祓 1
俺たちが引き受けた事を受け、早速、最低限必要な知識を久遠と翡翠が教えてくれた。
まず、俺たちの手首に現れた”祓”と呼ばれる刻印についてだ。
これがあることで俺たちは彼呼迷軌とつながりを持つことができる。
その力を借りて神通力・・・・移動や神眼などの能力を使うことができるようになるらしい。
ただし、それにはいくつかの注意事項、というか条件がある。
まず、祓を使用するためには基本、"言霊"が必要である。
言霊とは、魂を込めて紡ぐ言葉・・・・願いや祈り、そして怨念のこもった言葉のことだ。
言霊を使用することで、使用する術に思い通りの形や能力を与えやすくなる。
妖力を粘土に例えるなら、言霊は型だ。
言霊という型の中に、妖力を詰め込んで形にする。
妖力は形になって初めて、術として力を発揮できるんだ。
それから、行使できる術の精度。
これは各々のもつ、心の強さとイメージの鮮明さが決定づける。
使える術の数や速度、力の強さ、連続して使用可能な回数や時間、正確さなど、様々なことが異なってくるようだ。
最後に、術の使用についてだが、彼呼迷軌の判断により使用できない場合がある。
悪事に利用しようとしても、彼呼迷軌がそれを認めない限り、術は発動しないのだ。
「では、みなさん。さっそく練習してみましょう。まずは、ここからあの川の向こう側まで、祓の能力を借りて移動してください。レクチャーは頼みますよ。久遠先生。」
いきなり話を振られた久遠は、呆れた顔で翡翠を見返した。
が、言っても意味がないと思ったのか、ため息をつき頭を横に振ると、気を取直して俺たちと向き合った。
「移動を行うには、基本として神眼と移動の2種類の術を使用する。祓を使用する時は、祓に呼び掛けるような感覚で言霊を使うんだ。言葉を撃つといったほうが近いかもしれないな。僕がやってみるから、見ていてくれ。」
言うと、久遠は伏せ目がちになった。
「見せろ。」
久遠が祓を使用したことが、すぐにわかった。
瞳が月の色に輝き出したのだ。
「今、僕にはあの川向こうの景色が見えている。その景色の中に自分が立っている姿をイメージするんだ。そして・・・・」
一度言葉を切ると、久遠は人差し指と中指で自分の胸のあたりを指し示し、言葉を発した。
「渡れ。」
途端に、風にさらわれるように久遠の姿がかき消えたかと思うと、小川の対岸に姿を現した。
久遠はまたすぐに姿を消し、一瞬で俺たちの目の前へともどってきた。
「やってみてくれ。」
俺たちはお互い目くばせをしてうなずき合うと、川に身体をむけ、目に意識を集中させた。




