3話
丘の上に繋いできた愛馬トーガの元へ向かう。
途中で気付いたんだけど、おんぶしているように見せながら、少し彼を浮かせれば楽だ。何でもっと早く気付かなかったかなぁ。
丘の上の大きな木の下でのんびり草を食べ居ているトーガが見えてきた。
「ただいまトーガ。ちょっと、乗せさせて~」
トーガの上に彼を乗せる。繋いでいた紐を解き、木々の茂る場所に移動した。
「さぁて。ここを家にしよう。」
心の中で唱える。
〈ここは私の思う家になる。周りからは認識されず、私の認めた者しか認識できない。お風呂もトイレもキッチンもベットルームもある。〉
めちゃくちゃな呪文と思われるかもしれないけれど、数百年生きて自分の望む形で魔法を使うにはどうしたらいいか試行錯誤した結果こうなった。
詳細までイメージするのだ。念入りにしたい部分は言葉として心の中で唱える。
ふわっと微かな光の粒が周りに舞い、魔法の家が創られていった。
家は内外共に私のイメージに左右される。外装は四角いテントって感じ。
中に入ってすぐは、外と同じ芝生の地面が続いている。トーガと馬車を置かないといけないからね。木でできた机と椅子、絨毯も敷いてある。
奥にはキッチンがあって、扉が2つ並んでいる。お風呂とトイレが同じで、もう1つがベットルームだ。
芝生の地面が意外と良くて、最近創る家はこのスタイルにしている。
以前、トーガと馬車を外に置くスタイルの家にしたときは、家を他の人にも認知できるようにしてしまって、一晩で見慣れない家が建ったと話題になってしまった。
「さて、彼をどうしようかな。」
しっかり睡眠をとってもらうためにも、ベットで寝かせるか。
見えるところだけでも綺麗にしてあげて、癒しの魔法をかけておこう。
浮かせてトーガの上から移動させて、ベットルームに運んだ。
意識が朦朧としていた彼は、寝てしまったようだった。
苦痛に顔を歪め、汗をかいてうなされている。
「よく、頑張っていたね。」
顔の汗を拭いていく。黒耳と黒髪も汚れや汗でべったりしている。
気にしていなかったけれど、猫の獣人なんだろう。
よく見る猫の獣人は尻尾が長くて、服の下からでも見えるくらいだったんだけど、彼の尻尾は見れていないや。
服も替えてあげたかったけど、寝かせてあげるのが優先かな。
早くお風呂にも入れてあげたいんだけどね、仕方ないね。
軽く食事を取って、お風呂に入り、馬車の中で布団にもぐる。
こんな家を創る魔法に慣れてからは、トーガの引く馬車は簡易ベットになっている。別に乗せる荷物もないし。簡単に家を創ろうと思ったら、ベットルームの細部をイメージするのを省くのが楽だと気づいたんだよね。
今晩、夜に仕事をしないといけないから、夕方だけど、一旦寝ておかなきゃ。
「うっかり連れをつくってしまったなぁ、何百年ぶりだろう。……でも、後悔はしてない。さて、なんてお告げするか考えなきゃ。」
私の聖女としての仕事。10年に1度、国王への祝福を授け、何か懸念があればお告げとして伝えてきた。
今回はそうだなぁ、奴隷に関して……獣人への差別……
格差があること自体は仕方がないのだ。平等なんて夢物語。私だってわかっているけれど、それでも国王がそれを否定するような制度を許してはいけないだろう。
奴隷制度を撤廃せよ。 この一言に尽きるね。