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170 ゆうじょうをかなたまで ~最終話~

「あ、あ……あぁあああああ?!」


 私の放った拳はお姉さんの内功を貫いた。


 正確には体の外部に影響はないけれど、力の根源がある内部を貫いたことで、これまでため込んでいたものが一気にあふれ出す。


「なん……ガハ……しんじ……らんない……ホントに……終わる」

「だから最初に言ったじゃん。私は知らない」

「この……悪魔……ゴホ」

「なんとでもいえ、バカ。無駄にこんだけため込んで、便秘は体に毒だよ」

「冗談……いってる……場合じゃ……ガハ」


 さて、そろそろ本当に冗談では済みそうもなさそうだ。


 迫りくる大量の悪の波動。


 この黒い煙みたいなものが、このまま広がり続ければ世界を飲み込んで滅亡させてしまう勢いだ。


 そんなことよりも、いまだにこちらへ向かっている私の友達たちがこれに触れると腐って消滅してしまう。


 それだけは断じて許さん。


「それ以上、気持ち悪いものをまき散らさないで。『雷桜の吹雪(らいおうのふぶき)』」


 この戦いが始まる前からずっとまき散らしていた花びらたちを、私を中心に広範囲に展開させる。


 それが大きな壁となり、黒い煙をせき止めた。

 と、同時に乙羽とマイカがその壁に思いっきり激突した。


 ものすごく痛がっているようだけど、許してね。

 これ以上こちらに近づいてこられても困るから。


「キミがなにをしたいのか本当に分からないよ……ゴホ、ゴホ。このままこの世界を滅亡させるのかと思ったら、こうやって抑え込んで……キミはなにを考えている?」


 苦しそうに、あきれ顔でこちらを見ながらそう口にするお姉さん。


「別に。お姉さんが便秘気味みたいだったから、おなかを小突いてあげただけ。その汚物が私の友達を汚しそうだったからそれを止めただけだよ」

「べ、便秘……汚物……ひどい言われようだな……やっぱりキミの方が悪側の人っぽいね」

「アンタがそう思うのなら、そうなんじゃない? それにアンタが言ったよね、私には悪側の力も宿しているって」

「……なにをする気?」

「使わせてもらおうじゃない、コレ」

「え?」


 私は再び、この壁の中に大量の花びらを散らしていく。


「さぁ、永遠に舞い散れ桜。『桜咲き』」


 花びらたちが黒い煙を吸い込んで、光輝いていく。

 その花びらたちが壁の中一杯に広がっていく。


「驚いた……まさか私の悪の根源を栄養分にして花を咲かせているのかい? でも、この私の身からあふれ出しているものを止めないと、同じことだよ? 花びらたちにも吸い込める限界があるようだし」

「そうだね。私の花びらたちだけじゃ、ほぼ無限にあふれ出すものを吸いつくすことはできない」

「ただ破滅までの時間を先延ばしにしているだけだよ? 自分でいうのもなんだけど、これっぽっちのことで、抑えられるほどため込んでいなかったから」

「不本意だけど、花びらたちで吸い込めないなら、直接吸い込むしかないじゃん。不本意だけど」

「え? え?! ぅえ?!」

「じゃあ、いただきます」

「んんっ?!?!?!?! んんん~~~~?!?!?!?!?!」


 う~ん……これはなんか……食事しているみたいだ。


 いま、このお姉さんの口から直接悪いものを吸い出しているんだけど、自分でも驚くほどすんなりと自分の口の中に入ってくる。


 さっき私の花びらが、この悪いものを養分にして花咲いたように、自分自身でもコレ養分にできんじゃね? みたいに思ってやってみた。


 そしたらなんかうまくいったっぽいね。

 ていうか、本当に食事をしているみたいにバクバク入るわ。

 認めたくはないんだけど……結構おいしい。


「んっ……ん……ちょ……ん」


 どうしてか、このお姉さんは体をピクンピクンとさせ、痙攣でもしているかのように苦しそうだ。


 悪いものが抜けていって、苦痛が和らいでいくはずなのに……なぜ?


 まぁそんなことはお構いなしに、私は食事を続けさせてもらうけどね。


 どのくらいそうしていたのかわからない。


「……ぷは」


 私のおなかが膨れる頃には、お姉さんは白目を向いて気絶していた。


 先ほどまで無限に咲き続けていた花びらたちの数も落ち着いたことで、危機が去ったことを証明している。


 私は善と悪の力を有するもの。

 この力は反発し合う力同士を結びつけ合うもの。


 これは、いままでウラシスやアクシスたち、それに乙羽やマイカたち、あの四人たち、そしてモロゴンたち、今まで出会ってきた人たちが教えてくれたことでもある。


 いくら反発し合う者同士でも、お互いに信じ認め合うことができる。


 この世に善も悪もあっていいんだ。

 良いことも悪いことも含め、認め信じあう。

 そんな綺麗ごとを目指してもいいじゃない。


 そのために両方の力を持つ私がいる。

 私が善も悪も引き受けよう。


 それが私の存在する意味だと思うから。


 それでいいよね、スマコ、ネコ。

 二人も見守ってくれるよね。


 返るはずのない問いを、静かに私は投げかけた。



―――悪いものを浄化した花びらたちの舞も落ち着きを見せた頃。


 おっといけない……すっかり忘れてた。


 邪神のようなオーラを放ちながら近づいてくる、二人の姿が見える。

 私は今おなかがいっぱいなんだ。


 多分二人の怒りの矛先はこのお姉さんだろうね……どうしよう、説明は難しいけどもう危険が去ったことだけは伝えないとだね……。


 二人は怖い顔をしたまま無言で近づき、私からお姉さんを引き剥がす。


「あ……あの」


 さっきまでちゃんと会話出来ていたのに、なぜか今はちゃんと言葉が出てこない。


「それ……ころしちゃ……あっ」


 必死に二人に伝えようかと思ったら、お姉さんを雑にポイっと放り投げ、私に詰め寄る二人。


 あ、あれ?!

 私なんか間違った?!


「あ、あの……」


 バーン。


 小さく乾いた音が響いた。

 徐々に頬へと広がる微かな感触。


 なにが起こったのか分からず前を向くと、プルプルと目にいっぱいの涙をため込んだ乙羽が、振り抜いた自身の手をもう片方の腕で持ち、必死に震えを抑え込んでいる。


「お……怒ってるよ」

「……え?」

「私怒ってるの! バカ桜夜! もうバカバカバカバカ! うわぁあああん」


 急に大泣きをしながら抱き着く乙羽。


「サク……ひょっとしたらアタシたちはアナタを傷つけてしまったのかもしれない。急にサクがサクでなくなってしまったんじゃないかと、確かに不安になったよ。でも……」


 静かに近寄ってきたマイカが私と乙羽の頭を抱きながらそう言う。


「ヒグ、ヒグ……でもね“、私たちはあなだと離れだくない」

「うん。アタシたちはずっと一緒だって約束したはずだよ。サク、一人で行っちゃヤダよ」

「ご……ごめん……なさい」


 なぜだろう。

 初めて二人に真剣に怒られた気がする。


「私もごめんなさい……不安になってごめん……さっきブッてごめん」

「アタシもごめんなさい。二人とも大好きだよ」

「わだじもぉおお」

「ほらほら乙羽はもう泣かないの。ア、アタシまで……」


 マイカまで子供みたいに泣き出してしまった。

 気が付いたら、私まで同じように泣いていた。


 この胸の奥に感じる痛みと安らぎは一体なんだろう。

 チクチク痛いのに、どこか安心してしまう。


 私たちはたくさん間違えるし、すれ違うこともある。


 でも、その根本にあるのは目の前にいる、このかけがえのない大切なもののためなのだと今ならわかる。


 想い想われ、時にはすれ違い。

 そうやってたくさん生きていこう。

 間違っても、すれ違っても、その分だけまた大切になって。

 一歩一歩を生きていこう。


 美しい月夜の桜が、微かな光を放ちながら舞い散るように。

 私たちの想いと友情は、運命の彼方のさらに向こう側まで。

この物語はここで一旦終わります。(本当は終わりたくない)

この後すぐにちょっとしたエピローグも投稿するので、よろしければご覧ください。

ここまでお読みくださった皆様、本当に感謝を申し上げます。

お見苦しい文章も多々あったかもしれませんが、なんとか完結させることができました。

私自身、大好きなこの作品をもっと書き続けたかったのですが、次の作品のために思い切って区切りをつけました。

もし、今後ともご縁がございましたら、どうぞよろしくお願いします。


嫩葉

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