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春来る君と春待ちのお決まりを  作者: 鳥路
水無月の章:夏の訪れと思い出の写真
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5月21日④:何を考えながら写真を撮るようになったの?

音楽室に訪れた俺たちは、扉の小窓から中の様子を伺う

どうやら今は合奏練習中らしい


「・・・入るのは控えた方が良さそうだな」

「そうみたいだね」


とりあえず、演奏が終わるまでは外で待機

今日は時間がたっぷりある方だし、のんびり雑談しつつ過ごしておこう


「そういえば、羽依里は楽器沢山弾けるよな」

「うん。お爺ちゃんとお婆ちゃんが色々と教えてくれたから」

「日本にいる方だよな」


羽依里の祖父母は音楽系の仕事をしていたと聞く

確か、お爺ちゃんの方が楽団所属のクラリネット奏者で、お婆ちゃんがピアニストだったはず

音楽大学で出会った話をしょっちゅうされた事だけは、よく覚えている・・・


「得意楽器のクラリネットだけじゃなくて、似合うだろうからって変な理由でフルートとかバイオリンとかも演奏できるように特訓させられたから・・・」

「後、ピアノも弾けるよな」

「簡単な曲だけだよ。悠真は何か弾けたっけ?」

「んー・・・鍵盤ハーモニカと、普通のハーモニカと、オカリナとリコーダーとカスタネット」

「うん?」

「それからギターとウクレレとバグパイプとトライアングル」

「結構弾けるね。どこで習ったの?特にオカリナとバグパイプ」

「小学五年生の時にな。赴任してきた校長先生が旅行好きで、旅先で色々と収集するのに凝っていてな。面白そうだったから直接校長先生に交渉しに行ったんだよ。面白いもの写真に撮らせてくださいってな」

「悠真らしからぬ行動力・・・って思うけど、写真のことになると猪みたいに猪突猛進っぷりを見せるんだった」


ふむ。羽依里からはそういう評価なのか

・・・猪みたい。自覚していなかったが、少し気をつけた方がいいかもな

そういう傾向は、いつか誰かを困らせたり迷惑をかけたりしそうだから


「で、写真を撮らせて貰う約束を取り付けて、校長先生の家に遊びに行ったんだよ。その時、ついでに触らせて貰ったんだ」

「へぇ・・・」


あの時の体験はなかなかに貴重だった

あの時点で、俺が出かけた他の国というのはイギリスだけで他の国には一度も行ったことがなかった

色々な国の品々。そこでの思い出

名産品から、そこで拾った石ころに関する話まで、色々な話をして貰ったな


「・・・その校長先生は、俺が中学二年生の時に事故で亡くなってしまったんだけど、奥さんと息子さんのご厚意で一部譲って貰ったものがあるんだ。帰ったら羽依里にも見せてやるよ。えだ先生のコレクション」

「是非。先生との思い出も聞かせてね」

「もちろんだ」


帰ってからの予定を定めると同時に、音楽室からピアノの音色が聞こえてくる

合奏にピアノ・・・俺は音楽には疎いからよくわからないけれど、一緒に奏でる演奏曲とかもあるのかな

奏でられる音色に耳を傾けつつ、羽依里へと視線を向ける


「んー・・・」

「どうしたの?まさか、ピアノの音で眠くなったとか?」

「そんなわけないって。ただ、羽依里も昔、この曲弾いてなかったか?」

「うん。昔、練習していた時期があるよ。よく覚えていたね」

「まあな」


耳が覚えていたあの日の音色

この演奏に比べたら、小さい彼女が奏でる演奏はどこかたどたどしいものだったけれど


「同じぐらい上手だ」

「流石に小学二年生の演奏と比べるのはよくない。今奏でられている演奏に比べたら、私のなんて全然だよ。しかも趣味だよ?」


とか言いつつも、羽依里の家には大きなグランドピアノが存在している

もちろん、専用の防音室も存在している

趣味にしては結構しっかりしているし、ピアノの先生が家に訪れていたよな・・・?


「趣味で先生を呼ばないだろ。しかしなんでやめたんだ?滅茶苦茶上手かったのに」

「弾きたい理由がなかった。それだけ」

「そっか。何もないのに続けるのは、しんどいよな」


理由は何をするにも凄く大事なところだと思う

モチベーションにも関わる話だからだ

俺もよく考えさせられる


「そういえば、悠真はどうしてカメラを続けているの?」

「写真を撮ること?」

「そうそう。それこそ何かモチベーションがあるの?」

「んー・・・昔はただ羽依里の写真を撮りたいからって理由だった。笑顔が好きだから、それを沢山撮りたいなって、単純な理由」

「じゃあ、人物を・・・私を撮れなくなってからは?悠真は何を考えながら写真を撮るようになったの?」


羽依里の質問は、決して難しい質問ではない

ただ、その理由は・・・正確には人物が撮れなくなってから定めたものではない

その少し前に定めたものなのだ


「入院して外に出られない羽依里に、外にある綺麗なものを沢山見せるため」

「・・・それはつまり」

「羽依里が入院してから定めた「写真を撮る理由」だよ。外の写真を見せながら、俺が体験した話を面白おかしく話したら、羽依里は楽しそうにしてくれただろう?」

「そうだね。凄く楽しかった。自分も、体験したみたいで」

「入院して退屈だろうから、少しでも面白いものをと思って撮り続けていた。病気になって落ち込んでいる羽依里を、少しでも明るくできるように、また笑って貰えるように」


「じゃあ今は?入院もしていない、私は外に出ている。今の悠真は、何を思って写真を撮っているの?」

「・・・もう一度羽依里の写真を撮りたいから練習っていうのが、周囲に失礼だけど俺にとって一番な理由だな。後は、羽依里と過ごす生活をきちんと記録に収めたいからだな」


最初から最後まで。俺が写真を撮る理由の中心にはいつだって羽依里がいる

それほどまでに彼女は俺の根幹を担ってくれている存在なのだ


「こういうのもなんだけど、全部即答なのが凄いよ・・・あらかじめ用意していたとかそういうのじゃないよね。インタビュー用とか。前も、同じ事を言ったとか」

「あらかじめ用意するなら、原稿をきちんと用意するさ。後、羽依里のことは「大事な人」で伏せる。個人名は絶対に出さないって決めているから」

「・・・大事な人」

「変だったか?」

「変じゃない。じゃあそれは、あらかじめ悠真の心の中にあった答えということでいいんだね?」

「ああ。もちろんだ」


こればかりは断言できる

取り繕うことなく出てきた言葉だ。ありのままの答えと言ってもいいだろう

もちろんこの答えは今までから変わらないし、これからも変わらない


「あ、五十里君やっぱり来ていましたね。お待たせしました」

「ああ。付和さん。合奏練習終わった?」


話している間に合奏練習は一段落。音楽室の扉が開かれ、そこから見知った人物が現れる

腰まである栗色ストレートの髪をなびかせ、後頭部には大きなリボンをつけた女子生徒は俺の姿を見つけた瞬間、小走りに駆け寄ってくれた


「勿論。しばらくは個人練習で、部長は取材用に時間を空けています。今年もよろしくお願いしますね」

「こちらこそ」

「・・・あら、白咲さん。こんにちは。今日はご一緒なんですね」

「は、はい。ええっと・・・」

付和奏ふわかなで。仲良くして頂けると」

「は、はい!」

「取材の間は一人で待たないといけませんよね?せっかくですし、何か体験してみます?」

「いいんですか?」

「勿論。あ、流石に打楽器は・・・負担になりそうですから。五十里君、白咲さんは私に任せてください。貴方は取材に」

「ありがとう、付和さん。お願いするよ」

「任されました」


付和さんは羽依里を連れて、空いたスペースで彼女に色々な楽器を用意してくれていた

それを横目でみつつ、たまにフルートやヴァイオリンを構えた彼女を目に焼き付けつつ、取材を続けていく


俺たちと同級生とか思えないような振る舞いをする付和さんは羽依里と同じように、親が会社を経営している社長令嬢という存在だと聞いたことがある

あくまで噂だ。それぐらいしか知らない

会話をしたのも今日が初めてな間柄だ

今年始めて一緒のクラスになった人だし、他のクラスメイトみたいに進路がどうとか話は一切したことがない


羽依里は、俺と一緒にいたいからと進路を変えてくれたけれど・・・

彼女はどうしてここに来たんだろうな。いつか聞く機会があったりするだろうか

ま、流石に無理だろうな。同性ならともかく、異性だし

良くも悪くも、俺はクラスメイトで終わりそうだ


それから俺たちは吹奏楽部の取材を軽く終え、最後の目的地へ向かう

最後は玄関付近に存在する園芸部だ

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