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【際会】

「これは完全な黒だな」


 私が付いて行った先は地下の薄暗い酒場だった。

 いや、酒場と言うべきじゃないかもしれない。


 ここにいる男女の殆どは裸だった。

 全員様子がおかしい。

 酒だけじゃないだろう。


「やはりクスリか」


「あんたも早く脱げよ」


 私を連れて来た男の一人が、私の肩へ手を掛ける。


「冗談じゃない。おい貴様ら、動くな。薬物使用の現行犯で憲兵へ突き出してやる」


 私は至極真っ当なことを言ったつもりだったが、男たちは笑った。

 男たちだけじゃない、この酒場にいた男女が笑い出す。


「おい、聞いたかよ!? このねぇちゃん、俺たちを憲兵へ突き出すってよ!」


 さらに笑いが起きた。


「貴様ら、私は……」


 王都駐留部隊の騎士であることを証明するバッジを見せようとした。

 しかし、着替えてしまったので、バッジを持っていないことに気付く。


「不愛想だと思っていたが、意外と面白いねぇちゃんだな。けど冗談は良いから、早く服を脱げよ。それとも無理やりされるのが希望か?」


 何人かが口笛を吹く。

 どうやら、私はこの酒場の見世物になりつつあるらしい。


「まぁ、どうでもいいがな」


 私は服を引っ張った男を投げ飛ばした。


 先ほどまでの笑い声はぱったりと止み、代わりに、

「何してんだ!」

「ふざけんな!」

などと怒号が聞こえて来た。


「怪我をしたくない奴は今すぐ膝を付いて、手を頭の後ろに組め」


 私の宣言を聞く者はいなかった。


「こいつ、後悔させてやる!」


 二十人、と言ったところだろうか。

 丁度いい、ストレスが溜まっていたところなんだ。


 私は空間魔法を使用して、模擬戦用の剣を取り出した。


 しばらくして……


「こいつ、魔法が使えるのかよ……」


 最後の一人がそう呟いて気絶した。

 相手にも何人か魔力持ちはいたが、使える程度では話にならない。


「おい、女たち、服を着ろ。お前たちにも事情を聞く」


 良い気分だった。

 そうだ、私はこうやって悪を成敗したかったんだ!


「まったく、あなたは抜身の剣のようですね。相手を傷付け、自分すらも傷付ける。心は真っ直ぐかもしれませんが、あなたはいつか破滅しますよ」


 優越感に浸っていた私の気分を害する者がいた。


 十代半ばくらいの少女だ。

 そんな場所に合わない高そうな服を着ていた。


「なんで子供がこんなところにいる? 無理やり連れてこられたのか?」


「う~~ん、無理やりではないですね。私はここへ望んでやってきました」


 王都はここまで腐敗しているのか?

 こんな少女が、こんなところにいるなんて……


「お前も大人しくしろ。子供だからって罪が軽くなると思うなよ。まったく、こんなところに出入りするなんて、親の顔が見てみたいな」


 私がそう言うと、少女はクスリと笑った。


「何がおかしい?」


「いえ、あなたは私のお父様にあったことがありますよ。ローランさん」


 えっ、なんで私の名前を?

 酒に酔って覚えていないだけで名乗ったか?


「この人たちにも寝てもらいましょうか」


 少女がそう呟くと隅の方でビクビクしていた女性たちは昏倒する。


「魔法か!?」


 だとしても、これだけの人数を一気に眠らせるなんて、どんな魔力量なんだ!?


「あなたにもちょっと眠ってもらいますね」


「魔法が使えるだけで良い気なるな」


「その言葉、そのままお返ししますよ」


 少女はそんなことを言うと一気に距離を詰めた。


「えっ!?」


「ちょっと記憶を弄りますね」


 少女は私の額をトンと人差し指で突いた。


 すると私は昏倒し、そこで記憶は無くなってしまった。




「頭が痛い……」


 目を醒ますと私は自分の部屋に戻っていた。


「酒を飲み過ぎたか。んっ…………? 私はいつ帰って来た? 昨日はリスネの手紙を見て、モヤモヤして酒場で酒を大量に飲んで、その後、ガラの悪い男たちに連れられて、あやしい酒場に行って……暴れた?」


 いやいや、多分、暴れていない。

 私にはきちんとした常識がある。

 理由も無しに暴れるなんてしないはずだ。


「と、とにかく顔でも洗って、落ち着こう。そうすれば、思考がはっきりして、昨日あったことを思い出すはず……んっ?」


 ベッドに誰かいる。

 ま、まさか、私は酒の勢いで男を連れ込んだのか!?


 私はバッと毛布を捲った。


「…………えっ?」


 そこにいたのは十代半ばくらいの少女だった。


「えっ? ええっ?? なんで???」


 昨日、私は何をした!?

 それにこの少女……


「なんだこれは?」


 胸に何かの角が埋め込まれている。

 かなり時間が立っているようで、角は少女の体と一体になっていた。


「どういうことだ?」


 私は自然とその角へ手が伸びる。

 だが、触る寸前で我に返る。


 なんで裸の少女と私は一緒に寝ているんだ!?

 それに私も寝巻になっている。

 昨日、一体何があった!!?


 ガン、と壁に頭を打ちつけた。


「うるさいですね……」


 少女がむくっと起き上がる。


「お、おはよう……」


 挨拶をすると少女は私をジッと見て、「昨日は凄かったです」と顔を赤くした。


 おい、誰か私を殺してくれ……

 いや、自分で死のう……

 その前に……


「君、服を着てくれないか?」


「でも、私の服はまだ乾きません」


 少女は室内の物干し棒を指差した。

 そこには見慣れない服がぶら下がっている。


「じゃあ、大きいだろうが、私の服を着てくれ」


 少女は私の服を着る。

 ブカブカの服を着た少女を見ると罪が増えた気がする……


「で、昨日、私は君に何をした?」


 答えによっては憲兵へ自首しよう。

 

「忘れてしまったんですか?」


 少女は悲しそうな表情になった。

 本当に昨日の私は何をした!?


「頼む。多分、酒のせいだ。昨日のことを途中から何も覚えていないんだ」


「そうなんですね。あなたは昨日、酒場へ無理やり連れ込まれて困っていた私を見つけて助けてくれたんですよ」


「それだけか。なんで私の部屋にいる?」


「夜も遅かったのであなたが家に泊めてくれると言ったので付いてきました」


 そんな覚えはないが、この少女が言うならそうなのか?


「なんで君は裸なんだ?」


「騒動でお酒がかかってしまったので洗ったんです。で、あなたが私をベッドへ入れてくれたんです」


「本当に、本当にそれだけなんだな。私は君にいかがわしいことはしていないんだな?」


「はい、何もしていないですよ」


 それを聞いてホッとした。


 女の子を襲って捕まった、となればリスネは呆れ果てるだろう。



 まだ昨日のことは思い出せないが、一旦、落ち着こう。

 私は日の当たるところへ物干し棒を移動させる。


「何か朝食を用意する。食べ終わる頃には服も乾くだろう」


「ありがとうございます」と少女は笑顔で言う。


 私はパンとチーズを温めてテーブルの上に置いた。

 少女と二人でそれを食べる。


 そして、食事を済ませ、少女は服を着替えた。

 ここへ連れてきたのは私らしいから、最後まで面倒を見るのが筋だろう。


「今日は非番なんだ。家まで送ろう」

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