25.朝霧さん、ゆうなを看病していたら通報されるのを覚悟する事態に
「ゆうな……さん、入りますね?」
「は、はぃ」
ドアをゆっくり開くと、そこにはゆうさんがいた。
辛いだろうに、上体を起こしたままの姿で。
顔はまだまだ赤くて、熱があることがわかる。
それにもかかわらず、パジャマ姿のゆうなさんにドキドキしている私がいて。
「起きちゃだめだよー! お姉さんも寝なさいっていったでしょー? 今日はあたしらが看病するから!」
「で、でもぉ……」
「でもも、だってもなしなのじゃ! ほらほら、早く横になる」
たじろぐ私と対照的に、エリカとふみは行動が早かった。
二人はゆうなさんに近づくと、さくさくお世話をはじめる。
「お腹すいてたらお粥作るけど食べるー? フルーツとか、ゼリーのほうがいい?」
「……それじゃ、お言葉に甘えてお粥で」
「任された! あたし、お粥作るの初めてだけど頑張るねー!」
「思いっきり不安なんだけど、なのじゃ! ええい、うちも手伝うわ」
「それじゃ、とーこ、それまでの間は任せたよー?」
二人は腕まくりをしてキッチンへと向かう。
とりのこされたのは私ひとり。
非常に気まずい。
「と、と、とりあえず、いったん、寝てましょう! さ、さぁ、どうぞこちらへ」
「うん、ありがとうございます」
熱のせいだろうか、ゆうなさんはいつも以上にふわふわしている。
少しだけはだけて鎖骨が見え隠れする。
うぅ、目のやり場に困る。
「あぅ、ごめんなさい、解熱剤のせいで汗かいてて」
「汗……」
なるほど、ゆうなさんが上体を起こしていた理由が分かった。
解熱剤で汗をかき終わったので、着替えようとしていたのだ。
もしくは汗を拭きたかったに違いない。
しかし、今のゆうなさんはだいぶふらふらしている。
一人で着替えや汗拭きができるだろうか。
「あのぉ、もしよろしければなんですけど、あ、汗をふくの手伝いましょうか?」
「ぁぅ、汗拭き、お願いします。実はまだまだしんどくて。そこにタオルとかあるので」
「そ、それでは……」
自分で言っておいて、ゆうなさんがOKを出してくれるとは思わなかった。
汗を拭いてあげたいとは思う。
だけど、心の準備ができてない……なんて言ってる場合じゃないわ!
推しが苦しんでいるのよ、ファンが助けないでどうするの!
腑抜けた気持ちを追い出すように、私は思いっきり自分の頬を両手でひっぱたく。
「ひぅ、大丈夫ですか?」
「大丈夫です! 何があっても不動の心を手に入れましたからっ! さぁ、やりますよ」
私は将来、医療従事者になる女だ。
具合の悪い人をほおってなんかおけない。
「それじゃ、えと、背中、お願いします」
「はふぅ!?」
ゆうなさんは背中を向けて、はらりと上半身のパジャマを脱ぐ。
同性同士だ。何もいやらしいことはない。
ない。
ないはずなのだ。
しかし、不動の心は消し飛んでいた。
ふわっと花のような香りが鼻に入り、華奢な肩にキャミソール、そしてブラの紐が目に入る。
ダメだ、ダメだ、気をしっかり持て。
「ど、どうですか?」
ゆうなさんの背中を汗拭き用のタオルで拭く。
同性の私が言うのもなんだが、かわいい背中だ。
壊れてしまいそうで緊張で手が震える。
「気持ち……いいです」
ゆうなさんのかぼそい声。
ASMRの時のような、ささやき声ではない。
素のままの、ありのままの、もろい声。
私はごくっと喉を鳴らしてしまう。
「おなか側は私が拭きますね。えと、タオルを」
「あ、はいどうぞ。……はひぃ」
ゆうなさんは私からタオルを受け取るとこちら側に向きなおる。
先ほどまでは背中を向けていたから、はじめて正面を向くわけで。
この時、私の眼はゆうなさんのふくらみにくぎ付けになっていた。
なにせ大きいのだ。
不自然に大きいと言うほどではないが、華奢な体つきとは不釣り合いに感じる。
学校の時はそこまで気にならなかったはずなのに。
「ぁぅ、その、じっと見つめられると恥ずかしいです……」
「ご、ごめんなさいっ!」
「私、背が低いのに胸、大きくて……変ですよね? 学校の時はそういう下着でぎゅっとしてるんです」
「変じゃないですよ!? どんな状態でもかわいいです」
「えへへ、そんなこと言ってくれるのは透子さんたちだけですよ。ほんと、優しくて」
「ど、どういたしまして! とりあえず、着ましょう!」
ゆうなさんはいつもとは違って少し口数が多いかもしれない。
にへらと笑って汗拭きを終える。
こんな状態でいたら熱がぶり返すかもしれない。
私はあわててパジャマを着せるのだった。
しかし、胸が大きいのは誤算だ。
クラスでは華奢な女の子のイメージだったはず。
もしも、ゆうなさんが下着を普通のに解禁したら……?
これから夏だ。
間違いなく、修羅場になる。私、含めて。
「ふぅ、ちょっと疲れちゃいました」
「ほぅふぁっ!?」
熱があるときは上体を起こすだけで重労働だ。
パジャマを着終わったゆうなさんは、私に寄りかかってくる。
私はどうすることもできず、それを胸で受け止めるわけで。
つまり、今、私はゆうなさんを後ろから支える態勢になる。
ふわっとさっきのかおりを感じる。
つやつやの髪の毛。
パジャマ越しに伝わってくる温かさ。
「あったかい……です……」
ゆうなさんはその状態のまま、ぼんやりし始める。
どうしよう、どうしたらいいの!?
ここで、手を回したら、私はゆうなさんを抱きしめることができる。
『エリカたちいないんだし、腕を回してもいいんじゃない?』
悪魔の声が聞こえるので、頭をぶんぶん振って打ち消す。
バカじゃないの?
そんなことをしたら不審者になる。
通報、逮捕、退学、泣き叫ぶ両親。
悠木ゆめめリスナーの特定班によって、私の住所氏名顔写真まで晒され、朝霧家は一家離散。
もちろん、私は推し活なんてできなくなる。
いや、それ以前にゆうなさんが人間不信に陥って配信をやめるかもしれない。
自分の鼓動が聞こえてくる。
ゆったりした姿勢のはずなのに、心臓がエンジンのようになり響いているのだ。
「透子さんの鼓動……聞こえて⋯⋯きます」
ゆうなさんがくすっと笑う。
かわいい。抱きしめたい。抱きしめるしかない。
腕がふるふると震える。
やばい、この状態はまずい、理性が、私の。
「ゆうなちゃんっ、お粥さんできたよっ!」
「やっと終わったのじゃ! こやつが桃缶を入れおって、ゼロから作り直したのじゃ!」
私がゆうなさんをゆっくりと横たえた瞬間のことだった、エリカとふみが勢いよく入ってくる。
病人が寝ているというのに勢い良すぎである。
ぎりぎり見られなくてよかった。
「ぁ、ありがとうございます。お粥、食べたいです」
「はいはーい、ふーふーしてあげるねぇ! ごっくんもしようねぇ、えへへー」
「エリカだけズルいのじゃ!」
二人は手製のお粥をゆうなさんに食べさせようと躍起だ。
私の顔がこわばっていることにさえ気づかなかった。
危なかった。
「はふはふ」
「かわいいねぇ、食べてるよぉ、飲み込んだよぉー、あぁ、いい、いいねぇ。こっちの角度も行ってみようかぁ、ほら、あーん。⋯⋯うひぃ」
「いちいちうるさいんじゃ! いかがわしいカメラマンか!」
エリカはゆうなさんが食事をするたびにはしゃいでいる。
看病に来たのを完全に忘れている様子だ。
それでも、ゆうなさんは言われるがままにお粥を食べていた。
「ありがとうございます。実は、みんなに会えたらいいなぁなんて思っていたから、嬉しかったです。ふぁ」
お粥を食べ終わったゆうなさんは小さなあくびをする。
かわいいあくびだ、配信でも聞いたことのない。
顔色はよくなっている気がする。
しっかり寝て休めば、十分、戻ってくるだろう。
「それじゃ、ゆうなさん、私たちはこの辺で。しっかり休んでくださいね」
「じゃあね、ゆうなちゃん!」
「また学校で会うのじゃ!」
長居は無用というわけで、私たちは足早にゆうなさんの家を出る。
もう十分だ。
十分すぎるほど、十分だ。
顔が熱い。
『みんなに会えたらなぁなんて思っていたから』
帰り際、ゆうなさんの言葉がリフレインする。
幸せすぎて、胸がホカホカだ。
ゆうなさんの体を支えたこと。
かぼそい声を間近で聞けたこと。
会いたかったって言われたこと。
私は、一生、忘れない。
たとえ、この気持ちが報われないものであっても。
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