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彼女の事情

二日後、また病院で彼女と会った。


「どこか、悪いんですか?」

「いいえ、友達のお見舞いなの。」


妹を介して言いたいことを伝えてもらいながら会話をして、たまに妹が個人的に聞きたいことを挟んで、三人でおしゃべりをしていた。


「友達が骨折しちゃってね。でももう今日退院なの。」


彼女の言葉が、琉の心にぐっさりと突き刺さる。


「そうなんですか!良かったですね。」


妹が個人的に祝辞を述べる。


「うん、ほんと、良かったよ。ちゃんと骨もくっつくみたいだし、またバレーボールができるって喜んでた。」

「ほのかさんはバレーボール部なんですか?」

「あ…うん、まあね。」


一瞬、彼女が顔を歪めた気がした。

妹もそれをなんとなく感じてすぐに別の話題を持ち出した。


「あ、そうそう、今うちのクラスで…」


別の話題が出たことに安心したのか、彼女はすぐにもとの表情に戻った。


(なんなんだろう。バレーボール、好きだよな?)


バレーボールの試合を観てはしゃいでいた彼女の姿と今の姿のギャップに、琉は心の中で首を傾げた。


「そろそろ、わたし帰るね。」

「あ、はい。」

「琉くんもバイバイ」

「さようなら」


琉の手話を訳して、妹の智夏ちかは出入り口に向かう彼女に付いて歩いて行った。

残された琉は、寂しく思いながらほのかの姿を目に焼き付けていた。


(また…いずれ)


どこかで。





それは案外早く、叶うことになった。


「琉くんに会いに来ました!!」


病室の扉ががらがらと音を立てて、元気のいい声が空気を軽くさせた。


「入院することになったーって智夏ちゃんから聞いたの。大丈夫?」


いつの間にそんな仲良くなったんだ、と驚きつつ、ちょっと羨ましいと思った。


『大丈夫。ちょっと息が苦しくなっただけだから。それもそんなに酷くなかったし。すぐ退院できると思うよ。』


携帯にそう打ち込んで、彼女の方に向けると、


「えぇっ!大事じゃん!」


心底驚いたような声でのけぞった。


「え、なに、よくあるの?」

『よく、というか、まあ、少なくはないかな?』

「へぇ。そうなんだ。大変だ。」

『僕、片方しか肺が動いてなくて。それのせいで一度に半分の酸素しか吸えないから。』

「え…生まれつき?」

『うん。前から動きは悪かったかな。完全に機能しなくなったのは最近だけど。』

「そっか…」

『そんな深刻な顔されても…こんな話、軽くそうなんだぁ〜くらいで受け流してくれていいよ。つまんないでしょ。』

「あ…うん、そうだよね。ごめんね。突っ込んだこと聞いちゃって。」


申し訳なさそうに言う彼女に、笑って首を振ると少し表情が和らいだ。


『学校帰り?』

「そうそう。」

『わざわざありがとう。』

「気にしないで。来たくて来たんだから。」

『そう言ってくれると嬉しい。こそばゆいけど。』

「はははっ!そーかもね。ちょっとわたしも恥ずかしかった。」


歯を見せて笑う顔も、すごく可愛いかった。

目を離すのがもったいなくてじっと見ていたら、


♪ はいさいおじさん はいさいおじさん

ゆーびぬさんごびんぐぁぬくとんな〜

ぬくとら わんにわきらんなぁ〜 ♪


「や、やだ!?電源切るの忘れてた!」


不思議な旋律が聞こえてきて慌てた彼女がポケットやら鞄やらをがさごそとあさって何かを探していた。


「あ、あった」


取り出したのは携帯、しかも今時珍しくガラケーだった。


「まさか…今の…」

「えっ、なになに」

「着メロ…?」

「そうそう、いい曲でしょ。ごめんね。」

『外国の歌?』

「いやだなぁ、違うよ!日本語だよ。」

『今のが日本語?』

「そうだよ。沖縄語ウチナーグチっていうの。沖縄の方言。わかった?」

『あぁー、沖縄ね。なら納得。』

「はははっ、なにそれ」

『だって、あそこは異国だもん。琉球王国だったからね。外国語と言っても間違いじゃないよね。』

「まあ確かに。」

『どうかしたの?』

「え…ううん、なんでも。」


彼女が携帯を見て顔を強張らせた。

無理に取り繕ってはいるが、罪悪感と自己嫌悪、後悔、色々な負の感情が垣間見える。


「あ、の…ごめん。もう帰るね。」

「うん…きょ、は、あり…がと」


きごちなく笑って出て行く彼女を慰めたかった。

どうしたの、って、たくさん聴いてあげたい。

後を追いたい。


「ふ……ぅ…」


でも、それが出来ないなんてことは、いつもつきまとう息苦しさで十分過ぎるくらいにわかっている。

なんだか、喉に何かが詰まったようだった。



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