29.悠木ゆめめのチャンネル、爆伸びのお知らせ
「あんた、大変なことになってるよ!?」
「ふぁ!?」
マイクテストをした次の日、私はお姉ちゃんにたたき起こされた。
土曜日の朝ぐらい、しっかり寝かせて欲しい。
お姉ちゃんは私にぐいっとスマホを見せつける。
「ほら、ニュースになってるじゃんっ!」
「ひ、ひぇええ」
朝起きたら、Tahoo!でニュースになっていた。
タイトルは『人気配信者の悠木ゆめめさん、放送事故!?』である。
わ、わ、わ。
アドレナリンが出るのがわかる。
目が完全に冴えてしまった。
「ほ、放送事故? 誰が?」
「あんたでしょ!?」
「だって、私、配信してない……嘘でしょ!?」
がばりとお布団をどかすと、配信室に向かう。
嘘だ、嘘だ、こんなの夢だ、夢であってほしい。
だって、昨日のは予行演習のリハーサルだったはずで。
慌ててPCを起動する。
昨日、開封したマイクは接続済み。
どうやらここまでは現実らしい。
震える手でマウスを操作して、Youtubeスタジオに飛ぶ。
「……おぅふ」
死んだ。
やってしまった。
やってしまったぁああああああああ!?
「嘘だぁあ、なんで!? リハーサルって言ってたのに、うにゃああああ!? こんなの、こんなのってないよ、私のバカぁあ!」
頭を抱えて叫んでしまう。
だって、画面の中にあったのは、「悠木ゆめめの一周年記念配信の予行練習でーす」の文字。
そして、横には『8時間前に配信済み』の表記。
配信済み、それはつまり、昨日のアレが全世界に放たれたこと。
昨日、私は予行練習のつもりで恥ずかしいことをいろいろやったと思う。
リスナーさんに大好きとか言っちゃってるよね!?
さすがに名前を言ったりしてないと思うけど、分かんない、どうしよ、どうしよ!?
「お、お、お、お姉ちゃん、どうしよ!? とりあえず、この動画消した方がいいよね!?」
何はともあれ、危険な黒歴史は削除だ。
ニュースになってるってことは生まれて初めての炎上ってやつかもしれない。
どうしよ、今頃、悪い人が集まる闇サイトで名前と顔と住所を特定されているかもしれない。
「お、落ち着きなさいっ! あんたの配信、最初から最後まで聞いたけど、たぶん、問題ないからっ! むしろ、大成功よ!?」
「むしろ、大成功!?」
「いいからこのニュース、読みな」
お姉ちゃんは先ほどの放送事故の記事をタップして渡す。
怖い、怖いけど、現実と向き合わなきゃダメだ。
ううぅ、今日は土曜日でよかった。
月曜日だったら学校に行けてない。
「……思ったより、怒られてない?」
「そう、一応、わざとじゃないのって声もあるみたいだけど、素人感満載だったから、概ね好意的よ。個人情報の漏れもなかったし」
「ほんと? ほんとに?」
「うちの事務所の人にも確認してもらったけど、大丈夫だって。まぁ、一応、謝罪はしないとだけどね、お騒がせしてすみませんって」
「謝罪しますっ! お姉ちゃん、本当にごめんっ! でも、ありがとう!」
姉に抱き着いてしまう私。
怖かった、本当に怖かった。
このまま配信者できなくなるんじゃないかってぐらい。
「あと、配信のアーカイブの再生回数、えぐいことになってるんじゃないの? スパチャとかも」
「そうなの? ……ひ」
お姉ちゃんに促されて画面を見ると、私のライブ配信にしては珍しく10万回再生を超えていた。
スパチャも飛びまくっており、見たことのない規模になっている。
うわ、やばい、これ、どうしよ。
「喉が治ったら釈明とお礼をしなさい。大丈夫、みんな、あんたのことが大好きだから」
「う、うん。いや、今日やる! 喉は本調子じゃないけど、ちゃんと謝罪と経緯の説明だけはやります」
「それがいいわね。私も一緒に台本を作ってあげるわ。あんただけだと、必要のないことを口走りそうだし」
「お姉ちゃん、ありがとうっ!」
「はいはい、どういたしまして」
再びお姉ちゃんに抱き着いてしまう。
最近の私のスキンシップが激しいのは、エリカさんの影響なのかもしれない。
そして、お姉ちゃんのバックアップもあって、私はなんとか謝罪&釈明配信を乗り切るのだった。
予想外だったのは謝罪配信まで記事になったこと。
おかげでチャンネル登録も2万人ほど一気に増えた。怖い。
もっとも、私は放送事故となった配信を聞き返すことはできなかった。怖いから。
後で知ったことだけど、私は配信中に自分の胸の大きさ的なことを匂わせていたらしい。
うわっはぁあああ!?
恥ずかしくて死にそう。
◇ とある記事の抜粋
【人気VTuber悠木ゆめめ、誤配信で“伝説回”誕生か?】
ASMR系VTuberとして人気を集める悠木ゆめめさんが、意図せず「放送事故」とも呼べる配信を行い、ネット上で話題になっている。
ことの発端は、配信一周年を迎える彼女が「リハーサル」として行っていた音声がそのまま生配信されてしまったことだ。
配信では、ささやき声の音質調整や、1周年記念配信のリハーサルを行う様子が流れ、途中で彼女が小声で「ありがとう、みんな大好き……」とつぶやく場面も。
さらに、心音ASMRの実験や、食事中のオフな雰囲気までそのまま配信されていたことが発覚し、リスナーの間で“伝説回”として拡散された。
配信後、X(旧Twitter)では「#悠木ゆめめ」が急上昇ワード入りし、トレンド入り。
リスナーからは「尊すぎる」「まさに神回」「これは消すな!」といった声が寄せられ、一夜にしてアーカイブの再生回数は急上昇している。
一方で、一部の視聴者の間では「注目を集めるための“故意の配信”だったのではないか」という疑惑も浮上。
過去にも“うっかり配信”が話題になった事例は少なくなく、今回も狙ったものではないかという声がある。
しかし、リスナーの多くは「さすがに故意なら途中でうどんを食べ始めたり、お風呂に入るなんてことはしないのでは?」と冷静な意見を述べている。
実際、配信中には「よっし、ご飯にしよっかな」「お風呂入ろっと」といった完全に気の抜けた独り言も含まれており、「これが演技ならむしろ天才」「私のゆめめ様がそんなにあざといはずがない」とすら言われている。
現時点で、悠木ゆめめ本人のX(旧Twitter)はまだ更新がなく、本人の反応が待たれている。
VTuber界隈では、意図せぬ放送事故が話題になることも珍しくないが、今回の悠木ゆめめの“事故”は、彼女の素顔に触れられたとして好意的に受け止められている。
果たして、今後の配信で彼女がどのような対応を見せるのか、注目が集まりそうだ。
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