あとがき
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この物語の始まりは、雪国では当たり前のように見かける除雪車でした。
冬の朝、外へ出れば道路の雪はなくなっている。
けれど、その道は勝手にできたものではありません。
まだ町の多くが眠っている時間に電話が鳴り、車庫に人が集まり、重機のエンジンがかかる。暗い道路へ出て雪を押し、夜が明けるころには、いつもの道ができている。
そんな除雪の仕事を物語にしたら面白いのではないか。
そこから、この話は始まりました。
そして考えているうちに、まったく別のものが入り込んできました。
もし、誰もいないはずの雪道に、得体の知れないものが立っていたら。
除雪車のライトに照らされても、何も見えないほど真っ黒なものが、じっとこちらを見ていたら。
そこから生まれたのが、この物語の「黒いやつ」です。
ですから、この作品では怪異を書くのと同じくらい、除雪の仕事そのものを書くことを大切にしました。
竹を立てる。チェーンを巻く。雪が降りそうな夜には、何時に電話が来るだろうと気にしながら眠る。
深夜に集まり、それぞれの重機に乗り込み、まだほとんど車の走っていない道へ出ていく。
雪を押すだけではありません。ロータリーで飛ばし、ダンプで運び、凍った道路には凍結防止剤を撒く。雪が少なくなれば春排雪が始まり、それが終われば、それぞれの仕事と生活へ戻っていく。
冬の間、除雪車に乗っている人たちにも、それぞれ普段の仕事や暮らしがあります。
雪が消えれば、また別の毎日が始まります。
そんな日常の中に突然入り込んできたのが、この物語の「黒いやつ」でした。
とんでもない異常事態です。
それでも、雪は降ります。
黒いやつが出ようが出まいが、朝になれば人が道路を使います。雪が積もれば、誰かが重機に乗って道路を開けなければなりません。
怪異が現れても、仕事はなくならない。
恐ろしい目に遭った翌日にも、また雪が降る。
そんな怪異と日常が同じ場所にある話を書きたいと思いました。
荒神様と黒いやつについては、最後まで明確な答えを出しませんでした。
荒神様が壊れた。
黒いやつが現れた。
石像を直して、お祓いをした。
そして最後に、浩志は黒いやつに効いた岩塩を、荒神様へぶちまけました。
そのあと何が起きたのかは、エピローグに書いた通りです。
最後に浩志も、一つの可能性に気づきます。
そして、
「……くだらねぇ」
と切り捨てました。
それが本当にくだらない考えだったのかどうか。
そこから先は、読んでくださった方にお任せしたいと思います。
雪国の冬には、夜中に重機の音が聞こえることがあります。
布団の中でその音を聞いていると、少しずつ近づいてきて、やがて家の前を通り過ぎ、また遠ざかっていく。
朝になれば、そこには道があります。
普段なら、それだけのことです。
もし冬の夜中に目を覚まして、遠くから除雪車の音が聞こえてきたら。
ほんの少しだけ、この物語を思い出してもらえたら嬉しく思います。
そして、何となく気になってカーテンを開けてみた時。
雪の降る道路にいるのが、除雪車だけなら。
きっと、何の問題もありません。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。




