番外編「宝物の手紙」(投稿サイト限定書き下ろし)
鍵付きのボックスを開けると、たくさんの手紙が収まっていた。
俺がまだ養護施設にいた頃、リュウが書いてくれた手紙。
まだ付き合う前だったし、リュウは俺より一回りも年上で、大人のひとだった。
だから俺、恋を自覚するのが遅かったんだよな。
この手紙は、俺の宝物。
たまには虫干ししようと思って、机の上に広げた。どれもシンプルだけど、高級感のあるセンスの良い封筒ばかりだ。
そのうちの一つを取って、開けて見る。
「ん~、これ、どんなこと書いて送ったんだろ?」
リュウからの返信の手紙を読んで、必死に自分の書いた内容を思い出す。
たしか、こんな感じだったはずだ。
『司さんへ。
今日は朝から晴れてた。雨じゃなくてよかった。雨ふると、なんか気分がおちるからさ。
司さんに言われて気付いたけど、俺、けっこう甘い物が好きだったかも。ユイがチョコレートが大好きで、ハミガキさせるのも苦労してたな。ユイといっしょに、おやつ食べてたから。
母さんの作るプリン、すっごくおいしいんだよ。ルセット、残ってるかも。あれみて、また作りたいな。他のお菓子も。
父さんも、母さんのお菓子が大好きだったんだ。ウイスキー飲みながら、母さんのクッキー食べてたりして。
俺も好きだった。
裁判、大丈夫だよね? ぜったい、アイツを死刑にして……。
こんなこと、司さんにしか言えない。
早く、大人になりたい。ここにいる奴らなんか、大嫌いだ。
司さん。次の墓参りに会えるの、楽しみにしてるね』
中学生の俺は、文通なんて初めてだったから、いつも脈絡のない言葉を綴って、ひたすら思いをはき出していた。
リュウからの返事の手紙は、ブルーインクのキレイな文字で綴られている。
『尚也君。火曜日と金曜日に手紙が届きました。
いつも手紙を送ってくれてありがとうございます。
裁判のことですが、僕は全力を尽くします。詳しいことは話せませんが、どうか待っていてください。
尚也君のお母様は、パティシエだと教えてくれましたね。
いつも、手作りのおやつだったというお話。
そして尚也君は、食事をする時によくデザートを頼みます。きっと甘い物が好きなのだろうと思いました。
僕は得意ではないので、見ていると不思議な気持ちになります。
貴方の好きな物を、もっと教えて下さい。次に会うときに、お土産に持っていきます。
それから、僕には何でも話してくれて構いません。
僕は尚也君の味方です。
貴方の側で話を聞いてあげられないことは、申し訳なく思います。
次に会う日を、僕も心待ちにしています。』
リュウの手紙は、何度も読み返したので、しわになっている。
届いたいくつもの手紙が、どれほど俺を支えてくれたか。
「リュウって……この頃から、俺のこと好きだったんだよなぁ」
そう思うと、くすぐったい気持ちになる。
コンコン、とノックをする音に、手紙を置いて急いでドアへ駆け寄る。
「はーい」
引き戸を開けると、リュウが立っていた。
いつもの黒いスーツ姿だ。
初めて会った時から、もう六年が経つけど、どんどん格好良くなってるよな。
「リュウ、もう帰ってたんだ?」
「はい」
午前中は仕事だって言って出かけたのに、一時間くらいしか経ってない。
でも、そういうこともよくある。
「ナオ、邪魔をしてすみません。夏の墓参りの日程を相談しようと思いまして」
「あ、ホテルもう押さえとくんだ?」
「はい。ちょうどお盆の時期ですから」
「電車と新幹線使っても、混むもんなぁ」
東京から遠く離れたこの街に引っ越してから、家族の墓参りは一年に一回。命日に合わせてだ。
早めにホテルと乗り物を押さえておかないといけないし、命日から多少ズレてもいいから、ちゃんと時期を選ばないと渋滞に巻き込まれる。
一週間は家を空けるから、俺の店も休業しないといけないし。
前もっていろいろ準備がいるのだ。
リビングのローテーブルには、リュウのパソコンが開いて置いてある。隣には、リュウの紺色のマグカップも。
「俺も、カフェラテ飲もうかな」
「冷蔵庫にケーキが入ってますよ」
「え、ホントに!?」
「帰りに先ほど、買ってきました」
「やった!」
リュウはよく、俺の為にお菓子を買ってきてくれる。
どれも美味しいから、楽しみだ。
「ありがと、リュウ」
「いえ。貴方の口に合うと良いのですが」
お礼を言うと、リュウが優しくほほ笑む。
俺、愛されてるよなぁ。
「じゃあ、お茶の準備しよ」
「はい」
俺はニヤニヤする頬を押えながら、リュウと一緒にキッチンへ向かった。
(終)
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