165 おちたもの
敵の大部分をほぼ消滅させた私。
動けそうもないアクシスと四人をその場に残し、私とマイカは乙羽の元へ向かう。
こちらに向かっている戦艦に拾われるのも時間の問題だろう。
ギャーギャーと騒いでいたオハメが入ったスマートウォッチを、無理やりアクシスに渡しているから位置も大丈夫。
それよりも今は一刻も早く乙羽のもとへ急ぎたい。
途中から十字架とデスサイズの力が完全に上回り、向こう側も早々にあきらめていたと思う。
こちら側を落とせないと分かれば、乙羽の方を先に仕留めようと考えるはず。
こっちはマイカがいてくれたから助かっていたけど、乙羽は一人っきりでモロゴンの本体と戦っているのだ。
まさかここまで乙羽がいる位置と離されているなんて思いもしなかった。
極力気を付けてはいたんだけれど、向こう側も意図的に離されていたのだろう。
「ということで……いくよ」
「なにが?! ぎゃん?!」
瞬時にマイカを背負い、久しぶりに全力で走る。
「アタシこれでも全力だったのに……サクのスピードはすごいね。別次元だよ」
それでも間に合うかわからない。
向こう側の状況が分からない。
分からないということが一番怖い。
その不安がどうしても私の足を速める。
そして、やっと乙羽の気配がわかる位置までやってきた。
まだかなり距離があるけど、私の目ならこの位置でも乙羽が見える。
無言でモロゴンと対峙している乙羽。
「乙羽!」
「乙羽?! 大丈夫?!」
この位置なら、私たちの問いかけはイヤリングを通して届いているはずなのに、返答がない。
不安がより一層強くなる。
モロゴンがおもむろに片手を上げた。
すると……四方から無数の黒い槍が、乙羽の体を串刺しにしたのだった。
******
乙羽視点です。
―――時はさかのぼる。
桜夜とマイカがいる位置から離されてしまった。
桜夜の助けを呼ぶ声を聞いてから、私は頭に血が上っている。
最近はこんなことばかりだ。
アクシスの悲惨な過去に怒り、さっきはアクシスの覚悟をもてあそんだモロゴンに怒り、そして今は桜姫をあんな目に合わせたことに怒っている。
怒りを通り越してしまうと、逆に笑顔があふれる自分に気が付く。
「その笑顔は一体どこからきているのか。逆に感情がわからんな。光の者よ」
「自分でも不思議なくらいだよ。怒りも通り越すと、こうなるみたい」
「いやはや理解できんな。おそらくおまえよりはワレの方が怒りというものを持っておるはずだが……今までそのような顔をしたことはない」
「そうかもしれないね。私はちょっと壊れているのかもしれないよ」
自分でもこの感覚は言葉で説明することができない。
「光の者とは不可解な生き物だ」
「それはアナタたちが勝手に呼んでいるだけだよ。確かに私は神光ツキシスから力を受け継いだけれど、私はツキシスじゃない」
「確かに、光の者と思えないほどにおまえは醜いようだ」
「ふふふ、ひどい言われようなんだよ」
「最後にもう一つ、アクシスに仕向けたワレの分身をどうやって見抜いた?」
「私は他の子よりも闇の力に敏感なだけだよ。アナタが放つ気持ち悪い感覚とは違っていたからね」
「おまえとは顔を合わせたこともなかったはずだが? なるほど、それも神光ツキシスか」
「まぁこうして実際に顔を合わせると、教えてもらっていた感覚よりも100倍不愉快だね」
「クックック。誉め言葉と受け取っておこうか。さて、しゃべりはここまでにして楽しく殺り合おうか、光の者よ。向こう側の神成が少々うるさくなってきた」
「ふふ。あの子たち二人がアナタの分身なんかで止められるわけないんだよ」
「時間をかせぐことができればそれでいい。おまえを葬れる時間さえあればな」
身の毛もよだつ、おぞましいオーラが放たれる。
正直な話、今すぐにでも逃げ出したいくらいにはビビっている。
さっきの偽物とは違う次元の強さがあると本能でわかるから。
だけど、ここで逃げるわけにはいかない。
桜夜とマイカ、二人が戦っているから。
私が命をかける理由なんて、それだけで十分だから。
「ふふ。それならやろうか」
「クックック。その笑顔を絶望に変えてやる」
モロゴンは手始めと言わんばかりに、腰から黒い剣を引き抜きながら迫ってきた。
私はその剣が振り抜かれる前に、光の剣でそれを防ぐ。
まじわることのない光と闇が衝突する。
「このような純粋な剣の戦いは久しぶりだな。少々舞い上がっておるわ」
「ふふ。あまりその顔でニヤケないでくれるかな。気持ち悪いから」
これでも勢いを殺したというのに、なんというバカ力だろう。
体ごと吹き飛ばされそうだったよ。
そんなことはお構いなしに何度も斬りかかってくる。
打ち合うたびに、体が削られるような痛みが走る。
何度も何度も光と闇が交差する。
「光の、楽しいのぉ!」
「うれしそうでなによりだよ。お願いだからそのまま成仏してくれないかな」
「そうはいかん。こうも人だった時の感覚を思い出させてくれる戦いはなかったからな! お互い、人同士だったならいい友人になれていたのかもしれんな」
「私の剣の教えは人を殺すためのものじゃないの。アナタの剣とは違うから、分かり合えないよ」
「分からないな。相手を傷つける行為に変わりはない。ワレからすると、人を傷つける理由を正当化しているだけに聞こえるぞ?」
「ふふ。その通りかもしれないね」
「クックック。ワレよりも、おまえの方がよほど闇に落ちた者のようだ」
「闇と光なんて、真逆だけど似たようなものだよ」
そう、私はすでに、落ちた者なのかもしれない。
 




