91話 名前――
デインからの横やりでうやむやになっていたネネイル王国との国交がなんと正式に開かれる事になった。
禁忌を犯した種族であるダークエルフ達と交流することに対して案の定、城の大臣をはじめとしたお偉方連中は難色を示したがどうにかここまでこぎ着ける事が出来た。
それには姫さんの懸命な説得のおかげもあるが、ぶっちゃけた話ネネイルのダークエルフ達が持つ技術は国のお偉方達にも魅力的に見えたらしい。
少し前に国交解放を検討するためにネネイルから代表者を招いた会談が開かれた。
いや、会談と言うよりはあれはもはやネネイルからフィロールに対するプレゼン大会だった、実際そこで披露されたネネイルの魔導技術に大臣共が目を丸くしていたのを今でも覚えている。
ネネイルとの国交に反対一辺倒だった風向きが、明確に変わったのは間違いなくあの時だった。
そんな見事なプレゼンをして見せたのは当然ネネイルの女王スバル――ではなく国の守護竜アカネだった。
そうなのだ、あのやろうしれっと生きていやがったのだ。
てっきりあの流れで死んだもんだと思い込んでいたがところがどっこい、あいつはひょっこりその姿を見せて俺達を驚かせた。
力を使い果たし巫女であるスバル女王の不在で覚醒体になれなくなった上、国のゴタゴタもあって今まで俺達の前に出てこれなかったらしい。
戦争のとき手を貸せなかった事を悔しそうにしながら詫びられたが、俺や姫さんからしたら謝られるような事は何もない。
「言っとくけど、アタシはデインのあの子を許すつもりはないから」
そんなことを言われたのは国交解放に向けた打ち合わせのため、俺達が再びネネイルへ訪れた時のことだ。
「まぁ、それはそうだろうな」
「あら以外ね、庇ったりしないの?」
「? どうして俺があいつを庇う」
「だって弟だったんでしょうあの子? 聞いたわ」
さらっと言うが一体どこからそんな話を聞いたっていうのか、当然俺は誰にも話していない
何やらぞっとしない話だが、別に端から隠そうと思っていた訳でもない。
「ああそうだが、だからと言って俺があいつを庇うことはねぇよ。あんたが許せねぇと思うのは当然だしあいつはそれだけ事をした、その事実はたとえなにがあっても無かったことにはならねぇ。一緒に頭を下げてやることはあっても俺からあいつを許してくれるよう頼むのは筋が通ってねぇだろが?」
「ふーん、以外とそういうところは大人なんだ」
「あぁ? バカにしてんのかテメェ」
「まっさかぁ、むしろ見直したくらいよ」
そうは言うがその表情はからかっている様にしか思えず、どっからどこまで本気で言ってるのかイマイチ分からない。
「でもまぁそうね。許すつもりはないけれど多少なりとも負い目を感じてくれてるのなら好都合、せいぜい絞れるだけ絞ってやるわよ、うけけけけ」
「うっわ、わっるい笑い方すんなよお前。もう結構な額の賠償させたって聞いたぞ、これ以上一体なにを払わせるって言うんだよ」
「そんなの決まってる。貴方たちの国と同じようにデインにもネネイルとの交易を開かせてやるのよ」
はっきりと宣言したその内容は正直俺には意外な物で、そのことを見透かす様にアカネはにやりと笑う。
「あの子の事を許すつもりはないしデインだってあたしは好きじゃないけどビジネスに私情は挟まない主義なの。あたしの目標は世界征服よ、細かい事なんかにいちいち頓着してらんないわ」
危うく自分もろとも国が滅びていたかもしれないのにそれを細かい事とは、器がでかいのか馬鹿みたいに大雑把なだけなのか。
あきれる様なむしろ尊敬する様ななんともいえない気分で俺は苦笑を浮かべていると。
「あっ! そうそう。スバルを助けてくれてありがとう、貴男には感謝してる、じゃね」
といかにもついでと言った軽いノリでそう言ってアカネはさっさとどこかへ飛び去ってしまった。
まったく本当にどこまで本気で言ってるのやら。
とまぁこんなところが、今回の騒動の後にあった事の大まかな顛末だ。
怪我をしていたセリスとルリルの奴も無事メイドの仕事に復帰して俺達の日常が戻りつつある。
さて、色んなもんが変わったりそうじゃなかったりする中で俺と姫さんはどうなったかと言えば。
「守護竜様、お腹はすいておられませんか? おねむじゃないですか? 何かしてほしいことがあればなんでも言ってくださいね」
「だーかーらー、てめぇの事はてめぇでやるっつうの、いちいちそんな構わないでくれていいって」
「まぁまぁそう仰らず、私と守護竜様の仲ではございませんか、よしよし」
「しれっと頭を撫でんじゃねぇよ」
見ての通り、とくになにも変わっていなかったりする。
相変わらず姫さんは甘やかそうとしてくるし、俺はそれがちょっと鬱陶しいし。
なにも変わっちゃいない、でもなにも変わって欲しくなかったから俺はあの時俺は命を張ったんだ、だからきっとこれでいいのだ。
「守護竜様、どうかなされたのですか?」
「ん? ああいや何でもねぇよ。ただここ最近色々あったが蓋を開けてみりゃ案外何にも変わってねぇなって、そんなことを考えてた」
「変わらない…………あの、守護竜様」
その時不意に姫さんの声色が変わった気がした。
どこか堅い、緊張している様なそんな声だ。
「実はお願いがあるんです」
「……何だよ?」
なんだか神妙な雰囲気の姫さんに身構える。
姫さんは少し躊躇いながらも、意を決した様子で切り出した。
「名前――お名前をお教え頂けないでしょうか?」
「名前? ……って俺のか?」
聞き返すと、姫さんは遠慮がち小さく頷いた。
「はい、あなたが元の世界でなんと呼ばれていたのか教えて頂きたくて」
そう姫さんは聞いてくるが、俺からすれば正直拍子抜けだった。
なんだよ、重い空気出すから一体なにを言い出すのかと思ったら。
「別に構わねぇけど、どうしてまた急にそんなことを」
「実は急ではありません、本当はずっと聞きたかったんです。でも聞いていいものなのか分からなくて、ご迷惑でしたでしょうか?」
「迷惑ってこたぁないが、別に今更聞いたところで面白いもんでもないだろ」
「いいのです、私が守護竜様の……あなたの事をもっと知りたいから」
そう話す姫さん青い瞳は、なぜだかすごく真剣だった。
一体俺の名前がなんだって言うのか、理由はいまいち分からないが別に隠し立てするようなもんでもない。
俺は自分の名前、元の世界にいた頃呼ばれていたそれを姫さんに伝えた。
「――様……なんだか不思議な響き」
姫さんは聞いたその名前を口の中で転がすみたいに二度三度と繰り返す。
「まぁ横文字な名前が多いこっちじゃ馴染みのないだろうしなぁ、今となっては俺も少し違和感を覚えるくらいだし」
「これからは、そのお名前で及びした方がよろしいでしょうか?」
「えーいいよ、めんどくせぇ」
正直あの頃の名前に未練は無かったし今更呼ばれるのもむず痒いもんがある、別に今まで通り守護竜と呼んでもらえればそれでいい。
「そうですか? 残念です……そうだ! 実はもう一つだけお願いがあるのですが」
「んん? 何だよ?」
「はい、実は……」
いいながら姫さんが顔を寄せてきた。
何か内緒話でもするつもりなのかと俺も耳を寄せる様に姫さんへ顔を近づけたその時だ。
チュッ……。
姫さんの唇が俺の頬に触れた。
突然の事だったが俺は硬派の男、この程度の事で動じたりなんぞしない。
「なっ! なななな、なにすんだいきなりテメェは、おおんっ!?」
……動じたりなんぞしていない。
「うーん、やはりあの時のお姿にはなられませんね」
あの時の姿というのは弟と最後に戦ったときになったあれのことだろう。
覚醒体とも違うあの姿は一体何だったのかは結局なにも分かっていない。
もう一度なれない物かと色々試してみたりもしたが結局再現は出来なかった……なにを色々試したのかは聞くな。
「驚かせてしまいごめんなさい、なんだかつい試してみたくなってしまって」
「ついって、あのなぁ」
「あらあら、うふふ……ねぇ――様」
囁くように俺の名前か呼ばれる。姫さんの声でその名前を呼ばれるのは、やっぱりなんだむず痒くて落ち着かない気分になる。
「あなたは何も変わらないと仰られましたけれど、きっとそんなことはありませんよ、変わった物は確かにここにあります」
「ここにって、何が変わったっていうんだよ?」
「それは……ヒミツです」
「なんだよ秘密って、勿体ぶってよ。なんかあるならはっきり言えばいいだろうに」
「ごめんなさいやっぱりまだ口にする勇気がないのです、いつか、いつかきっとお話いたします。だからどうかそれでま、いつ久しくあなたのお側にいさせてくださいね」
姫さんが俺を強く抱きしめる。
結局何が変わったのか変わってないのか、よく分からない。
でも、まぁいつか話してくれるって言うんだから気長に待つことにしよう。
この少し鬱陶しくてでも悪くない日々は、まだ続くのだから。
Fin
この度は【最強無敵の守護竜に転生したけど世話焼きお姫様(32歳未亡人)がウザすぎる!】を読んでいただきありがとうございました!
私は普段、小説投稿サイトのカクヨムに作品を投稿していて、この作品もそこで投稿していたものを一部ブラッシュアップし投稿したものになります。
カクヨムには他にもいくつかの作品を投稿しておりますので、興味を持っていただけたなら下記URLからぜひ。カクヨムURL→【 https://kakuyomu.jp/users/kawahiranao/works 】
なろうには今後も同じような形で不定期ではありますが作品を投稿していくつもりです、なのでこれからもどうか暖かい目で見守っていただけたなら幸いです。
それではまた次の作品で出会えることを祈っております。
最後までご拝読ありがとうございました。




