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ASMR系VTuberの私、ぼっちのはずがなぜかクラスの美少女に溺愛されてます!  作者: 海野アロイ
第一章 ASMR系Vtuberの私、ぼっちのはずがクラスの美少女に囲まれています!
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28.朝霧さん、鏑木さん、加賀見さん、推しに歓喜したり右往左往したりする


『やばい! 今すぐゆめめのチャンネル見て』


 それは私が勉強している時だった。

 エリカからのメッセージがスマホに入っていた。


「ゆめめ様のチャンネル?」


 ゆめめ様の中の人である、ゆうなさんは配信は投稿で今週の配信をお休みすると言っていた。

 それならもう知っているし、緊急を要することではない。

 残念だけど、待つしかないのだ。


 それでも、エリカの慌てようは気になるので、Youtubeを確認することにした。

 すると、どうだろう。

 「悠木ゆめめ ライブ配信中」と表示されるではないか。

 予告なしのゲリラ配信だ。

 ゆめめ様はこれまでに一回もやったことがない。


「うわ、え、やばいわよ、これ!?」


 配信を聞くと、私はすべてを理解する。

 操作ミスか何かで、ゆめめ様の配信がスタートしてしまっているのだ。

 急いでコメントを送るも、本人は気づいてない。

 メッセージアプリで電話をかけても無反応。


『こっちから連絡しても気づいてないんだよ』


『でも、最高の配信すぎるんだが』


『Xで放送事故だって騒がれてるぞい』


 途中でふみからのメッセージがやってくる。

 確かに、放送事故だ。

 救われたことがあるとすれば、一切、個人的なことを口走らないことだろう。

 ゆめめ様の自己管理能力が高いことは誇らしいけど、本人は配信が始まっていることに気づいていないのだ。

 いつ、ボロが出てもおかしくない。

 最悪、自分の名前を口走ってしまうかもしれない。


『私、みなさんのことが大好きで。私なんかを応援してくれて、すごく感謝していまして……ひぅ、うわ、ダメだ、ヤバい涙出そう』


 やばい、どうしよう、かわいい。

 かわいすぎて心臓が痛い。

 大好きって言われて尋常じゃなく胸が高鳴っている。


 私がただの一リスナーだったら、歓喜しているだけでよかったのに。

 たぶん、今日の配信は伝説になる。

 悠木ゆめめをもっともっと世界に知らしめるものになる。

 

『あたし、もう配信に参加することにした!』


『うちも、悠木ゆめめを信じる』


『本気で!?』


『だって、悠木ゆめめは絶対に間違わないもん』


『うちも信じとる、あれはプロやで』


『確かに……』


 ゆうなさんが配信をするとき、彼女は『悠木ゆめめ』という役に入ってしまうのだろう。

 ささやき声なのに滑舌もいいし、しっかり聞き取れる。

 さすがです、ゆめめ様。


『ちょっと、待って! 歌うとか言ってるんだけど!?』


『やばいよ、これ』


『うわわわわ』


 冷や汗が出る事態はまだ続く。

 ゆめめ様は今回の配信で歌うと言っているのだ。

 普通のリスナーなら大歓喜することだろう。

 なんせゆめめ様は配信で歌ったことがないのだ。


 私は先日、三人でカラオケに行った時のことを思い出す。

 あの時、ゆめめ様、いやゆうなさんはボーカロイド曲を私たちに披露してくれた。

 画面を真摯に見つめて歌う、ゆうなさん!

 素晴らしくかわいかった。

 いい子だねぇと頭を撫でてあげたかった。


 問題はその歌い方だった。

 声が高いのだ。

 ちょっと高いとかじゃない、高くなるところで異様に高くなる。

 私は原曲を知っていたのだが、ボーカロイドよりも高い。

 

 ゆうなさんは「お腹から声を出す」ことを意識していたが、そんな問題じゃない。

 もっとこう本質的に歌を歌うことについて問い直した方がいい気がする。

 問い直すというか、考え直すというか、歌を捨てるというか。

 いや、声はかわいいのだ、歌う顔も素敵。

 ときおりラップ調になるのは微笑ましかった。

 リズム感の問題なのか、とにかく人に聞かせるのはちょっとの状態だった。

 

 しかし、ゆめめ様は今から歌を歌うという。

 やばい、危険だ。

 もし、今、車を運転しているリスナーがいたら、事故を起こしてしまうかもしれない。

 あの時、私たちが否定しなかったのが悔やまれる。

 もっと歌について真剣にアドバイスするべきだった。


『ちょっとだけ練習してみよ』

 

 ゆめめ様が歌いだす前にそうつぶやく。

 私はごくりと唾をのむ。

 神様、私の推しを助けてくださいっ!

 おそらくはエリカもふみも同じ気持ちだろう。


「おぉっほぉおう!!!」


 神様はいた。

 ゆめめ様の喉に宿っていた。

 なんと、ウィスパーボイスで歌う場合には、ゆめめ様はきれいに歌えるのだ。

 それも本家よりも好きなぐらいに歌えてしまう。

 心の中の邪悪な成分が全て浄化される気さえしてくる。


「うひゃふぉおおおい!!」


 ベッドに転がって全身で喜びを表現する。

 体の中に充満した推しの成分が無限のエネルギーをくれるように感じた。

 かわいい、かわいい、かわいすぎる!


『やっばい! あたし、泣いた!』


『うちも! 最高じゃぁあああ』


『あぁああああ、もうゆめめ様、最高!!』


 私たちはメッセージアプリでゆめめ様をたたえ合う。

 よかった、危機は去った。

 とりあえずではあるけど、神様がゆめめ様を守ってくれた。


 しかし、これで配信が終わったわけではない。

 ゆめめ様がここから個人情報を漏らすかもしれない。


『ゆうなさんのマンションの下に集合! 危なくなったらインターホン押そう』


『なるほど! また歌を歌う可能性あるもんねー』


『それに自分の名前を口走らないとは限らないからね』


 私はすぐに着替えを済ませると、「急用ができた」と親に伝えて外に駆け出す。

 人生でこれ以上ないってぐらい、全速力で走ったのだった。





「終わったぁ」


「よかったよぉ、うどん、最高」


「最高だった」


 悠木ゆめめはやっぱりプロだった。

 2時間以上におよぶ放送事故の間、彼女は一切、口を滑らせることはなかった。

 問題発言も出なかったし、個人情報も出なかった。

 無事に配信を終えたのを見守り、私たちはゆめめ様のマンションの壁にもたれかかる。

 ものすごく疲れた。

 疲れたけど、すごい配信だった。


「いいじゃん。Xのトレンド、占領してたしー」


「明日、ニュースになってると思う」


「そう、よね……」


 ゆうなさんのマンションからの帰り道、私たちは変な高揚感に包まれていた。

 心臓はまだドキドキしていた。


 伝説の配信にリスナーとして参加できたっていうのもある。

 それに、ゆめめ様の裏方みたいなことができて、なんだか嬉しかった。

 これからも彼女を支えることができたら、どれだけ幸せだろうか。


 両親にはきっと怒られるだろう。

 それでもいい。

 推しのためなら、ちょっとぐらい道を踏み外してもいい。

 私も随分、不良になったものだ。

 でも、人生を狂わせるのに十分な価値がゆめめ様の配信にはあるのだ。

 


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