164 もうひとりのじぶん
無数に降り注ぐ槍の雨。
その一つ一つを確実に撃ち落としていく私とマイカ。
マイカの的を外さない正確な射撃に加えて、オハメの全力フォローもかみ合って、全く隙はない。
けれど、さすがに相手も攻撃パターンを変えてきた。
モロゴンの分身らしき黒い影が、黒い剣や槍を持って大量に襲ってくるようになった。
先ほどまでの数にものをいわせた一直線状の単純な攻撃パターンから、予測が難しい人型の動きになったことで、私たちの攻撃が当たらない部分が出てきた。
しかし、問題はない。
そちらよりも、私の分身体の方が早くて強い。
数は負けてしまうけれど、一つ一つの動きの精度はこちらに分があるようだ。
その私の動きに合わせながら、確実にターゲットだけを撃ち抜いていくマイカがすごい。
当たっても分身体だから別に構わないのだけれど、その全てがターゲットだけを撃ち抜いているおかげで、相手の数の多さにも対抗できていた。
しかし、問題はスタミナ。
一時的にアクシスからスマコの力をもらっただけで、その量は決して多くはない。
それは私もマイカも、そして向こう側でモロゴン本体と戦っている乙羽も同じだ。
「サク、早くここを突破して乙羽に合流しないとまずいかも」
おそらくモロゴンも私たちが合流するのを警戒している。
わざと乙羽と分散させるように動いている。
どうにかしてこの包囲網を突破したいけど、大技を使って力を消耗させたら向こう側の思惑通りになってしまう。
一体どうしたら……。
「桜姫、使いなさい！」
私、本体に向けて飛んでくる黒い十字架。
思わず受け取ろうとして、思いっきり吹き飛ばされる。
「サク？！ 大丈夫？！」
「……いたい」
「誰が生身で受け取れなんて言ったのよ！ 死にたいの？！」
なんだろう……人間の体で表すならダンプカーに衝突されたような衝撃だった。
まぁダンプカーだろうが、電車だろうが今の神気開放している私に衝突したとしても、相手の方が吹っ飛ぶだろうけど、そんな今の私がこの十字架にぶっ飛ばされた。
この私のおデコにタンコブを作るなんて、アクシスのこの十字架……やりよる。
「アナタならその十字架の扱いはできるはずよ！ 分身体を動かすのと同じように！」
なるほど、分身体を動かすように……って、できるか！
そもそも私の分身体は、私の力で発生させた花びらで形を作ってんのよ！
縦横無尽に操作が可能な花びらだからこそ、あれだけ自由に動かせんの！
そんな何億万トンもあるようなクソ重物体をどうやって動かせと？！
さっきから糸やら花びらたちで動かそうとしてんのに、ビクともしないわ！
「え……お、おも？！ なにこの十字架、こんなに重かったの？！ ビクともしないよ？！」
マイカが具現化した巨大なロボットの腕でもビクともしないようだ。
アクシスが見かけによらず、バカ力だと初めて知った。
「バカ！ 肉体で動かせるわけないでしょ！」
「アタシ、肉体じゃないんですけど……」
「この十字架は、ウラシスが面白半分でいろんなものを仕込んでいるわ。だから、ウラシスと同じ力を使うあなたなら、これを使えるはずよ」
結局力を使うなら、分身を使うのと同じことじゃん。
これだけ頑丈なら、盾にはなるけど……おっと、考えごとをしていたら、分身の操作を怠ってしまう。
「いいから信じなさい！ アタシとウラシスを！」
アクシスにそういわれ、再度十字架に触れてみる。
すると、不思議な感覚に見舞われる。
なんだろう……この十字架に自分の力を連動するような感覚？
分身を操作するのとは違う、自分の中にもう一人の自分を作るようなイメージというのかな？
それをこう、グリっと？
うわぁ？！ 急に動くなよ！ ビックリしたわ！
「う、動いた？！ どうやったの？！」
説明はちょっと無理だな。
正直、自分でもよくわかっていない。
これは感覚だから。
今ならアクシスがうまく説明できないわけもなんとなくわかるわ。
なんというか、自分が二人で存在しているみたいでちょっと気持ち悪い。
『おまえ、こんな姿にしやがって！ 窮屈！』と、自分に言われているみたいだ。
だから、思いっきり動かしてやろう。
縦横無尽に、高速で動き回る、手裏剣のように。
私がそう思うと、どうやらそうなるらしい。
そしてそれは、マイカの背後に迫っていたモロゴンの黒い影を粉砕する。
「え？！ え？！ すごっ？！ アタシには動きが早すぎて見えないんだけど？！」
『ないわぁ！ これ目回るわ！』
「なんかアレからサクの声が聞こえるような気がするのは……アタシだけ？！」
多分、気のせいであって、気のせいじゃないかも。
今の私にも、アレの使い方はよくわからん。
でも、『その中のもの』は私に頂戴ね。
「……こい……デスサイズ」
クルクルと拘束で飛び回る十字架の表面が開き、二本の鎌が私の手元へ飛んでくる。
『ずるい！ 私にも使わせろ！』と、なぜか自分に文句を言われているような気もするけど、あまり気にしない。
その鎌を両腕に受け取り、シュッと軽く振りぬく。
すると、その剣筋に斬撃が飛んでいき、モロゴンの黒い影を消し飛ばした。
「う、そでしょ……使わせといてなんだけど、ここまでやれんの？！ しかもデスサイズ
まで……」
「あわわわわ」
後ろで何やらアクシスたちが驚いているようだけど、十字架は私の背後から全ての攻撃を防ぎ、デスサイズは振るだけでノーコストの斬撃を撃ちまくれる。
よし、これはあとで借りパクをしよう。
そうしよう。
「それアタシのだからね？！ 桜姫、あげないからね？！」
「多分あれは無理だと思いますよ」
「そんなぁ！ アレはアタシのものなのに！」
アクシスがなにか叫んでいるようだけど、とりあえず無視。
体がボロボロだから心配していたけれど、これだけ叫ぶ元気があるなら大丈夫でしょう。
それよりも、今は一刻を争う。
多少の無茶は承知で、一心不乱に鎌を振りまくった。
もちろん私には、マイカみたいな精密射撃の技術はないけど、これだけターゲットが多いなら狙いもクソもない。
それを後ろから見ていた十字架から『ないわぁ』という声が聞こえたような気がした。
