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少女

病気のことをよくわからないまま書いておりますので間違っているところがあるかもしれません。軽く流してください。

運動とは無縁の体に生まれて、幼い頃はまだ走ることが出来たのだけれど、今では歩くこともままならなくて、酸素ボンベと車椅子と共に過ごす日々を送っている。


最近、病院に行くとよく会う女の子がいる。

髪がとても短くて、耳にかかるかかからないくらい。

大きな瞳が印象的なとても可愛いだ。

その娘に会えるとその日一日がとてもきらめいて、良かったなと思える。

動かない体でも、生きていける気がする。

この気持ちを何と言うのか、知らない。

恋愛対象ではないような、言葉にしづらい愛しさを、彼女に対して抱いている。

完全に、一方通行だけれど。


病院の待合室に設置されているテレビでバレーボールの試合中継をしていた。

昔見た試合に影響されて、バレーボールの試合を観ることが大好きなので食い入るように見つめていると、もう一人、真剣な眼差しで見つめる人がいた。


(あの娘だ…)


瞬きもせず、口を引き結んで、固唾を飲んで見守っている。

落ちるギリギリのところでボールを拾ったとき、


「よしっ!」


自分がどこにいるのかも忘れて完全に試合ゲームに入っていた。

彼女の大きな瞳には、バレーボールしか映っていなかった。


(かわいいなぁ)


真剣な表情も可愛い。

いつの間にか、バレーボールの試合はどうでも良くなっていた。


「やっっったああぁぁぁ!勝ったっ!!!」


彼女が勝利の雄叫びをあげたとき、初めてぼーっとしていたことに気がついた。

そして彼女も、叫ぶ己がどこにいるのか気がついたらしく、両腕を挙げてガッツポーズをしたまま「はっ!」と両目を見開いて固まった。

慌てて周りを見た彼女と、なんとなく目を離し難くて見続けていたりゅうの目が、バチッと交わった。


「は あ ぁぁぁぁああううううっ!」


途端、彼女の顔が真っ赤に染まっていく。

涙目になってきて、変な声を発しながら鞄を掴んで外へ走って行ってしまった。


(あらら、行っちゃった。お話出来そうだったのに、残念。)


でも初めてこちらを認識して、琉だけを見た彼女の瞳が、とてつもなく、嬉しかった。




3日後に病院へ行ったとき、あの娘が、なんと琉のそばにきて、


「あの、この前は、変なことしちゃって、驚いたですよね。駆け去ったりして、すみませんでした。」


膝の前に鞄を持って、ぺこりと頭を下げてきた。


「あっ…いや、そんな…」


驚いて、とっさに言葉が出てこなかった。

ついでに、声も、ガサガサかすかすで、ほとんど出なかった。


「え?」


女の子が顔をあげた。

聞き取れなかったらしい。


あの、僕、声が出ないので


これで察してくれるだろうかと、手話で話してみたところ、


「あっ、やだ、聞こえないんですか!?すみません!ってこれも聞こえないか、ええと、ちょっと待ってください!」


手のひらを何度も前に出して必死な彼女を、なんだか騙しているみたいで困った。


「そ…じゃ、なくて…僕…声が…出ないんです。」


久しぶりに頑張って、出せる限りの声を振り絞ったら、


「あ!なんだ、ごめんなさい!わたしったらまた早とちりしちゃって!手話は分からないので、その声で構わないので、もう一度、言ってもらえますか?」

「えと…それは…ちょっと…」


きつい、と言いかけて、息が切れた。

手話を使うのは、声が出ないのもあるが、言葉を話すのが億劫だからで、酸素がものすごい勢いで失われていくからだ。

一度に、普通の人の半分しか空気を入れ替えられない琉にはきついことだった。


「大丈夫?ごめんね、無理させて」


彼女が眉を下げて背中をさする。


「っ!」


彼女の手の感触が直に伝わって、心臓が跳ねる。

息苦しさに拍車がかかって、頭がぼーっとしてきて、なんだかよくわからなくなってくる。

ただ彼女の手の感触だけが、意識を支配していた。


「お兄ちゃん!?急にどうしたの?」

「すみません!わたしが無理に喋らせたのがいけないんです!」

「後ろのポケットにマスクが入ってるので」

「えぇっと…あ、はい!これですね!」


だんだん頭がシャキッとしてくるのがわかって、それと同時に、スー、スー、という音が聞こえてくる。

細めの、女の人の手が見えて、腕をなぞっていくと、あの娘と目があった。


「大丈夫!?ごめんね」


心配しているようだった。


「琉くん、大丈夫?」


馴染みの看護師さんが前にしゃがんでいた。

今の状況に戸惑いつつ、こくりと頷くと、看護師さんは笑顔で仕事へ戻っていった。


「あり…がとう…ご…」

「いい、いい!無理しないで。もとはと言えばわたしが悪いんだから。ほんとに、ごめんね。」


情けない。

彼女が謝らなきゃいけないようなことは、何一つだってないのに。

ただ、普通に会話をしようとしただけなのに。

自分の体が情けない。


わずかにうつむいて、また、


「ごめん…」


と微かに呟いた。

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