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12.デートに行こう

「綾香さん、次の休み、空いてますか?」

『おい、次の休み、空いてるか?』

不意に向けられた問に、ゲームの中での言葉が重なる。平日、好感度の高いキャラとデートの約束がないと、ランダムで現れるイベントだ。学校の廊下を背景に、ちょっと照れたような表情で、ぶっきらぼうに言うゲームの中での聡くん。思わず、頭の中に『うん、空いてるよ』『ちょっと用事があるの』という選択肢が浮かんでしまう。

 現実は、髪型も髪の色も違うし、言葉も違う。なにより、見上げるこの姿勢では、正面からのバストアップには程遠い。だというのに、なんというかそっくり過ぎて、びっくりしてしまう。

 とはいえ、断ったところで、ゲームの中では『そうか』ですんでいたものの、現実では日付を変更したり、予定を変更したりと、面倒なとこになるんだろうなぁなんて考えて、思わず口元が緩んでしまう。

「さぁ、空いてなかったと思うよ」

「うっそだ、絶対嘘だその言い方は。空いてますね、暇をもてあましてますね、俺とデートできますね」

どうやら、すでに私の嘘の付き方は読まれていたらしい。まくしたてるようにデートへの誘いへもっていこうとする聡くんに、ゲームの中のニヒルな感じはうかがえない。先輩という立場だからだろうか、それともまだひねていないからだろうか……むしろ、違う人間だろうと言いたくなってしまうのは、もしかしたら『こっぴどく振る未来』からの逃げなのかもしれない。

 とはいえ、今を楽しまない言い訳にはならないわけで、断わるつもりはないものの、茶化す方へと頭が向かってしまう。

「デートならデートと言いなさいな。そんなまどろっこしい誘い方、しなければいいじゃない」

「じゃぁ、デートしましょうって言ったら、はいって答えてくれるんですか?」

「その時の気持ち次第ね」

ニヤリ笑ってそう言うと、聡くんはがっくりと肩を落とした。

 気分かよぉとかぼやき、しゃがみこんで頭を抱えるその姿に、大きな体が小さくなったと頭のてっぺん軽く叩いて、その顔を覗き込む。

「まだ、デートの誘いを断ってはいないわよ」

予定が空いているか空いていないか、それについては嘘をついていたものの、まだ、デートに行かないとまでは言っていない。気持ち次第と言ったけれど、その気持ちが断る方向に向いているなんて言っていない。それでも、彼は恨みがましい表情で、私を見上げて問いかけてきた。

「じゃあ、デートしましょうよ」

ふてくされたその表情のかわいらしさ。思わず抱きしめるかキスしたくなるものの、さすがに学校の廊下ではそうするわけにもいくまい。というか、まだ、現世ではファーストキッスもまだで、そんなわけにはいくまいて。頭を軽くなでてやると、ますます拗ねたようにその表情歪めてきた。

「そうねぇ、じゃぁ、どこ行こうか?」

ゲームでは、公園や商店街、ボウリング場にゲームセンターにカラオケBOX、博物館に植物園、スケート場やスキー場、プールに海にイベントホール、水族館に遊園地に動物園、そして彼の家……いろんな場所が選べるのだけれど、確か、聡くんが好きな場所は、ボウリング場と公園と商店街だったはず。あぁ、うっかり「聡くん、教えてくれる?」という選択肢に失敗したことを思い出す。ある程度運動パラメーターをあげておかないと、どうしても点数がとれなくて呆れられるんだった……。

「ボウリングは却下でね」

パラメーター管理なんてしていなかったから、運動神経はガータークィーンだった前世とそう変わらない。ボウリングに運動神経はあまり関係ないかもしれないが、どうにもうまくできないのだからしょうがない。墓穴は掘りたくないので、何も言わぬうちから、早々に却下しておくことにした。

「じゃぁ……公園なんてどうですか?」

「無難なところね、オッケーです」

言ったところで思い出すのは、ゲームの中でよく利用した、春風公園のこと。春には桜並木、秋にはイチョウ並木がきれいで、夏にはボート遊びができるし、バザーが開催されることもあったはず。

 イベント内容自体については、墓穴の『恋人同士みたいだね』しか覚えていない。『なんだよそれ』とか、呆れ顔で見られたものの、今現在は恋人同士なのだから、まぁ、きっと、墓穴ではなくなっていることだろう。

「ん? 恋人……」

「っすよ? 俺の」

思わずゲームのことを思い出しつつ考え込んでいた中で、不意に出てきた『恋人』というその言葉に、思わず照れてしまっていて、ぽろっと口から出てしまった。その言葉に、彼はひょいっと顔をあげてこちらを見ると、当然といった体で校庭をする。

 そうか、彼は、私の彼氏で、恋人で……。

 改めてそのことを意識して、心底まいってしまう。とことん『こっぴどく振る』ことになるその日まで、付き合ってゆこうと覚悟を決めておきながら、恋人という状況をちゃんと意識していなかった。付き合うを、それこそお買いものか何かについていく感覚で考えていた、自分のあまりの愚かしさに、思わず驚いてしまうほど。

 帰宅をデートだと言われた時だって、何の冗談だとしか思っていなかったし、迫られてもバカ言ってんじゃないよとかいう程度で真面目に捉えていなかったけれど、告白されて付き合うとなれば、当然の関係だというのに、全く意識してなかった自分が信じられない。好きだと言われ、付き合ってやろうと言ったのだから、それ以外の何があるというのか……。

「綾香さんは、俺の彼女っすよ、恋人……なので……その……ハグもキスもオッケーっすよね」

「そっそれ、却下!」

とっさに出てしまったその言葉に、彼は目に見えてがっくりした。

 照れてしまっての言葉ながら、さすがに速攻却下はかわいそうだったか……。とはいえ、了承するには内容がないようだけに、ちょっと難しいところ。

 『こっぴどく振る』ことになるまでの間、付き合って側にいて……彼のいろんな表情が見れるとかそういうことをふわふわ考えていたものの、デートとかキスとか、ちゃんと考えてもいなかった。いや、デートはいい、別にどこかに一緒に出掛けるぐらいのことは、いくらしたっていいのだけれど……すでに押し倒されていてそんなことに構えまくるのはどうかとも思うし、自分はちょっとキスしたいなぁなんて思ったりはするくせになんだけど、キス……っていうか、それ以上のことも考えている可能性があるのなら、どうすれば逃げられるものかと、ついつい避ける方向へと頭が向いてしまう。

 精神年齢を、前世で生きた分をプラスとするならば、私はアラフィフもいいとこだというのに……もちろん、前世では思いきり乙女ゲームにはまっていたし、ゲーム仲は、思い切り聡くんにも我妻先生にもドキドキしていた。それで、今更、年の差だとかあまりに若いからとか言う気はない。雰囲気つくって迫られたら、きっと、飲まれてしまいそうな自分が怖い。

「きゃ、却下、却下、却下」

思わず自分の考えを振り払うように、頭を振り立てそう言うと、彼は少し考えるような顔をして私を見る。

「……それ、むしろ……」

「え?」

何か言いたそうな彼に、思わず聞き返してしまう。

「あ……そ、それより、次の休み、公園ね、うん、わかった」

でも言わせちゃいけないような気がして、思わず私はもう一つ頭を振り、話を打ち切った。

 後になって、待ち合わせ場所や時間をちゃんと打ち合わせていないことに気が付いたけど、まぁ、しょうがない。こういうとこも、ゲームではなかった面倒くささであり、楽しさでもあるんだよなぁなんてことを思いながら、メールで予定をすり合わせた。

姫崎凛?:ヒロイン:未遭遇 ・ 駿河裕司:学園王子様:未遭遇 ・ 清水慶介:生徒会長:未遭遇

大野聡:ちょいワル:ラブラブ恋人 ・ 谷津タケル:後輩:未遭遇 ・ 我妻圭吾:英語教師:説教待ち?

高木遥:先輩:疑惑 ・ ???:???:未遭遇

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