめ口々に並べ立て始めた。


 「やだ。楓乃子(かのこ)ちゃんよ。また一人でしゃべってる。」

 「ほんと、いつ見ても気味が悪いのよね。」

 「うちの子が真似したらどうしよう。」


 楓乃子が話しかけている光の塊は、他の人の目には映っていないようだった。

 目をこらせば、光の中心に小さな人の形の影が見える。

 楓乃子はその影と話しているのだ。


 その一部始終を、家の中から一人の年老いた女性が冷たい目で見つめていた・・・・・。


 溶けるように景色が崩れ、気づけば俺たちは、薄暗いリビングに立っていた。

 テーブルをはさみ、姉の楓乃子と、祖母と思われる先ほどの老婆が立っている。 


 「まったく。お前の外見だけでも口さがなく言われているものを・・・・何もないとこへ向かってひとりでブツブツと・・・・・。本当に、気味が悪いったらないよ。お前のせいで、この家の者までおかしく思われてるんだ。」


 黙って下を向いている楓乃子に、光弘の祖母はいら立ちを隠さずどなりつけた。


 「いつまでそこにいるんだ。居候が!お前など、早くこの家から出て行ってしまえばいいのに・・・・。」


 祖母の言葉にうつむいたまま、楓乃子は無言で力なく階段を上って行った。

 その後ろを、少年が追いかけていく。

 光弘だ。


 「おやおや。実の婆ちゃんを独りで残して・・・薄情な孫だねぇ。思いやりも優しさも欠片もありゃしない。人の気持ちがわからないんだろうね。本当に冷たい人間だよ・・・・光弘は。」


 光弘は、階段の途中で足を止めた。


 「お婆ちゃん。ごめんなさい。」


 そうつぶやくように言葉を落とし、光弘は再び階段を駆け上がって行った。


 光弘の祖母が吐き出す悪意に満ちた言葉と、光弘の傷つき落ち込んだ声音が、心へ重くのしかかってくる・・・・・。


  再び景色が崩れ、楓乃子の部屋と思われる場所へと場面は変わった。

 泣きじゃくっている幼い光弘と楓乃子の姿が現れる。


 「姉さん。どうして何も言わないの?僕、お婆ちゃんに言ってくる。僕にも姉さんと同じものが見えるんだって・・・・。姉さんは一人でしゃべってるわけじゃないって。」


 幼さの残る高い声でそう言って部屋から飛び出して行こうとする光弘の腕を、楓乃子が握りしめた。


 「みーくん。約束したろ?いいんだよ。これで。」

 「僕は、嫌だ!姉さんがあんな風に言われるなんて、許せないんだ・・・・・。」


 光弘の言葉に、楓乃子が愛おしくてたまらないという風に、光弘の小さな身体を抱きしめた。

 ベッドに腰掛けると、楓乃子は光弘を自分の膝に座らせた。

 

 「幸せになって欲しいんだよ。だから、言わないで・・・・・お願いだよ。私は、大丈夫。」


 そう言って光弘の顔を覗き込み、楓乃子は心から幸せそうな笑みを見せた。

 景色が再び溶け始めた・・・・・。


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