小野寺都古の物語>出会い 3
白妙は、人ではない。
神妖とよばれる、神や精霊のような存在であり私の大切な友人だ。
今日も、学校に通っている私に代わって、父の手伝いをしてくれているはずだった。
それは、野崎を殴ろうとする真也の腕を光弘が止めた直後のことだった。
野崎たちの光弘に対するあまりの所業や残忍な言動。
そして、光弘を腕に抱き込み守ろうとする真也と、真也をかばおうと身構える光弘の姿を目にした私は、あまりに激しい感情の波に殴られたような衝撃を受けていた。
もうこれ以上、私の大切な友人を好きにはさせない。
真也たちを守ることができるならば、例え私の秘密が暴かれることになっても本望だ。
私は、胸の奥から噴き出すような想いに身を委ね、野崎たちをひずみの外へ放り出そうとした。
その時だった。
私の異変に気付いた白妙が、一切ためらうことなく自らの身体を離れ、精神体でこの場へと現れたのだ。
白妙は、暴走している私の意識を無理矢理抑え込みながら、そのまま私の身体に憑依してしまった。
ひずみの外へ放り出す・・・・・そんなことをすれば取り返しがつかないことになる。
ひずみに落ちた人間は、この世界からいなくなってしまうのだ。
それも、ただいなくなるだけでは済まない。
今までかかわってきた者たちの記憶や、存在した証をも引きずり込み、ひずみの外へと持ち去ってしまうことすらある。
生きてきた時間やかかわってきた者の数が少ない子供のような者に至っては、周囲の人間の記憶ばかりか、写真や愛用品に至るまで全てのものが根こそぎ奪い去られ、その存在自体が無かったことになってしまうこともあるのだ。
だがその時の私は、その程度の罰は、この連中にとって当然の報いであると思っていた。
野崎たちを消し去るため、ひずみの繭を手の内に取り出そうとしたその時。
目の前に、険しい表情の白妙が現れた。
他の者に見られることを気遣ってか、精神体のみ移動してきたようだった。
白妙は何も語らず、そのままゆっくりと私に身体を重ねてきた。
怒りに燃え盛る私の意識へ、覚えのある冷気が差し込む。
直感で白妙が私の深層意識へ介入し憑依しようとしているのだと悟った。
だが、術式も組まず一方的に精神に干渉するのは、本来無謀としか呼べない行いだ。
精神への干渉が必須となる憑依は、基本、お互いの同意無くしては成しえない。
最低でも相手の意識を鎮めることが必要なのだ。
相手が意識を失うか、同意することで初めて憑依し、その体を操ることができる。
そのため、なんの準備も無しに精神体のみの状態で相手の中に入り込み、一瞬で憑依をするというのは不可能に近いものなのだ。
しかし、白妙は違った。
白妙であれば分身体を作ることができ、精神誘導の術にも長けているため、力業での瞬時の憑依が難なく可能なのだ。
しかしそれは、相手が私でなければの話だ・・・・・・。
私には生業にかかわる守護のため、防神と呼ばれる術が父の手によって施されている。
防神は私の精神へ許可なく触れるものを反射で攻撃してしまう。
そして、父が施した術をこの場で私が解くことは不可能だった。
ダメだ!白妙!
私は驚き、心の中で白妙に向かって叫んだ。
私の声が聞こえたのだろうか。
白妙が「安心しろ」と言って微笑んだ気がした。
直後。私の意識は、優しい冷気に抱かれ包みこまれるように深みへと沈み込んでいった。




