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小野寺都古の物語>出会い 4

 白妙(しろたえ)が消える寸前に残していった言葉と光は、私を正気へと引き戻した。


 目を覚ました私は、感情にのまれてとんでもないことをしようとした自分に愕然(がくぜん)とした。

 自らが深手を負いながら、それでも私を止めてくれた白妙。

 白妙の元へすぐにでも駆けつけたい・・・・・という強い衝動に駆られる。

 が、白妙から託された言葉の意味に私はかろうじてその場に思いとどまった。


 信じがたいことだが、白妙の残した言葉をそのまま受け取るならば、光弘(みつひろ)は私の住む世界とも無関係ではないということなのだ。


 私は間違っていたのかもしれない。

 後悔から、思わず大きなため息が漏れた。

 真也や勝と笑いあって過ごす日常が宝物だった。失くしたくないと何よりも強く願ってしまった。


 だけど・・・・・もしも白妙が私とともにあったのならば、光弘がこんなことに巻き込まれる前に、止めることができていたかもしれない。

 人の心の移ろいを読む力に()けている白妙ならば、そんな異変を見逃すはずがないからだ。


 考えるほどに、やはり私の願いが・・・・私が秘密を守るために、白妙や両親の干渉を全て拒んでいたことが、光弘へと仇をなしてしまったのだとしか思えなかった。


 激しい後悔に(さいな)まれながら、真也から預かった服を光弘に手渡した私は、思わず目を見開いて固まった。


 今まで光弘が首元の開いた服を着てくることがなかったため気付かなかったが、左の鎖骨(さこつ)の辺りに淡い緑色の模様が描かれていたのだ。

 円に縁取られた不思議な文様が、ゆっくりと寝返りを打つように形を変え続けている。


 刻印だ・・・・・。

 やはり白妙が言っていた事と何か関係があるのだろうか。


 刻印自体は、お札やお守りなどと同様こちらの世界でもそこまで珍しいものではない。

 だが、光弘の鎖骨に刻まれたこれは・・・・・。


 刻印をもっとよく見ておきたいという思いに後ろ髪をひかれながら、私は光弘に気づかれる前に、そっと視線を外した。


 もちろん刻印のことは気になる。

 だが、体中にできたあざや書きなぐられた言葉は、光弘にとって見られたいものではないだろう。

 これ以上光弘の心の傷をえぐるような真似はしたくない。


 光弘が着替え終えるのを待ってから、私は濡れた髪を拭くためタオルを広げた。

 光弘はタオルが汚れてしまうことを気に病み、私の手を抑え首を横に振り続けている。

 私は、寒さに震えている光弘を後ろから強引に抑えつけ、動けないよう腕の中に閉じ込めると、そのまま問答無用で髪を拭き始めた。


 腕の中の光弘は冷たくて。そして、哀しいくらい深く傷ついていた。


 今日までに光弘と交わした言葉は数えるほどしかなかったが、殴りかかろうとする真也を光弘が止めた、あの時。

 私の心には、光弘がどんな心を持つ人物なのかが、切ないほど強く伝わっていた。


 この人は、優しすぎる・・・・・・。


 誰かを守るために自分が今以上に傷つくことを良しとしてしまえるなんて・・・・・。

 心がこんなにボロボロになるまで傷ついているのに、真也の腕を抑えていた時の光弘の瞳は、とても静かで・・・・・綺麗で。

 あの場所にいる誰よりも強くあった。



 私も、真也も、勝も・・・・・光弘が転入してきてから、本当はずっと彼のことが気になってしようがなかった。


 どうしようもなく光弘に惹きつけられるのに、私たちは近づきたいと強く思う反面、なぜか近づいてはいけないような漠然とした不安を感じ、必要以上に近づくことをためらってしまっていたのだ。


 こんなことになるくらいなら、無理矢理にでも話しかけてしまえばよかった。

 私の目から、ボタボタと大粒の涙が零れ落ちる。


 かまわずそのまま髪を拭き続けていると、突然光弘が身体から力を抜き、ゆっくりともたれかかってきた。

 ふいに預けられたぬくもりと光弘の重さに、胸の奥から熱い想いが湧き出し、あふれそうになる。


 光弘の心を苦しめる全てのものをぬぐい去ることができたらいいのに・・・・・。


 そう願いながら髪を拭き続けていた私は、光弘が腕の中で声を出さずに泣いていることに気づいた。


 「頼むから。・・・・・もう・・・独りになろうとしないでくれ。」


 私は、そっと光弘の頭を抱き寄せ、静かに髪をなで、祈るようにつぶやいた。

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