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癒 1

思いっきり文章が飛んでいたので、訂正しました。

 (ゆい)・・・・・。

 近く、遠く響く大樹の声に名を呼ばれ、今まさにそこから生み落とされたばかりの癒は、ゆっくりと目を開いた。

 身体を丸めたまま、考え込むようにじっとしていた癒の黒い瞳がほんの一瞬(あか)く輝いた。


 柔らかな白銀の毛並みに、仔猫の身体、しなやかな翼。

 生まれたばかりの小さな神妖(じんよう)は立ち上がると身体を伸ばし、確認するように自分の身体を眺めた。


 癒は周りを見回し、つまらなそうに顎をフイと上げる。

 その仕草からは傲慢(ごうまん)さが感じられ、ふわふわの愛くるしい外見とは全くそぐわない。


 突然、突風が吹き荒れ、つむじ風となって癒を襲った。

 癒の耳の先から、小さな何かがキラリと転がり落ちたが、それに気づく者はいない。

 

 「くははははーっ!さっそく飯が転がってきやがった。ここでワナ張ってりゃー、柔らけえ子供の肉が食いたい放題ってもんよ!」


 耳をつんざくような大声を吐き出しながら、無数の鋭い歯の生えた巨大なクチバシが、つむじ風に囚えた癒を一飲みにしようと口を開け襲い掛かかってくる。


 癒は目を細めた。

 瞳が紅く煌めくと同時に、巨大なクチバシが見えない壁にはじかれる。

 癒の姿が紅黒い光に包まれ、一瞬の後に漢服に似た黒衣(こくい)(まと)う青年の姿に変化した。

 その姿は長い髪とつむじ風に隠れ、はっきりとは見えない。


 「紗叉(さしゃ)


 青年の呼ぶ声が甘く静かに響くと、腰の辺りから薄紅色に輝く長い糸が美しい渦を巻いて現れた。

 巨大な神妖によって起こされていたつむじ風が、紗叉によってかき消される。

 紗叉は巨大なクチバシの主をからめ取ると、一瞬で細切れに切り刻んでしまった。

 血しぶきを振り飛ばしてその身を綺麗に整えると、嬉しそうに癒に絡みつく。


 「待たせたな。」


 青年は冷たく微笑み、しばらく紗叉の望むままに身体に触れさせ指を絡めていたが、何かに気づいたように、腰に帯びた空の(さや)へ紗叉を収めた。

 先ほどまで長い糸であった紗叉が、美しい一振りの刀となって青年の腰へ収まっていく。


 青年は神妖の血だまりの中を優雅に歩き、自分を見つめていた瞳の前に進むと、小さくうなずいて挨拶を交わした。

 凛としたたたずまいから溢れる気品と、冷たく底の見えない威圧感は、今生まれた神妖のそれではない。


 青年は再び癒へと姿を変え、翼を広げ高く高く舞い上がり、大樹の頂上にある神代(かみしろ)の枝へと向かった。

 神代の枝は、その葉に様々な世界の物語を映し出す。

 そのうちの一枚に光弘(みつひろ)の姿が映っていた。


 癒は、青年の姿に戻って舞い降りると、光弘を映す葉を指でなぞり、切なく目を細めた。


 まだ、傍には行けない。

 強くなければ、共にいる資格などない。

 守れなければ、共にある意味がないのだ。


 それに、この世界から冥府以外の異界へ転移するには、彼呼迷軌(ひよめき)の加護が必要だ。

 癒は、自分にはそれが与えられないことが分かっていた。

 自分のような(けが)れた裏切り者を彼呼迷軌は受け入れたりはしないだろう。

 何か別の策を考える必要がある。


 艶めく漆黒の長い髪と、同じ色の瞳を(きら)めかせ、癒は苦し気に表情を歪め、天をあおいだ。

 癒は何も後悔はしていない。

 大切な人の傍らに常にあれないことが、ただひたすらに切なく哀しいだけだ。


 光弘の姿を目に焼き付けるように眺めると、青年は癒へと姿を戻し、命逢(みお)を眺めるように何度か旋回した後、一撃の落雷となって一直線に()ちていった。



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