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白妙と癒 2

 光弘(みつひろ)の無事に安堵し、笑顔を見せている子供たちと、(かたわ)らに寄り添う(ゆい)

 まだ意識を失ったままの秋津(あきづ)は、(あげは)が「養生させる」と言い連れ帰って行った。


 その様子を見つめながら、白妙は、彼にしては珍しく酷く悩んでいた。

 久遠(くおん)翡翠(ひすい)も白妙と同じ考えを巡らせているのか、彼にどうしたものかと視線を送っている。


 白妙は、癒の存在を測りかねていた。


 命逢(みお)の大樹は、この世界の(かなめ)であり、自分たち神妖の産みの親のような存在である。

 その幹は非常に硬く、並みの神妖では小さな傷をつけることすら容易ではない。

 にもかかわらず、大樹の根元は癒によって無残にも大きくえぐり取られていた。


 大樹に物理的に穴を開けたところで、他の天地への扉は開かない。

 神妖たちが世界を超えて移動するためには、彼呼迷軌(ひよめき)の加護が必要なのだ。


 癒にはそれがわからなかったのだろう。

 ぼろ雑巾のようになるまで大樹にぶつかり続け、結果、ここまで大きな傷を与えるまでに至った・・・・・・。


 しかし、仮に一夜明けるまでの時間をかけたとしても、これだけの大きな穴を穿(うが)つのは、妖月(ようげつ)の神妖でも難しいものだ。

 同じことを成せるのは、白妙の他、海神(わだつみ)加具土命(かぐつち)くらいのものだろう。


 この癒という神妖には、あまりにも不可解な点が多すぎた。


 なぜ、見たことすらないはずの光弘を知っていて、これほどまでに強く執着しているのか。

 なぜ、生まれたばかりの神妖であるのに、自分たちに匹敵するほどの強い力をもっているのか。

 なぜ、彼呼迷軌の加護が与えられていないのか。

 なぜ、言葉を話さないのか・・・・。

 

 だが・・・・・・。


 秋津が吐き出された直後、光弘の身体を黒霧が覆った時。

 皆が秋津に気を取られている中、癒は光弘にまとわりつこうとする(もや)をすかさず(はら)っていた。

 まるで、例え靄であろうが光弘に触れる事は許さない、というように・・・・・。


 秋津を助けるために光弘が祝印の力を使っている時は、癒は目を細めそっと寄り添っていた。

 何かを耐えているように・・・・・・。


 光弘が術の反動を受けた時・・・・・2人を包み込んだあの光は、恐らくは癒の発したものであろう。

 他の者たちの目をくらませ、光の中で癒がなにをしていたのかまではわからなかったが、窮地に陥った光弘を助けたのは、間違いなく癒なのだ。

 

 光弘の心に忠実で、近寄るものを許さず、守り抜くために手段を選ばない・・・・・愛らしい見た目とは違い、癒からは殺気にも近い強い信念が感じられる。


 白妙は、観念したように、長く息を吐き出した。

 

 宵闇から光弘を解放するためには、こちら側から力の激流を起こし、奴の領域へ侵入する必要がある。

 だが、子供たちにその力はない。

 彼らを鍛錬するための・・・・今は時間が必要だった。

 そのためには、いつ子供たちを襲ってくるとも限らない黒霧を抑え、光弘の領域を守っておく必要がある。


 これは簡単ではないことだった。

 『界』にほど近い『達』の位であった秋津が、餌食になった相手だ。

 正直、妖月の神妖以外が相対するのは、自殺行為に等しいものである。


 白妙は、光弘の肩で頬ずりしている癒に声をかけた。


 「癒。お前に光弘を任せたい。来るべき日まで、黒霧を抑え子供たちを守りたいのだ・・・・・。出来るか?」


 癒は探るような視線で白妙を見つめた。


 「白妙、待て。秋津がこのような目に合うほどの役を産まれたばかりの神妖に任せるというのか。」


 「それはあまりに酷というもの。言葉すら持たず変化(へんげ)もままならぬ幼き者に任せるのは・・・・・。死ねと言っているようなものだぞ。」


 朱華(はねず)加具土命(かぐつち)の言葉に、白妙は「言いたいことはわかっている」とうなずいた。


 「正直、私とて迷っているのだ・・・・・。」


 白妙の言葉に、沈黙が広がっていく。

 その沈黙を破ったのは、光弘の哀しい台詞(せりふ)だった。

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