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最強無敵の守護竜に転生したけど世話焼きお姫様(32歳未亡人)がウザすぎる!  作者: 川平直
第6章

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71話 涙の気配さえするような

「ここは……パン屋か?」


「ああ、よかった。何も変わっていません」


 涙の気配さえするような声でそうつぶやいて、姫さんが扉を開くとフワッと焼けた小麦のいい香りが鼻をくすぐった。


「はいはいはいはい、ちょっとお待ちを」


 扉に取り付けられてたベルの音を聞きつけ店の奥から威勢のいい声を上げながら太っちょで背の低い、丸い赤ら顔のおっちゃんが姿を見せた。


「いらっしゃい、いやぁ悪いね今お得意様にパンを届けて来たところで。気になるものがあったら好きに手に取ってくれ、今並んでないもんでも時間さえくれればいくらでも……おや? おやおやおやおや? あんた、もしや」


「……お久しぶりです、ジムおじさま。お元気そうでよかった」


 姫さんが外套のフードを外して見せると、ジムと呼ばれたおっちゃんは元々赤らんでいた顔をさらに赤くしてそれは嬉しそうな満面の笑みを浮かべる。


「はっはぁー! やっぱりそうだ! おい! パタタちょっとこっち来てみなさいよ。いいから来いって、ちょっとだけだからほら! 絶対驚くから!」


 おっちゃんがドタバタと店の奥へ駆け込んでいったかと思うと、なぜかムスッとした顔をした背の高い白髪交じりの女を引きずって戻ってくる。


 女は不満を隠そうともしない不機嫌顔だったが、ジムに促されて姫さんの顔を見た途端、目を丸くして驚いている様だった。


「ほらほらほらほら、アンヌちゃんだよ! アンヌちゃん! お前だって会えてうれしいだろう!」


「……うん……久しぶり……元気?」


「はい、とっても。パタタおばさまもお変わりはありませんか?」


「……うん……元気…………じゃあ……わたし……子供達を見てなくちゃいけないから……ゆっくりしていってね」


「あっ、おいっ!」


 パタタと呼ばれた女は制止も聞かずさっさと店の奥へと戻っていった。テンションの高いジムとは対照的でこっちは随分と淡泊な反応だ。


「たくもぉよぉ、ほんとは嬉しくてたまんないくせにさ、ごめんなぁアンヌちゃん相変わらず無愛想で。でもまぁあの一本気のところが――」


「『ウチのかみさんの魅力なんだがよ』ですよね? ふふっ、相変わらす仲がよろしいんですね」


「おっと、わはは、アンヌちゃんには敵わないね、とっとっいけない、今は女王様とお呼びしないと」


「いいんです、みての通り今日はフィロール王国女王としてではなく、ただのアンヌとして会いに来たんですもの、だからどうか昔の様に接してもらえたら」


「そーそ、カタッ苦しいのは抜きにしようぜ」


 いい加減黙ってるのも飽きたんで、俺は外套の隙間からひょっこり顔を出した。


「うおっ! トカゲ? いや、ひょっとしてあんた様は……」


「このお方は、この国の守護竜様でございますよ、ジムおじさま」


「はぁ~、実物をお目に掛かるのは初めてだが、これがなぁ。あっ! いや失礼しました、守護竜様にとんだご無礼を」


「だ~か~ら~、そーいうのはいいっての。俺もそういうは苦手だからよ、だから気楽にやってくれよ、なぁ姫さん?」


「うーん、守護竜様はもう少し口調をお気をつけになられた方がいいと思いますけれど」


「むっ、今それ言うかよ」


 突然のお小言に俺は表情は苦らせると、ジムのおっちゃんが愉快そうにわははと笑う。


「まぁそう言ってもらえるのならそうしますがね。にしても、守護竜様ってのはもっと近寄り難い方だと思ってたんだがな」


「そんなことありませんよ。守護竜様はとっても優しいいい子なんですよ、照れ屋でちょっと素直でないところもおありですけれど」


「だから、そういう誤解を招くような紹介の仕方をすんなっての」


「ほら、言ったとおりでしょう」


 苦言を物ともせずに姫さんが微笑む、俺としてはまだまだ色々言いたいところだったが、ニコニコ笑顔の姫さんには何を言っても無駄だ。


 立ち話も何だからと俺と姫さんは住居になっているという二階へと案内された。


「散らかってて悪いね、今茶を用意するから。まっ、お城で出されてるようもんと比べりゃあれかもしれないけどね」


 悲壮感を感じない自虐を交えながらジムはキッチンへと消えていき、残された姫さんは部屋の中央のテーブルを囲うように置かれた三つある椅子の一つにゆっくりと腰掛けた。


 部屋の内装は一言で言えばすごく素朴だった。


 特段に珍しい物もないが、程よく片付いて程よく散らかったその様はそこかしこに生活感を感じられる。


 姫さんが目を細めて辺りを見回すその様はまるで過去の景色を眺めている様だった。


「お待たせ。茶と後これはウチで焼いたもんだ、よかったら食べてくれ」


 そう言ってジムが差し出したのはティーカップに入れられた紅茶とクロワッサンだった。


 立ち上る香ばしい小麦の香りが食欲をそそる。


 いだだきますと一言言ってからいつもの様に魔導を使ってクロワッサンを浮かべ口迄運んで一口。


「あ、うまい」


 そんな言葉が思わずポロッと口から零れ出る。


 ほんのりとまだ暖かいクロワッサンはサクサクの軽い食感で食べやすくて、何より食べた瞬間に口いっぱいに広がる小麦の香りが旨い。


 向こうの世界に居た頃からクロワッサンは何度か食べたが、ここまで旨いと思ったことは初めてかもしれない。


「そうだろう、そうだろうよ。茶はともかくパンに関しちゃあ城で出されてる高級品にだって負けてないだろう? なんせウチのかみさんが端正込めて焼いたパンだからよ」


 自慢げにジムが胸を張るが、そうなるのも納得な旨さだ。


 気がつけばあっという間にクロワッサンは俺の腹の中に消えていた。いや、本当に旨かった頼めばもう一つくらい出してもらえないだろうか?


「むぅ」


 お代わりを頼もうか割と本気で悩んでいたら、姫さんがなぜかむくれっ面で俺の事を見ていた、一体急にどうしたってのか。


「パタタおばさまのパンは美味しいと言うのですね……私のお料理にはあまり言ってくださらないのに」


「あっ! いや~そのだなぁ」


 思わぬピンチに俺は思わず言葉を濁す。


 なんていいわけしたもんかと無い頭を回していたら、姫さんはふぅと諦めたようなため息をついた。


「でも仕方ありませんよね。パタタおばさまのパンはとっても美味しいですものね」


 言いながら姫さんもクロワッサンを一口食べて、その顔を幸せそうに綻ばせる。


 これ幸いと俺は速攻で話題をそらすためジムに別の話を振った。

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