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ASMR系VTuberの私、ぼっちのはずがなぜかクラスの美少女に溺愛されてます!  作者: 海野アロイ
第一章 ASMR系Vtuberの私、ぼっちのはずがクラスの美少女に囲まれています!
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31.SS 朝霧さん、鏑木さん、加賀見さん、ASMRをやってみる




「ゆめめ様のASMRってすごいわよね。まるで私の魂に直接話しかけてくるみたい」


「本当だよねー、なんであんなに美味しく食べられるんだろー?」


「エリカ、いっつも食べ物のことばっかりだな」


 ゆうなさんが学校を休んだ日、私たちは三人でお昼ご飯を食べていた。

 エリカとは前から食べていたが、ふみも私たちの輪に入った形だ。


「どうやったら、あんなふうに喋れるんだろー?」


「ただの小声じゃなくて、テクニックがあるんじゃね? 知らんけど」

 

「ゆめめ様の技術は業界随一よ、私が言うんだから間違いないわ。努力もあるけど、天賦の才能だって私は見てるんだけど」


「あんた、どこから目線なんだよ」


 話題はゆめめ様のささやき声に移る。

 エリカの言うとおり、ゆめめ様のウィスパーボイスは格段に気持ちいいのだ。

 耳の奥、いや、脳の奥までをくすぐってくるような心地よさなのである。


「そうだ! 推しをもっと知るために、私たちもASMR、やってみよーよ?」


「はぁ? できるわけないでしょ」


 エリカが悪ふざけで録音アプリを立ち上げる。

 そもそもマイクがないんだし、録音がちゃんとできると思えない。


「そういえば、ゆめめの配信でAir Pods Proでもできるって言ってたな」


「それだー!」


 エリカの誘いにふみが乗る。

 確かにゆめめ様のチャンネルでも、AirPodsで録音する方法を紹介していた。


「まずはとーこからやってみよー! ささやき系の甘々が好きなんだよねー? 一発、甘いの頼むわー」


「はぁ? そんなのやるわけ」


「えー、できないのぉ? それでもゆめめファンのつもりー?」


「ASMRの一つもできないなんて、透子さん、だらしなぁい、ざぁこ、帰ればーって言われるんじゃね?」


「言わせておけば……」

 

 エリカとふみは私を異様に煽ってくる。

 確かに一理あるとは思うのだ。

 ファンならば、推しのASMRのやり方を熟知しているもの。

 かくいう私もゆめめ様の流儀はたしなんでいる。

 ほとんど暗記してる配信もあるぐらいだ。


「人前でやるのは恥ずかしいから、ちょっと席を外すわ。見てなさい! 私を本気にさせたことを後悔させてやるんだから」


 かくして、私は資料準備室に走りこみ、Airpodsに向かって録音をするのだった。

 目指すは甘々ASMR。

 ちょっと失敗した部分はあるけど、いい線行ってると思う。

 ゆめめ様の台本がいいって言うのもあるけど、私もASMR、向いてるかも。


「できたわ! まぁ、言っちゃ悪いけど自信作ね」


「よぉし、聞いてみよ!」


「ちょい、なんでここで!?」


「再生!」


 私の制止もかなわず、ふみが再生ボタンをタップする。

 他の生徒に聞かれるのは恥ずかしすぎるんだけど。


『……今日はおやすみASMRをやっていこうと思うわ、……思います! えっと、マッサージしますね。さっさと座って、じっとしてるのよ? じゃ、叩くわよ(背後にドカッ、バキッという打撃音が入る)』


「あはは、せっかちさがにじみ出てるー。リラックスできないわ、これ」


「マッサージの音が怖いんだけど」


「うるさいわね! いきなりASMRなんかできるわけないじゃないっ! 次はエリカ、あんたがやってみてよね」


 二人には全くの不評だった。

 せっかく私がマッサージを実演したというのに。

 腹が立ったのでエリカに見本を見せてもらうことした。


「よぉし、これでどうだっ!」


 三分後、エリカがダッシュで戻ってきた。

 大型犬みたいな女だ。

 っていうか、口元にパン粉がついている。

 大体、何が起こるか予想できるというものだ。


『今日は―、私と一緒に―ご飯食べよー? えへへ、私、フランスパン好きでー、食べまーす(背後に思い切り、「くちゃくちゃ」系の咀嚼音が入る)』


「⋯⋯エリカ、言っとくけど、クチャラーは死んだ方がマシよ?」


「食べてる音がかわいくない! 背筋がぞわぞわすんだけど!」


「いやー、咀嚼音を大きくしようと思って頑張ったんだけどさー。むずいよー」


 エリカは食事系のASMRを録音したが、全然だめだ。

 現役モデルのエリカをもってしても、不快感の方が強い。

 っていうか、ゆめめ様はどうしてあんなにかわいく食べられるのだろうか。


「それじゃ、最後はふみ、いってみよー!」


「しょうがかいか。ま、あんたらとは格が違うところを見せてやるよ」


 ふみは自信満々でそう言い放つと、廊下へと消えて行った。

 あの子はあぁ見えて真面目だ。

 エリカとは違って常識の範囲内のASMRになるんじゃないかしら。

 それにしても、私もエリカと同類にされるのは腑に落ちない。


「さぁ、聞いてみてよ。これが私の作品ってやつ」


 ふみもまた自信満々だ。


『今日は漫画を読むASMRをやっていこうと思います。紙の本のめくれる音とか、そういうのを感じて下さいね。よぉっしゃ、読むぞぉっ! うわ、この見開きの構図、痺れるっ! うぉぉお、熱いよ、この展開ッ! ひゃっほぉおおー!』


「……あんた、ASMRって知ってる?」


「マンガ読みながら、独り言を言うのやばいよー? 後半、叫んでるし」


 ふみのはただの独り言でしかなかった。

 うるさいし、紙の本のめくれる音なんて聞こえてくる余地もない。


「そっかぁー、やっぱジャンプじゃムリかぁー」


「そういう問題じゃないけどねぇ」


「あんた、電車で漫画読むの止めなさいよね?」


 ふみはいまいちよくわかっていないようなので釘をさしておく。

 いくら小柄で可愛らしくても、周囲の人は引いてしまうだろう。


「それじゃさぁ、ゆめめちゃんのを聞いてみよ―よ?」


「いいわ。口直しってわけね」


「んじゃ、昔のささやきASMRにしてみよっか? 一番最初のASMRぽいから、さすがのゆめめでも素人くさいんじゃない?」


『こ、こんばんはぁ、悠木ゆめめです。えっと、みなさん、ASMRって知ってますか? 私、そのぉ、ASMRが大好きで、今日はささやき系の……』


 自分の化け物のような録音を聞いた後だったからか、ゆめめ様の破壊力はすさまじかった。


「中学三年生で、これって何!?」


「かわいすぎる! エロい!」


「破壊力えぐいっ!」


 私たちは三人が三人とものけぞってしまうのだった。

 ゆめめ様、あなたのささやき声はもはや凶器の類いですよっ!

 


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるんじゃっ……!」


と思ったら


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