90話 あの戦争が終わって
色々な事に一段落が付いたが、その後にも色々あった。
一から十まで丁寧に話してたんじゃ日が暮れるんで掻い摘まんで話そうと思う。
まずフィロールとデインの戦争は両国同意のもと停戦という形でけりが付いた。
一日も経たずに終戦というのはなんだかあっけないが、そうなれたのはフィロール、デイン双方の人的被害が実質的にほぼゼロだったところが大きいらしい。
しいて被害と言えば俺達が戦った場所の地形が変わって、世界地図を一部書き直さなきゃいけなくなったそうだが人の命と比べりゃ些細な問題だろう。
結果だけ見ればフィロールもデインもこれと言って大きな変化はなかった事になる、戦争があったなんてとても信じられないほどに。
いや、大きな変化こそ無かったが小さな変化なら幾つかある。
んで、その小さな変化ってのが。
「お邪魔します兄さん、あっアンヌ女王陛下こちらつまらない物ですが、帝国で最近流行している焼き菓子だそうですお口に合えば良いのですが」
「あらあらご丁寧にありがとうございます。エリザ様もお久しぶりです、一週間ぶりくらいでしたでしょうか?」
「三日ぶりですわよ、アンヌ様」
「うふふ、そうでしたね。さあせっかくデインの守護竜様からお菓子も頂きました事ですし、お茶にでもいたしましょうか」
「はい! わたくしもお手伝いいたしますわ」
そう言って二人は楽しそうにお茶会の準備にいつてしまった。
あの戦争が終わってからこっち、弟とエリザの二人が城へ顔を見せに来るようになった、それも割と頻繁に。
「なんつうか、大丈夫なのか、その……色々と」
一国の主と守護神がこう頻繁に他国に、しかもちょっと前まで戦争までしていた国に遊びにやってくるってのは、色々と問題があるだろうと思うのだが。
しかし当の弟は「大丈夫だよ兄さん」と軽い調子で言ってのける。
「やるべき事は全てやってきた上で来ているし、隣国との外交も皇帝として立派な公務さ」
「公務ねぇ……」
視線を向けてみれば姫さんとエリザの二人がキャッキャッウフフと、それはもう幸せそうにお茶会を楽しんでいるようだった。
「……あれがか?」
「僕達がいた世界の政治家だって会食ばかりしていたじゃないか、一緒だよ一緒」
「そういうもんかぁ?」
「そういう物だよ……それとも兄さんには迷惑だったかな? そういうことなら言ってくれれば僕は……」
「待て待て! 別にそうは言ってねぇよ。姫さんもエリザと会うのを楽しみににしてるしそっちに問題がねえなら俺から言う事は何も」
「……兄さんはどうななのさ?」
「はぁ?」
「兄さんは僕と会うのはどうなの? 嬉しいそれとも迷惑かな?」
「それは……別に迷惑だなんておもってねぇよ」
「じゃあ、嬉しい?」
「ん……まぁそう言う事になる、かな」
「そっか! よかった」
そう言って、弟は心底安心したようなホッと素行を崩して笑うのだった。
おかしいな、はたしてこいつはこんなキャラだっただろうか?
戦いの時は蹴ったりなぐったっり色々したからなぁ、ひょっとして当たり所が悪かったとかじゃないだろうか? 割と本気で心配になるがまぁ悪い方向に行ってないなら別にいいだろう。
「とはいえだ、実際のところはどうなんだ? 言うほどそっちだって楽な状態じゃねぇだろ」
戦争が終わったと言ってもそれはフィロールとデインの話であって全ての問題がキレイさっぱり解決したわけじゃない。
ネネイルへの被害もそうだし、俺も詳しく聞いたわけじゃないが弟はデイン内部でも色々人様には言えない様な事をしていたらしい。
多分俺なんぞでは想像できないくらい弟は多くの罪を抱え、これからそれを償っていかなきゃならないんだろう、それはきっと楽な道では無いはずだ。
「あん時、嘘っぱちを言ったつもりはねぇからな」
一人で謝るのが怖いってのなら俺が一緒に頭を下げてやる。
一人じゃ歩けないって言うのなら俺が後ろから蹴っ飛ばしてやる。
許されない事が怖いってのなら――俺が許してやる。
あの時何処だかも分からない場所で口にした言葉を俺は一語一句たりとも忘れて居ないし、違えるつもりもない。
「うん分かってるよ、何か困った事があったらちゃんと兄さんを頼るから安心して」
「……そっか、ならいい」
とは言いつつ、今日まで弟が自分の尻拭いの手伝いを俺に頼んできた事は一度だって無い。
心配じゃないと言えば嘘になる、だが助けを求められてもいないのにアレコレ気を回すのは寧ろ野暮ってもんだろう。
弟が大丈夫だと言うのならそれを信じてドンと構えて見守ってやるのも兄貴の仕事だろう。
それにあいつの味方は俺だけって訳じゃない。
「兄様、兄様」
エリザがドレスのスカートを持ち上げながらパタパタとこっちに走ってくる、その様子は端から見ているとコケるんじゃないかと気が気じゃなくてどうにも危なっかしくてハラハラする。
「危ないよエリザ、走ってこなくったって呼んでくれれば僕の方から言ったのに」
「大丈夫、転んだりなどいたしませんわ。子供ではないですもの」
「僕はエリザが心配なんだよ怪我でもしたらと思うとね、それにスカートをたくし上げて走るのは淑女としてはどうかと思うけな」
「むぅ、最近の兄様はちょっと過保護過ぎますわ」
エリザの台詞に俺はそこはかとない親近感を覚えて思わず苦笑を浮かべる。
「で、結局なにをしに来たんだよエリザ様。こいつに何か用があったんじゃないのか?」
「そうでしたわ! 兄様も守護竜様達もご一緒にお茶会いたしいませんか? とお誘いに来たのです。ね? エリザ様」
「いつもお二人は離れて見ていらっしゃるだけですし、たまにはご一緒いたしませんこと? アンヌ様がご用意してくれた紅茶とっっっっても美味しいですわよ?」
「俺はいい、女子のお茶会なんてそんな軟派なモンに混ざれるかってんだ」
「そうですの? 残念ですわ、フィロールの守護竜様ともお話したかったのですが……でも、無理強いは良くありませんですわね」
残念そうに肩を落としながらも俺に気を遣わせまいとしてるのかエリザは笑う、その笑顔が健気でいじらしい。
なんだか断ってしまったのが、すごく悪い事をしてしまったような気分になってきた。
「まあまあ兄さんそう言わずに、僕らが持ってきたあのお菓子帝国では美味しいって評判なんだよ」
「は? お前急になにを」
「そうですよ守護竜様、エリザ様のご厚意無駄にしては不義というものです」
「あ! おい、コラ」
いつもの様に姫さんがひょいと俺を抱き上げる。
身動きがとれなくなったところで姫さんはいつもの様に優しい微笑みを浮かべて。
「ねっ?」
と、そう言うのだ。
周りを見渡してみてもどいつもこいつも言いたいことは同じらしい……まったくしゃぁねぇな。
「わーったよ、付き合ってやるよ! つけ合えばいいんだろう!」
もうこうなりゃヤケだと開き直ってそう言ってやるとエリザはさっきまでとは打って変わって嬉しそうに屈託のない笑顔を振りまきながら。
「早速、守護竜さま達のお茶を用意しますわ!」
と張り切ってお茶の用意をする為またパタパタと走り去っていく。
その様子があんまりに健気で微笑ましくて、まぁ偶には軟派な事をしてみるのも悪かないかとそんな事まで思ってしまう。
ちなみにエリザや弟が言ったとおり、用意されていた菓子と紅茶は非常に美味く仕方なしに参加したお茶会が存外楽しかったのは秘密だ。
まぁそんな感じで、なんもかんも万事オーケーとは言えないまでも、フィロールとデイン両国はなんやかんや友好的と言っても差し支えない関係を結べている。
そうそう、友好的な関係と言えばもう一つ話さなければならないことがあるんだった。
それは海の向こうにあるもう一匹の守護竜が治める国について事。




