24.昔は一人ぼっちに耐えられていたのに、弱くなったのかな?
「熱が出てしまいました。学校はしばらくお休みします」
朦朧とした意識の中、メッセージを送る。
お姉ちゃんのおかげで病院に行けたのはラッキーだった。
薬のおかげでだいぶ楽になった。
「お姉ちゃん、ごめんなさい」
Vtuberの仕事、それに大学。
お姉ちゃんは私よりもずっと忙しいはずなのに。
「なに言ってんのよ? ただ一人の妹なんだから。……まだ、熱は高いし、今日はゆっくり寝てなよー?」
姉は私のおでこに手を置いた。
さっき体温を測った時には38度台後半だった。
喉が痛い。
頭もまだぼんやりする。
「うぅ、たまってたASMR動画でも見てるよぉ」
「ほどほどにしなよ。ちゃんと寝ないと治らないからね?」
「はぁい」
姉はちょっとだけ困った顔をしたけど私の意志を尊重してくれた。
誰かのASMRを観ることは私の魂の栄養なのだ。
自分が配信者になると、どうしても忘れてしまうことだけど。
イヤホンから聞こえてくる優しい声。
呼吸が楽になっていく。
熱がある人向けにも、安眠ASMRはありがたい。
今は寝よう。
2日後。
私の熱はゆっくり下がっていった。
透子さんにも、微熱になったとメッセージを送ることができた。
学校に登校できるめどもついてきたと思う。
だけど、問題はまだ残っていた。
微熱があって、思考はぼんやりしたままだ。
それに喉がまだまだ痛い。
配信者としては致命的だ。
一周年記念配信まであと数日。
このままじゃ満足のいく配信ができるはずがない。
なんせ私は一日中、配信をしようと思ってたんだから。
考えれば考えるほど、心は暗くなっていく。
とりあえず、寝よう。
あぁ、もう悲しい。
「みんなに会いたいなぁ」
思ってもみなかった言葉が独り言となって口をついてくる。
本音なんだろうか、それとも、熱で心まで弱ったんだろうか。
みんな、忙しいのに邪魔しちゃ悪い、風邪がうつるかもしれないし。
それに私はいつだって一人で耐えてきたじゃないか。
熱が出ることなんて慣れっこになっていたはずなのに。
高校に入って、お友達ができた。
その結果、私は孤独に弱くなったのかもしれない。
「……あぁ、そうなの! 喜ぶと思う!」
遠くの方で、お姉ちゃんが何かを話しているのが聞こえる。
少しだけ熱が上がっていくのを感じながら、私は眠りの中に落ちていくのだった。
◇ 朝霧さん、三人でお見舞いに行く
「お見舞い、行こうよー!」
「行こう!」
エリカとふみは鼻息荒くそう言った。
何を求めてるのかって、それはゆうなさんのお見舞いだ。
彼女は今、熱を出して寝込んでしまっているのだ。
学校はもう3日も休んでいる。
そして、当然ながら、悠木ゆめめ様の配信も先週の日曜日で終わっていた。
一周年記念配信の告知をして以降、ずっと配信をお休みしているのだ。
まさか、熱を出しているなんて知っている人は私たちぐらいだろう。
「でも、ご迷惑がかかるかもしれないし……」
それでも私は躊躇していた。
病気になると人は二つのタイプに分かれる。
人と関わりたくない人と、逆に人に会うことでパワーをもらえる人の二種類だ。
ゆうなさんはどっちのタイプかもわからないし、そもそも寝ているかもしれない。
「何言ってるのー? そんな問題じゃなくない? 会いたいから会いに行くんじゃん」
「考えすぎなんだよ、朝霧透子は!」
「ぐむむ」
私がもっともらしい理由を伝えると、エリカたちは断固として反論してくる。
相変わらず、直情的でまっすぐだ。怖いぐらいに。
でも、少しだけうらやましさを感じる。
そうだよね、会いたい。
私だって、会いたいよ、ゆうなさんに。
「……じゃ、冷たいものとか、ゼリーとか買っていきましょう。呼び出しに出なかったり、寝てたりしたら帰るからね」
「おっけー! とーこ、大好き! 素直になれてエライ!」
「おぬし、強がりをやっと抜けたのぉ!」
エリカとふみにやたらとからかわれる。
いや、これは強がりじゃないはず。
放課後、私たちはゆうなさんの教えてくれたマンションを訪問した。
きちんとしたセキュリティのある大きめのマンションだ。
ゆうなさんの身に何かあったらと心配していたので、ちょっと嬉しい。
そして、オートロックのインターホンでゆうなさんの家の番号を入れる。
「はい、もしもーし」
女の人が出た。
ひょっとしたら、ゆうなさんの言っていた、お姉さんなのかもしれない。
「あ、あのぉ、私たち、ゆうなさんの学校の友達で、風邪の調子、どうなのかなって思いまして、お見舞いに来たのですが」
「あぁ、そうなの!? 喜ぶと思うよ!」
お姉さんは高い声を出して喜ぶと、マンションの入り口を開けてくれた。
「やったじゃん!」
「ほらね!」
「あんたたち、騒がないでよ?」
エリカとふみには念を押しておく。
今日はパーティじゃない、お見舞いなのだ。
「ようこそー! 姉の藤咲ひなたですー」
「お、お邪魔します」
ゆうなさんのお姉さんは妹そっくりだった。
ゆうなさんをもっと明るくしたような感じ。
声の質も少し似ていると思う。
だけど、表情が違う。
どっちかというと、エリカっぽい花のあるタイプ。
根っから明るい性格なんだろうなってわかる。
「こんな美人でかわいいお姉さんなんですね! あ、お土産でーす」
「もー、やだー、美人なんてリアルで言われるのひさびさだよー。とりあえず、入ってください!」
けらけら笑いながら、お姉さんはリビングルームに案内してくれた。
こぎれいで整理されていて、VTuberの家とはとても思えない。
ゆうなさんの姿はない。
話を聞くと、今はお部屋にいるとのこと。
「ゆうな、お友達が来てくれたよー? いやー、イマジナリーじゃなくて安心した!」
「は? え? トモダチ!?」
「そう、めちゃくちゃかわいい三人組」
「さ、三人組!? うっそぉ!?」
奥の方からゆうなさんの焦る声が聞こえてくる。
起きてはいたようだ。
「それじゃ、お姉ちゃん、スタジオじゃなくて、お仕事行くから。ゆっくりしてな」
「ちょっと、ちょっと待って、お姉ちゃん、心の準備が」
「いいから、いいから!」
お姉さんは、ゆうなさんの言葉の途中でこちらを向いた。
私たちを置いて、どこかに行こうとしてません!?
「そういうわけで三人ともよろしくお願いね! ちょっと風邪で弱ってるけど、いい子だから」
「は、はぁ。頑張ります」
お姉さんからゆうなさんを任されてしまった。
あまりに唐突だったので、おかしな受け答えになってしまった。
私たちは意を決して、ゆうなさんの部屋のドアをひらくのだった。
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