変態お色気返しと刺客たちの挽歌
天狗の隠れ里へと続く険しい山道、その先に現れた「風詠の滝」。しかし、その滝は聖なる清浄さを失い、淀んだ水を飛沫かせ、周囲には不気味な妖気が立ち込めていた。そして、その滝壺を背に、桃色助平太一行の前に三度立ちはだかるは、血煙のお蝶と鉄仮面の玄蕃であった。
「うふふ…変態侍さん、またお会いできて嬉しいわ。今度こそ、あなたを私の『紅蜘蛛』の虜にしてあげる」
お蝶は、玉藻の前から授かったのであろう、さらに妖気を増した妖刀を構え、その瞳は復讐の炎と歪んだ執着に濡れている。
「……(ゴゴゴゴ…)」
玄蕃もまた、その鋼鉄の巨体から、これまで以上のプレッシャーを放っていた。その鉄甲は黒光りし、まるで生きているかのように禍々しい紋様が浮かび上がっている。
「おお!お蝶殿、玄蕃殿!そのお姿、さらに『業』が深まり、実に、実に…そそられるものがありますな!特に、お蝶殿のその『追い詰められた雌豹』のような眼差し!そして、玄蕃殿のその『沈黙の奥に秘められたる激情』!この助平太、貴殿方のその『魂の叫び』を、しかと受け止めさせていただきますぞ!」
助平太は、筆と墨壺を構え、刺客たちの「進化」した美しさに新たな創作意欲を燃やす。
「ほざけ変態!今日こそ、そのふざけた面を、この滝壺の藻屑にしてくれるわ!」
お蝶が、滝の水しぶきを巧みに利用し、幻影のように動きながら斬りかかってきた!その太刀筋は鋭く、変幻自在。蜘蛛の糸を水面に張り、一行の足元を掬おうとする。
「カゲリ殿、プルルン殿!あの女狐の動き、前回より格段にトリッキーでござるぞ!しかし、その舞うようなおみ足の運び、そして、水しぶきに濡れて肌に張り付くそのお着物…ああ、なんとエロティックな光景!」
「このド変態!見惚れてないで戦えだゾ!」プルルンが助平太の頭の上で叫ぶ。
カゲリは、お蝶の変幻自在な動きに対応し、クナイと体術で的確な反撃を試みる。滝の飛沫を利用した隠形術で姿をくらまし、背後からお蝶を狙う。
「お主の動き、確かに速くなった。だが、殺気が強すぎるぞ!」
一方、辰五郎は玄蕃の圧倒的なパワーに苦戦していた。玄蕃の鉄甲から放たれる衝撃波は、滝の岩をも砕く。
「うおおおっ!この鉄クズ野郎、化け物みてえな力出しやがって!」
辰五郎は、め組の纏を巧みに使い、玄蕃の攻撃をいなし、時にはその巨体を足止めしようと奮闘する。
「おお!辰五郎殿!その汗に濡れた逞しき広背筋!まるで、荒波に立ち向かう防波堤の如し!そして、玄蕃殿のその力任せの攻撃!なんと無骨で、そして純粋な『破壊の美学』!この助平太、この『剛と剛のぶつかり合い』に、我が魂も熱く燃え上がりますぞ!」
助平太は、戦いの真っ只中で、二人の男の「肉体美の饗宴」に感動し、筆を走らせる。
「助平太!貴様だけは、今日こそこの手で…!」
お蝶が、助平太の変態的な賛辞にさらに怒りを燃やし、渾身の力を込めた一撃を放ってきた!その太刀筋は、助平太の喉元を正確に捉えようとする!
「おっと!それは少々、性急すぎますぞ、お蝶殿!」
助平太は、その一撃を紙一重でかわすと、おもむろにお蝶の顔に自分の顔をぐっと近づけた。
「貴女様のその美しき瞳に、今、何が映っておりますかな?憎しみか?それとも…拙者への、抑えきれぬ『恋心』でござるかな?」
「なっ…!?」
お蝶は、助平太のあまりにも間近で発せられる、濃密な変態オーラと意味不明な問いかけに、一瞬動きを止めてしまう。その瞳が、戸惑いに揺れた。
「今だ、カゲリ!」
その一瞬の隙を、カゲリは見逃さなかった。お蝶の懐に飛び込み、その妖刀を持つ腕に強烈な蹴りを見舞う!
「きゃあっ!」
お蝶の手から妖刀「紅蜘蛛」が滑り落ち、滝壺へと吸い込まれていった。
「あ…私の紅蜘蛛が…!」武器を失い、呆然とするお蝶。
一方、玄蕃もまた、辰五郎とプルルンの連携に苦戦していた。プルルンが玄蕃の足元に擬態したヌルヌルの苔を大量に発生させ、辰五郎がその隙を突いて鉄甲の関節部分に渾身の一撃を叩き込む!
「ぐおおおっ!」
玄蕃の巨体がよろめき、その鉄仮面に亀裂が入った。
「玄蕃!お蝶!」
戦いの様子を、滝の上の岩陰から、天狗の長老が静かに見守っていた。その隣には、数人の烏天狗が控えている。彼らは、助平太たちの戦いぶりと、刺客たちの執念を、厳しい目で見定めているようだった。
武器を失い、相棒も深手を負ったお蝶は、悔しげに唇を噛んだ。
「…おのれ…変態侍…そして、その仲間たち…!この屈辱、忘れないわ…!必ず、必ず玉藻の前様が、お前たちに鉄槌を下される…!」
お蝶は、玄蕃を抱え起こすと、捨て台詞を残して滝の奥の森へと姿を消した。その瞳には、初めて見るような、深い絶望の色が浮かんでいた。
「…行ってしまわれたか、お蝶殿。その『敗北のお色気』もまた、格別でござったが…少々、心残りもござるな」
助平太は、お蝶が去った方向を見つめ、何やら物憂げな表情を浮かべていた。
刺客を退けた後、一行は改めて風詠の滝に向き合った。滝の水は依然として淀み、周囲には邪気が漂っている。
「どうやら、あの刺客たちが原因ではなかったようだな」カゲリが呟く。
「プルルン殿、何か分かりましたかな?」
プルルンは、滝壺の水をぺろりと舐めると、顔をしかめた。
「うげぇ…この水、なんか苦いんだゾ…。それに、滝の奥の方から、もっと嫌な感じの妖気が漏れ出てる…」
その時、滝の上の岩陰から、天狗の長老がゆっくりと降りてきた。
「…見事であった、人間たちよ。そして、そこの桃色の変態。お前たちの力、そしてその…奇妙な『絆』とやらは、確かに見届けさせてもらった」
長老の言葉には、以前のような厳しさだけでなく、どこか温かみのようなものが感じられた。
「この風詠の滝の異変は、お前たちが倒した黒蓮の残党が、玉藻の前の力を借りて仕掛けた『呪いの楔』によるものじゃ。滝の奥にある『龍の寝床』と呼ばれる洞窟、そこの最深部に楔が打ち込まれておる。それを取り除かねば、滝の清浄さは戻らぬ」
長老は、滝の裏側にある、固く閉ざされた洞窟の入り口を指さした。
「龍の寝床!そして呪いの楔!おお!それはまた、冒険心をくすぐる響き!そして、その洞窟の奥には、もしや…眠れる龍の姫君が、その豊満なるお体を横たえて…むふふ、この助平太、その『寝起きの無防備なお色気』を、是非とも拝見したいものでござるぞ!」
「お前は本当に、どこまで行ってもそれしかねえんだな!」
辰五郎のツッコミが、滝の轟音にかき消されることなく、仲間たちの間に響き渡った。




