魂の万華鏡!大山頂上決戦、変態の美学と六つ目の鍵
霊峰大山の二番目の試練を突破した桃色助平太一行は、ついに山頂へと続く最後の道へと足を踏み入れた。空気は澄み渡り、眼下には雲海が広がる絶景だが、山頂に近づくにつれて、神聖でありながらもどこか魂を試すような、張り詰めた気配が色濃くなっていく。
「…いよいよ最後の試練か。知恵と力を試された次は、一体何が来るんだろうな」
辰五郎が、緊張した面持ちで呟く。これまでの戦いで、一行は疲弊しつつも、その絆は確実に深まっていた。
山頂にたどり着くと、そこには巨大な水晶のように磨き上げられた岩盤が、静かに月光を反射していた。知恵の精霊の声が、再び一行の心に直接響いてくる。
「…よくぞここまで参った、人間たちよ。ここが最後の試練の場、『映し心の水鏡』。この水鏡は、覗き込んだ者の心の最も深き場所にある『真実の姿』、そして『最も強い想い』を映し出す。己が魂と向き合う覚悟がある者のみ、先へ進むがよい」
仲間たちは、ゴクリと息を呑んだ。自らの魂と向き合う…。それは、どんな強敵との戦いよりも恐ろしい試練かもしれなかった。
最初に水鏡を覗き込んだのはカゲリだった。その美しい瞳が不安に揺れる。水鏡には、幼い頃の彼女が、任務の失敗で仲間を失い、暗闇の中でただ一人泣きじゃくる姿が映し出された。そして、その姿は、今の彼女自身の孤独と、誰にも頼れないという心の壁を象徴しているかのようだった。
「…これが…私の…」カゲリは唇を噛みしめ、顔を伏せた。
次に辰五郎が覗き込むと、水鏡には、彼が守りきれなかった江戸の町で、炎に巻かれ助けを求める人々の姿と、それをただ見つめるしかない無力な自分の姿が映った。
「…ちくしょう…俺は…何もできなかったのか…」辰五郎の拳が、悔しさに震える。
プルルンが恐る恐る覗き込むと、そこには、自分が何者で、どこから来て、何のために生きているのか、答えの出ない問いを繰り返す、小さなスライムの姿があった。
「アタイって…一体…なんなんだゾ…?」
お福が覗き込むと、そこには、山海の珍味に囲まれ、幸せそうに頬張る自分の姿が映し出された。しかし、次の瞬間、その食べ物が全て消え去り、途方もない空腹感と寂しさに襲われて泣き出す自分の姿も映った。
「あらあら…わたくしって、本当に食いしん坊なのねぇ。でも、美味しいものがなくなっちゃうのは、やっぱり寂しいですわ…」お福は、少しだけしょんぼりとした。
そして、最後に助平太が、水鏡の前に立った。
「ふむ…拙者の『魂の最も深き場所』に、一体どのような『美』が隠されているのか…実に、実に楽しみでござるな!」
助平太が水鏡を覗き込むと、そこには、彼がこれまでの人生で出会い、そして心を奪われた、ありとあらゆる「美しいもの」たちが、万華鏡のようにめくるめく映し出された!湯上がりの女中、怒りに燃えるお香、ドジっ子くノ一のお蝶、SMの女王様お銀、筋肉美の力士道山、妖艶剣士の血煙お蝶、氷の美剣士月影、そして白雪姫に乙姫様、天狗の女神に知恵の精霊、さらには道端の雑草の露、夕焼けの空の色、雨上がりの土の匂い…!その全てが、助平太の目には等しく「美しく」、そして「愛おしい」ものとして映っている。そして、その万華鏡の中心には、ただひたすらに「美」を求め、それを愛で、記録し、賛美しようとする、どこまでも純粋で、どこまでも歪んだ…しかし、一点の曇りもない「変態」の姿が、恍惚の表情で浮かび上がっていた!
「おおおおおおおっ!これぞ!これぞ拙者の『魂の真髄』!全ての美は、この桃色助平太のために存在し、そして拙者は、全ての美のために存在する!なんと!なんと素晴らしい『相互愛』でござろうか!」
助平太は、自らの魂の姿に、感動のあまり打ち震えている。
その時、仲間たちがそれぞれの心の葛藤に苦しみ、立ちすくんでいるのを、夢幻斎と月影が見逃すはずはなかった!庵から姿を消していた二人が、満を持して山頂に現れ、一行に襲いかかってきた!
「ククク…心の弱みを見せたな、小娘ども!その魂ごと、我が幻術のコレクションに加えてくれようぞ!」
夢幻斎は、水鏡を利用してさらに強力な幻術を仕掛け、仲間たちのトラウマや恐怖を増幅させる!
月影は、その氷のような剣を抜き放ち、心の隙を見せたカゲリと辰五郎に、音もなく襲いかかる!
「ぐっ…!」「うわあああっ!」
カゲリと辰五郎は、増幅された心の闇と、月影の鋭い剣撃に、なすすべもなく倒れ伏そうとする!プルルンとお福も、恐怖に身をすくませる!
絶体絶命のピンチ!その時、助平太の叫び声が山頂に響き渡った!
「喝ァァァァァッ!何をうろたえておるか、我が愛しき仲間たちよ!その心の闇とやらも、見方を変えれば立派な『個性』!そして、その苦悶の表情もまた、実に、実に…『美しい』ではござらぬか!」
助平太の、あまりにも常軌を逸した、しかし力強い言葉が、仲間たちの心に叩きつけられる!
「カゲリ殿のその影もまた、夜の闇に咲く黒百合の如く美しい!辰五郎殿のその悔しさもまた、不屈の魂を鍛え上げる炎のように力強い!プルルン殿のその悩みもまた、未知なる可能性を秘めた宝石のように愛らしい!お福殿のその食欲こそ、生命の輝きの最も純粋なる発露!そして!この拙者の、天をも貫く変態性こそが、世界のあらゆる調和を保つ、究極の『美の基準点』なのでござる!」
助平太の、もはや「説法」とも「妄言」ともつかない叫びは、不思議な力を宿し、仲間たちの心の闇を照らし始めた。彼らは、助平太の言葉に「何を言ってるんだこの変態は…」と思いつつも、その一点の曇りもない(歪みきった)信念と、仲間を想う(変態的な)心に、なぜか勇気づけられたのだ!
「…そうか…私は…一人じゃない…」カゲリが、月影の剣を紙一重でかわしながら立ち上がる!
「…そうだ…俺が守りてえのは…笑顔だ!」辰五郎が、からくり人形を殴り飛ばしながら雄叫びを上げる!
「アタイはアタイだゾ!美味しいもの食べて、みんなと笑うのが一番なんだ!」プルルンが、夢幻斎の足元に噛みつく!
「わたくし…もっと美味しいものを、皆さんと一緒に食べたいですわ!」お福が、なぜか巨大なしゃもじを構える!
仲間たちの再起に、夢幻斎と月影は動揺する。
「な、なんじゃと…!?儂の幻術が…この変態の戯言ごときに…!?」
「……(月影の剣筋が、わずかに乱れる)」
「さあ、夢幻斎殿、月影殿!貴殿方のその『悪の美学』もまた素晴らしいが、我らが『愛と友情と変態の美学』の前には、霞んでしまうということを教えて差し上げましょうぞ!」
助平太は、筆を構え、仲間たちと共に最後の四天王に立ち向かう!
激闘の末、夢幻斎の巧妙な幻術は、助平太の「全てを肯定する変態性」によってその前提を崩され、月影の鉄の心もまた、仲間たちの絆と、助平太の理解を超えた言動によってわずかに揺らいだ。ついに、夢幻斎は「…儂の芸術が…この変態に負けるとは…」とうなだれ、月影は「…お前のような剣士(変態だが)は初めてだ…」と、静かに剣を納めた。二人は、潔く敗北を認めると、どこかやり遂げたような、しかし悔しそうな表情で光の中に消えていった。
最後の試練を乗り越えた一行の前に、山頂の水鏡がひときわ強く輝き始めた。そして、その中心から、静かに六つ目の「天逆毎の鍵」の破片…星の形をした美しい水晶が姿を現した。
「おお!これぞ、星々の輝きを宿した『星霜の鍵』!なんと!なんとロマンティックで、そして…その尖った先端が、拙者の『ある部分』を刺激しそうでござるな!」
助平太が、新たな鍵の破片に手を伸ばした瞬間、米子の湊の方角から、禍々しく巨大な妖気の柱が天を突くのが見えた!それは、これまでのどんな妖気よりも強力で、絶望的なまでの力を感じさせた。
「な、なんだ、あれは…!?」辰五郎が息を呑む。
「…玉藻の前…ついに、本格的に動き出したようじゃの…」
知恵の精霊の声が、悲痛な響きを帯びて山頂に木霊した。




