51.お風呂で現実が進んでいくのを感じる
「ふぅ……」
私は湯船派だ。
バスタブに熱めのお湯を張って、ぼんやりとするのが好き。
お姉ちゃんの買ってきたバスソルトはすごくいい香りだ。
上体をバスタブに預ければ体の芯までほぐれて、お湯と一体化しそうだ。
今日はみんなとカラオケに行った。
春野先生も一緒だったのには驚いたけど、三人が彼女と仲良さげだったのにはもっと驚いた。
エリカさんは社交的だから声をかけたんだろうか。
三人は年上の春野先生相手でも物怖じしないというか、まるで友達みたいに接していた。
私は最近、歌の練習があるため、すぐに帰宅している。
そのためもあって三人と遊んだのは久しぶりだった。
「カラオケ、行けてよかったな……」
湯船に沈みながら今日のことを思い出す。
何より助かったのは、透子さんのアドバイスだった。
姿勢を意識することで、何倍も声の出方が変わる。
意識を変えて練習してみようと思う。
それにしても……今日の透子さんはすごく積極的に教えてくれた。
腰と背中に手を添えて、姿勢を整えてくれたのだ。
今日は距離も近かったからか、少しだけ緊張してしまった。
シトラス系のいい香りがしたのもあるのかもしれない。
あれはシャンプーとかの香りなんだろうか、香水とかつけるんだろうか。
私の緊張がうつってしまうのだろうか。
透子さんは私と喋るとき、けっこうしどろもどろになったりする。
エリカさんやふみさんと話している時には自然体なのに。
私にももう少しざっくりしてくれてもいいのに、なんて思ってしまう。
別にエリカさんたちに嫉妬しているってわけでもないけど。
「胸か……」
胸元のふくらみに手を寄せる。
うーむ、また大きくなっている気がする。
この間までそんなでもなかったのに、どうして育つんだろう。
私の理想としては透子さんみたいな体型が理想だなって思う。
スレンダーで、腰が細くて、お尻も持ち上がっていて。
あんな体型になりたいなって思う。
ないものねだりなのかもしれないけど、いいなぁって思う。
私の体君、もうちょっと背を伸ばしてくれないかね。
そう言えば、今度はみんなで下着を買いに行くという。
恥ずかしいなぁ、さすがに見せ合いっこなんてしないとは思うけど。
どうなんだろう。
エリカさんの下着姿なんて見た日には、神々しくてフリーズしてしまいそう。
いや、厳密には体育の着替えの時に下着姿で絡んでくるので、見たことはある。
できるだけ直視しないようにしてはいるけど。
ううむ、なんだかモヤモヤする。
お風呂でのぼせてしまったからだろうか。
そろそろ出ようかと上体を起こした時のことだった。
「おつかれー! 一緒に入ろっ!」
「へ? ちょっとぉおお!?」
驚いたことにお姉ちゃんがお風呂に入ってきた。
さっきまで家にいなかったはずなのに帰って来たらしい。
「いやー、ダンスレッスンだったからさぁー。こちとら歌イベ近いし、大変なのよ」
「だからって断りもなく入ってこないでよ」
姉は私のプライベートを何だと思ってるんだろうか。
小学生のころと何も変わらない扱いをしてくる。
私も少しは大人っぽくなってきている……はずなのに。
「あはは、だって汗かいちゃったし、いいじゃん」
姉はシャワーをがぁーと浴び始める。
頭をがしゃがしゃ豪快に洗う。
ぬるめのお湯が好きだし、私とは何から何まで違う。
それにしても、ダンスかぁ。
姉は来月の歌のイベントで振付込みで歌うのだろうか。
ぶいぱら所属のVtuberは歌って踊れるアイドルとして、マルチな能力を求められる。
姉は昔から運動も得意だったし、歌も得意だった。
私じゃ逆立ちしても無理だなぁって思う。
運動全般苦手だし、他人様の前でダンスするとか想像できない。
少しだけモヤモヤとした気持ちになる。
姉と比べて自己評価が下がってしまうみたいな。
『私、ゆめめさんの声が好きで、その声を活かせば絶対にいいものが作れると思うんです』
『ゆめめさんの歌は世界の宝物になるっティ!』
そんな時に思い出すのは、Spring Worldさんやミスティさんの言葉だ。
私の声を好きだと言ってくれた二人のために、いま、できることをするしかない。
「あれ、嬉しそうな顔してどうしたの?」
「べ、別に……。って、入ってこないでよ! 狭いんだから」
「えへへー、たまには妹の発育を把握しとかないとね!」
「そういうのいいから!」
姉は無理やりバスタブに入ろうとしてくる。
真っ正面に来られてジロジロ観察されるのは恥ずかしい。
だって、全身見られるわけで!
「でりゃっ!」
「ひゃぶっ!? かわいい冗談だったのにぃ」
私は姉の顔にお湯をかけると、その隙に浴室から抜け出す。
追いかけてこないと思うけど、急いでタオルを体に巻く。
「ゆうなー! うちの歌イベント、ぎりぎりまで一般応募可能なんだって。興味があればエントリーすれば? 私はいつでもウェルカムだよ」
「え、あ、うん……」
浴室から姉の元気のいい声が届く。
まるで私の思いを見透かしているかのようなアドバイス。
私はまだMVもできてないし、できるかどうかもわからないんですけど。
だけど、姉の気遣いに少しだけ嬉しくなる。
もしかしたら。
ひょっとしたら。
そんなことを想像してしまってワクワクしている自分がいるのだ。
透子さんに言われたことをちゃんとまとめておこう。
チャンネルのリスナーさんのためにも、Spring Worldさんのためにも、そして、ミスティさんのためにも、私はあの歌を歌いこなさなければならないのだから。
◇ 藤咲あさひ談
妹を驚かせてやろうとお風呂に乗りこんだ。
しかし、数秒後、私が驚くことになる。
育っていた。
妹は。
思わず二度見した。
前に温泉旅行に行ったときは、そんなことなかったよね?
いつの間に?
そりゃ、うちの妹もJKだ。
いつまでも子供じゃないとは思っていた。
少しずつ私に似てくるのかな、なんて思っていた。
少しずつ?
冗談じゃない。
可及的速やかに、変わってるじゃないの!
そう、私は追い越されていたのだ。
身長は私のほうが少し高いくらいなのだが。
あっちの方はもう完全に私を追い抜いていた。
ダブルスコアで負けそう。
なんなの、これ!?
なんなんですか、これ!?
いやいや、私だって花の大学生だ。
今からだって、必ず成長するよね!?
湯船でマッサージすると血行改善するという眉唾な動画を見てしまう私なのであった。
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