智夏の事情
智夏side
わたしは私立 清葉学園 中等部に通う中学二年生。
特に目立つでもなく、ぼっちになるでもなく、何人かの友達に囲まれて毎日楽しく、普通に過ごしている。
「あのねぇ、あんた」
この子は親友の晶。
つり目とツッコミがチャームポイント。
「 “普通” って単語が一番似合わない人がなに言ってんの。」
「え、あきったらどうしたの急に」
「……ほんとだ。どうしたんだろ。なんかちぃが間違ったこと言ったような気がして。」
「やだなぁ、もう。らしくないぞ ☆」
「ごめん」
そしてエスパーです。
何故わたしが思っていたことがわかる。
たまに恐ろしくなる子だ。
「そういえばさ、テストどうだった?」
「わたし?うーん、あんまり納得いってないかな。」
葉奈ちゃんが話しかけてきた。
天然パーマのツインテールがチャームポイント。
「そっか。それは残念だったね。」
「うん、多分理科の大問七の⑶間違えた。」
「それだけ?」
「うん」
「葉奈、この子の納得いかないをうちらと比べちゃだめだ。」
「そうみたいだね。」
「え?」
「はぁ」
「ふふふ」
「はいはい、じゃ、始めるよー。みんな座ってー。」
次は社会のテスト返却だった。
当然のごとく、わたしは百点。
あきは六十点。
葉奈ちゃんは九十六点。
「お前らおかしいっ!」
授業後、あきはテストを握りしめ、血眼でそう言った。
「まま、わたし社会得意だし。」
「そうだよ。人それぞれ得意なことは違うでしょ?」
以下テストの結果
《智夏》
国語 : 97点
数学 : 100点
英語 : 98点
社会 : 100点
理科 : 98点
《晶》
国語 : 39点
数学 :43点
英語 : 46点
社会 : 60点
理科 : 60点
《葉奈》
国語 : 90点
数学 : 76点
英語 : 95点
社会 :96点
理科 : 88点
「うち、社会が一番ましなやつなんだよ…」
あきがぼそっとそんなことを言った。
わたしと葉奈ちゃんは、そっと顔を背けた。
放課後。
あきと葉奈ちゃんと帰ろうと鞄を肩にかけた時、外ポケットがブブブブ、と震えた。
「あ、例の?」
「…はぁ。多分。」
あきの言葉に、わたしは疲れたため息で答えた。
渋々、スマホを取り出してパネルを見る。
「え、お兄ちゃん!?」
そこには【お兄ちゃん】と表示されていて。
沈んだ気分から一転鼻歌でも歌いたくなるような気持ちになる。
「ちぃはほんとにお兄さん好きだねぇ」
「ほんとにねぇ」
あきと葉奈ちゃんが呆れた顔と、微笑ましい顔で笑う。
「うるさいな。いいじゃん、大好きなんだから。…もしもし?お兄ちゃん?」
『……あ、智夏…?』
「……どうしたの」
電話の先の兄の声は、その先何を言いたいのかわかるほど乱れて、申し訳なさそうな声が喘ぐ隙間をぬって聞こえてくる。
『ごめ…っ、…息…苦し…て…電ぁ…頼んで……い…かな……っ、!』
「分かったから、もう喋んなくていい!頑張れたら、家の鍵開けておいて!出来そうもなかったらいいから!」
『……う……ん…』
「どうかしたの?」
あきが心配して声をかけてくるが答えている暇がない。
『はい、119番でございます。』
「あの、○○市○○区○○町8–12–3に救急車をお願いします!兄が呼吸困難になっていて」
『○○市○○区○○町8–12–3、ですね?分かりました。お名前を伺ってもよろしいですか?』
「袙智夏です。あの、家の鍵は壊してもらって構いません!」
『はい。救急車を一台、向かわせます。』
「お願いします!」
『では、失礼します。』
切ると、怖い顔をしたあきと目を潤ませた葉奈ちゃんがそばで何も言わずに立ってこっちを穴が開くほど見ていた。
「ど、どうしたの、二人とも」
声が震えそうになるのを、喉の奥に飲み込んだ。
あきが手を広げる。
「そんな顔してるちぃは、見たくない。おいで」
「ちかちゃん、お兄さん…」
「だ、大丈夫だよ、多分。たまにあるの、こういうのは。まだ意識あったし、電話出来る程度にはまだ…」
「ちぃ。来い」
よろよろと、言われるままにあきの懐に入り込む。
あきが、むぎゅっと抱きしめてくれた。
「大…丈夫だよ…そうだよ。大丈夫だもん。」
あきの手がわたしの頭をこねくりまわす。
何度。
何度、言葉を、涙を、飲んだだろう。
今度こそ死んじゃうかもしれない
一人ぽっちにされるかもしれない
絡め取られそうになる度に、あきが引き寄せて、守ってくれる。
「大丈夫だよ」
背中を撫でる手にどれほど救われているかなんて、知らないだろう。
「うん」
今日も、行けばお兄ちゃんが笑って謝ってくるんだ。
きっとそうだ。
きっとーーーーー




