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自覚

工作員が見つかってから周辺の探索をしたが、刺客はすでに離散しており捕まえることができなかった。

それでも、正妃一行を襲う危険性がなくなったのでとりあえずはホッと一安心だ。


工作員に猿轡を噛ませ首に魔法が発動出来なくする首輪をつけて囚人として本国に連行するよう手はずを整える。


「今回の件についての証人が得られて本当によかった。

 例の山賊の頭もそちらで連行して居ると思うから、必要な時に貸してくれ」


ルートヴィヒが豪胆に笑ってルイに話しかける。


話かけて居る時に、正妃の乗った馬車が崖の下の道を通って行った。

落石や刺客は作動しないようにしたので何事もなく過ぎ去って行った。


正妃の後ろについて進む馬車の窓からこちらの方向を焦った顔をしてきょろきょろ見上げる小太りな男が見える。

向こうからはこちらの様子は見えない。


「正妃一派の貴族だ。あいつが今回の計画を遂行していたのだな。

 襲撃が起きずに焦ったアホヅラして居るわ」


ルードヴィヒは吐き捨てるようにいう。


「あとは無事に建国式が終わって帰国するのを待つばかりですね。

 私も怪我がよくなりましたので、このままルイと帰国の途につかせていただかないと・・・いつまでもお世話になるわけにも参りませんから…」


ソフィーはちらりとルードヴィヒを見て少し寂しげに言った。

流石にそう何日も行方不明で済ませられない。


ソフィーは今回の事件で腹部に傷を負ってしまったので、婚姻に触りも出てくる。

「癒しのソフィー」の体に刃物の傷跡など、普通の貴族令嬢ではあり得ない。

明らかに剣でさした鋭い傷なので、不慮の事故とも誤魔化しにくく

初夜になってどうやってついた傷なのだ、きずものではないかと煩く言われてもお互いに不幸になるからだ。

早く帰国して家族会議をして今後の身の振り方を考えないと行けなくなってしまった。



ーーーこのままこの皇太子がわがままを通してくれたらいいんだけどな。

   ソフィーも今まで見たことない「女の子」の顔になってるし。

   一肌脱ぐか。。。



ルイはソフィーの帰国を聞いてあからさまに残念そうにするルードヴィヒを見て思った。

そして、あとでこっそり伝書鳩に手紙を認めて王都にむけて放った。




今回は移動中の襲撃事件を未遂で終わらせたが正妃が一体いくつ罠を仕込んでいるかわからず、

ルードヴィヒも結局建国祭が終わるまで残ることになった。


「今回は"ルイ"が負傷、"ソフィー"は休業しておりますので、ひとまず私が先に妹として戻ります。引継ぎをするには細かい仕事が多いのでわたしがこのままやり切りますし、妹の体調も万全ではないのでまだ休ませたく。

また、今後の動向がいつ急変するかもわかりませんし、今回巻き込まれた張本人ですのでソフィーは今暫くお側に置かせていただきたく存じます。」


そういって、ソフィーも建国祭が終わるまでは一緒に行動出来るように仕向ける。


二人はまだ一緒に居られる大義名分ができて嬉しそうだ。

ソフィーは頬を赤く染めてルードヴィヒをうっとり見上げている。






ルイはその様子を見届けて一足先に王都に戻りタウンハウスで公爵と今後について相談することにした。


会話が終わり次第、ソフィーとしてシャルロッテの元に戻るつもりだ。


こんなにシャルロッテの元を離れたのは侍女になってから初めてのことで、早くあの可愛らしい王女殿下に逢いたくて仕方なかった。


ーーーはぁ。皇太子云々言ってられないな。私も今まで自分の気持ちに気がつかないとか、どんだけ「ソフィー」だったんだ。でも気持ちに気がついたんだから、もうあとは逃さないように、作戦を練ろう。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

父にはとりあえずソフィーが無事だったこと、隣国の皇太子に保護されていたこと、怪我の状況、

現在は皇太子一行とこちらに移動して居ることを手短に伝える。



「ソフィー・・・なんて大物ひっかけてるんだ・・・

 それでも、皇太子だったからこそ命が助かったと思えば不幸中の幸いか・・・」


ミューゼル公爵は頭を抱えた。


「これから正妃殿下の動向を見ながら帰国までは監視を我が公爵家としても実施したほうがいいでしょう。

 万が一我が国で正妃が害されたとなると外交問題になり兼ねません。

 予定していた警備、侍女、メイドの配置も厚くした方が無難です。

 あちらで、服毒や襲撃を捏造されても馬鹿らしいですからね。」


「そうだな。・・・陛下にもご報告しておいた方が良いだろう。」

「ぜひ、お願いいたします。今回の事件について、私が動いて居ることも忘れずにお伝えください。」


いつになく食い気味のルイにミューゼル公爵は目をぱちくりさせた。


「王配レースで早くからいいポジションにつきたいのですよ」


ルイは苦笑して父に告げた。


「・・・っ!そうか!そうなのか!・・・わかった。しっかり伝える。

 ・・・今回の皇国訪問は事件に繋げないように細心の注意を払おう。」


王配レースのポジション取りも、使える物()はなんでも使おう、そうルイは思って頷いて礼をして退出した。


すぐに湯あみをしてバラのエッセンシャルオイルを身体に塗り込みドレスに袖を通す。



今まで、ルイから誰かに積極的に関わろうとはしてこなかった。

どこで入れ替わりがバレるかもわからない。

本来ならもう婚約していてもおかしくなかったが、まずはソフィーが片付いてから、自分の番だと思っていた。



ーーーあのお転婆ソフィーが恋する乙女に・・・ねぇ。

突然やってきた機会と、自分の恋心の自覚にルイは高揚感を感じていた。



さてさて、僕の麗しの姫に会いに行こう。








「そ、ソフィー!会いたかった・・・

 そ、その、ルイ様はご無事でしたの?」


シャルロッテは久しぶりにソフィーに会えて嬉しさを隠しきれない、と言った様子だった。

可愛すぎる。


「はい、忙しい時期に突然お休みをいただきまして大変申し訳ございませんでした。

 怪我はしておりましたが大事なく、お陰様で療養中でございます。

 しばらくすればまた出仕できるかと。その際にはご挨拶させてくださいませ」


「ルイ様は貴女にそっくりと伺ったわ。私はきちんとご挨拶したことないから会えるのを楽しみにして居るわね」


笑顔で答えてくれたシャルロッテをルイは眩しく見つめた。

これで、ルイ(自分)との出会いが自然に演出できる。

溜まっていた建国祭のための確認事項が書類の束になって侍女の控室に溜まっていたのをちらりと思い出したが、シャルロッテの側になるべくいて、残業でもなんでもこなしてやろう、と決意した。


「わたくしが不在の間、ご迷惑をお掛けいたしました。

これからはずっとお側におります。」

そういってルイはシャルロッテのほっそりした真っ白な手を取った。


普段触ってこないソフィーの様子に目をパチクリしていたが、ふわっと笑って、ええ、お願いね、と嬉しそうに言うシャルロッテがあんまりにも可愛くて、思わず手の甲にチュッ、とキスを落とした。


貴公子がするみたいに。



シャルロッテは真っ赤になっていたが、ルイは職権乱用上等、と心の中でニンマリ笑っていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

正妃はこの建国祭にもう一つ、罠を仕込んでいた。


それは、飲食物への毒物混入だった。

本国に送る前に工作員の尋問をルードヴィヒがえらい頑張って、普通なら死んでいてもおかしくないエゲツない尋問を絶妙に生殺しにして漸く吐かせたのだ。



正妃の行動目的は、今回の建国祭を利用して、皇太子が正妃を害そうとする冤罪を企てること。

ただし、やりすぎはよくない。

失敗した時の理由はいくつかあるが保険をかけて二つに絞った、というところだそうだ。


皇太子はあからさまにこの罠に対して動くことができない。

しかし手の内が分かったので、ミューゼル公爵家の権力をここぞとばかりに使い、滞在中のメイドと侍女を全て揃えて怪しい動きがないかをミューゼル公爵家お抱えの間諜に見晴らせた。


毒が使われる恐れがある、ということで、ミューゼル公爵家に長く勤め忠誠心のあつい人材で揃えたので建国祭の間は本邸は大変なことになったが、お陰で外交問題を回避することができた。


しばしば、正妃が皇国から連れてきた侍女により事実紅茶などの飲み物や食事などに毒を混入していたのだが、複数の間諜が的確に対象物を見極めて知らせたので実際に口にする前に悉く処分された。


正妃側は、いつまでも空振りに終わるため、毒物混入後の緊張感を何度も味わっては不発に終わるという精神ゴリゴリ削られるパターンで、イライラが募るのが手に取るように分かったが、無事に建国祭を乗り切ったのだった。

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