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春来る君と春待ちのお決まりを  作者: 鳥路
水無月の章:夏の訪れと思い出の写真
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5月22日④:嫌だな。参考資料だよ

お次は美術室。

生花特有の匂いから、絵の具特有のなんとも言えない独特な匂いが…。

…今日は独特な匂いばっかりだな。

最後に行く文芸部も紙特有の独特な匂いがとか言い出しそうだ。


「美術部って何するんだろう。絵を描くのかな」

「デッサンとかしてるんじゃない?」

「授業ではやらない油絵描いてる奴もいるぞ。木庭こば

「でたー」


「…木庭さんって、誰?」

「悠真、展示会に行った時に話しかけられてビビり散らかしてたよね。彼女、独特かつ押しが強いから」

「そんな過去はない」


…あったけど。

そうか。美術部には木庭がいたな。


『むやっ!君が噂の五十里君!校長を半ば脅して部活を創部したという!』

『そういう過去はない』

『でもでも、先生から一目置かれている部活だと聞いたのですよ〜』

『それは学校行事の記録撮影も担っているから…監視の意味合いの方が』

『じゃあこれも学校行事の記録で来たのですか!?』

『いや、俺の写真も展示されて…』

『そして私を撮りに来たと!いいですよいいですよ。わかっています。皆まで言わずとも私は何でもわかるのですよ。これが私の描いた絵なのですよ!大賞ですよ!』

『何この混沌…芸術よくわかんない』

『タイトルは宇宙なのです!作者の顔と共にバッチリ記録に残して欲しいのです〜』

『…お、おう!』


…なんてことが去年はあったものだ。

とにかく、木庭みちるという名の同級生はとにかく押しが強い。

人の話も八割ぐらい聞いてない。面倒な奴だが、実力は確かだ。話は本当に通じないけど。


美術室前に到着し、中で活動している美術部の様子を伺う。

教室の扉は開かれている。

中にいる部員は何故か何かを円状に囲み、イーゼルにスケッチブックを立てかけて…何かを待っているようだった。


なるほど。今年もあれをするらしい。

その光景に恐怖を覚え、無言で逃亡寸前だった廉の襟首を掴んで、美術室に突入する。


「どうもー。写真部でーす。素材投下に来ました〜」

「…待っていたよ、五十里君。今回も廉様…げふげふ。藍澤君をデッサンさせてくれると思ったよ。私達、思考繋がってる?これが以心伝心?」

「君達の考えていることなら嫌でも分かるだけだぞー?」


俺に話かけて来た美術部部長の相川梨花あいかわりんかが座っていた席の足下には、廉が載っている雑誌がこんもりと置かれている。

一部の女子部員に至っては、どこで見つけてきたのやら廉の写真集まで置かれていた。

あれ、発行部数が多い割には買い占めが多くて手に入れるの大変だって巷で聞いたけど…手に入れている奴は少なからずいるんだな…。


「げぇ…あれ持ってる人いたんだ…」

「俺も持ってるぞ」

「悠真は別枠でしょ!?千夜莉さんが譲ってくれるんだから!」

「千夜莉おばさんは献本してくれたことないし…」

「え」

「これまでも、これからもないだろうな」


事実を淡々と告げただけで、廉の顔から一気に血の気が失せる。


「じゃあ…買ったの?」

「ああ。自腹で買った」

「流石に、通販で…だよね?」

「通販で買えないもんだから、カメラ雑誌の取り寄せを頼んでいる店で廉の写真集、取り寄せて貰ったんだぞ」

「そこまでして買ったの!?聞きたくなかった!」

「嫌だな。参考資料だよ」

「人の写真を何の参考にする気!?」


「俺も将来、あんな艶やかな写真を撮りたくてな」

「せめて女の子の写真集にしなよ!?千夜莉さんなら何件か受けてるでしょ!?」

「女の子だと羽依里に悪いだろ」

「その感性はしっかりしているのかまったくもー!」


廉にぺちぺち背中を叩かれ、抗議を受ける。

その間にも、美術部の面々はデッサンの準備に取りかかっていた。

完全に廉を捕獲する気満々である。


「おやおや、悠真氏〜」

「木庭か。いたのか」


人混みを分けて俺たちの方へ駆け寄ってきた、小学生と見間違うような小柄な少女。

木庭みちるはぴょんぴょん跳ね、邪魔にならないように結わえた髪を揺らしながら楽しそうに微笑みかけた。


「ちゃんと最初から最後までいたのです。そういえば、髪切りました?」

「ああ。切った」

「前のもっさりの方が好きだったのですが…まあいいのです」

「もっさり好きだって言ってくるの君ぐらいだよ…」


「今日も藍澤氏をお借りして、デッサンですか…」

「なにか不満か?有名モデルだぞ?」

「男は描き飽きたのです…たまには女の子を…ぬやっ!」

「どうした?俺の背後には誰もいないぞ。廉を女装させて女の子を描きたい欲を満たしてくれ」

「悠真…?」


「女装した藍澤氏なんて需要ないのです」

「少なくとも、君のところの部長には需要あるだろ」


相川は背後で「需要ある!超ある!」と主張し、どこからか土岐山高の女子制服やメイド服等用意し始めた。

…廉の顔が引きつったのは言うまでもないだろう。


「そんなことより、悠真氏。背後にいる女の子は誰なのです?私、彼女をデッサンしてみたいのです。お人形さんみたいで可愛いのです」

「わ、私…?」


美術部の魔の手は全て廉が引きつけてくれたと思っていた。

しかし、木庭は。木庭だけは。

羽依里に、手を伸ばしてきた。

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