長老の試練と忍び寄る双つの影
霧の奥に広がる天狗の隠れ里。そこは、巨大な霊木の上に築かれた家々が雲間に浮かび、清らかな滝の音が絶えず響き渡る、まさに幻想的な秘境であった。里の中央、ひときわ荘厳な社の奥で、桃色助平太一行は、白髪の長老天狗と対峙していた。
「…人間たちよ、そして、そこの桃色の…風変わりな『美の探求者』とやら。お前たちが『天逆毎の鍵』の破片を追っておることは承知しておる。我が里が守護する『神籬の石』もまた、その一つじゃ」
長老天狗の声は、古木の如き威厳と、深い叡智を湛えていた。その鋭い眼光は、助平太の心の奥底まで見透かしているかのようだ。
「じゃが、この石は、古の強大なる災厄を封じるための楔の一部。かの妖狐院玉藻の前は、その封印を解き放ち、この世に混沌と…彼女にとっての『悦楽の千年王国』を築こうとしておる。お前たちのその『美の探求』とやらは、果たして世界の調和を乱すものか、あるいは…」
長老は、意味深に言葉を切った。
「おお!長老殿!その深遠なるお言葉、そしてその…白く豊かな顎鬚の、なんと威厳に満ちた曲線美!まるで、雪を抱いた霊山の如し!この助平太、貴殿のその『老獪なるお色気』にも、深く感銘を受けておりますぞ!」
助平太は、長老天狗の威厳にも臆することなく、その「美」を熱心に分析し始める。
「……(ピクッ)」長老の眉がわずかに動いた。
長老は、助平太たちの真意を見極めるため、そして彼らの力を試すため、一行に数日間、里に滞在することを許した。こうして、助平太一行の、奇妙な天狗の里での日常が始まった。
~天狗の里での一日・朝~
夜明けと共に、里には天狗たちの力強い羽ばたきの音と、修行に励む掛け声が響き渡る。若い天狗たちが、断崖絶壁を飛び交い、剣術や体術の稽古に汗を流している。
「おお!あの女天狗殿(もちろん助平太の目にはそう見える屈強な若天狗)の、力強い羽ばたき!風を孕んで膨らむその袴!そして、汗に濡れて羽毛に張り付いた、その逞しきおみ足!実に、実に…健康的で、そして野性的なエロスでござる!」
助平太は、木の上から女天狗(若天狗)の飛行訓練を熱心にスケッチし、その度に監視役の烏天狗に「貴様、どこを見ている!」と羽で叩き落とされそうになる。
一方、辰五郎は「面白そうだ!」と、若い天狗たちに力比べを挑み、その怪力で天狗たちを驚かせていた。「へへっ、江戸っ子火消しの力、伊達じゃねえぜ!」
~天狗の里での一日・昼~
昼餉は、天狗たちが山で採ってきた木の実や山菜、そして薬草を使った素朴ながらも滋味深いものであった。
「この『天狗まんじゅう』とやら、実に不思議な食感!まるで、うら若き乙女の…むふぅ、柔肌を思わせる弾力!そして、この『霊峰茸』の香り!なんと芳醇で、そして…なぜか拙者の股間を刺激するような…」
「このド変態!食べ物でまでそんなこと考えるなだゾ!」プルルンが助平太の口に無理やり木の皮をねじ込む。
カゲリは、薬草に詳しい老婆の天狗から、珍しい薬草の知識や調合方法を熱心に学んでいた。その真剣な眼差しは、くノ一としての彼女の探求心を示している。
数日が過ぎた頃、長老天狗は再び助平太たちを呼び出した。
「…お前たちの力、そしてそこの変態侍の…常軌を逸した『何か』は、ある程度理解した。じゃが、『神籬の石』を渡すには、まだ早い。一つ、この里の抱える問題を解決してみせよ。さすれば、石のありかを示そう」
長老が示した依頼は、里の聖域である「風詠の滝」が、最近になってその清浄さを失い、邪気を発するようになったため、その原因を突き止め、滝を浄化せよ、というものであった。
~天狗の里での一日・夜~
その夜、里では小さな収穫祭が開かれていた。天狗たちが焚き火を囲み、笛や太鼓に合わせて勇壮な舞を披露している。
「おお!あの女天狗殿(やはり助平太の目には美女に見える長老の側近の厳つい天狗)の舞!なんと情熱的で、そして官能的な腰つき!あの流し目!まるで、拙者を『快楽の奈落』へといざなっておるかのよう!この助平太、その『誘惑の舞』に、我が魂ごと捧げたくなりそうでござるぞ!」
助平太は、興奮のあまり鼻血を垂らしながら、天狗たちの輪に加わろうとするが、そのあまりの変態的な雰囲気に、天狗たちはドン引きして道を開けてしまう。
その頃、プルルンは、天狗の子供たちとすっかり打ち解け、一緒に木の実を集めたり、鬼ごっこをしたりして遊んでいた。子供たちは、プルルンの擬態能力に大喜びだ。そして、子供たちから、ポロッと重要な情報を聞き出す。
「風詠の滝がおかしくなったのは、数日前、赤い着物の怖いお姉さんと、鉄仮面のおっきな男の人が、滝の近くをうろついてた後からなんだ…」
「赤い着物と鉄仮面…!?まさか、お蝶と玄蕃かゾ!?」
プルルンが慌てて助平太たちにその情報を伝えようとした矢先、里の外れの見張り台から、警戒を告げる角笛の音が鳴り響いた!
「敵襲ー!敵襲ー!聖域に不審者侵入!」
場面は変わり、天狗の隠れ里の外縁部。血煙のお蝶と鉄仮面の玄蕃は、天狗たちの厳重な警備網を巧みにかいくぐり、ついに里への潜入に成功していた。
「うふふ…ようやくここまで来たわね。長老の試練とやらで、あの変態侍たちが手間取っている間に、さっさと『神籬の石』を頂戴しましょうか」
お蝶は、妖刀「紅蜘蛛」を抜き放ち、妖艶な笑みを浮かべる。玄蕃は、無言で周囲を警戒し、その鉄甲から禍々しい妖気を立ち昇らせている。彼らの狙いは、助平太たちと同じく、「神籬の石」であった。
翌朝、助平太一行は、長老から託された依頼を解決すべく、「風詠の滝」へと出発した。滝は、里から少し離れた、険しい山道の奥にあるという。
「聖なる滝の浄化…それはまた、心洗われるような美しい響き!もしや、滝壺では、うら若き天狗の巫女たちが、身を清めるための『禊』を行っておるのでござろうか!?おお、その『聖水』に打たれる乙女の姿!想像しただけで、この助平太、全身の毛穴という毛穴から『感謝の念』が噴き出しそうでござる!」
「お前は本当に、どこまで行ってもそれしか頭にねえんだな…」
辰五郎は、もはやツッコむ気力も失せたように、深いため息をついた。
一行が「風詠の滝」へと続く険しい山道に差し掛かった時、道の両側の木々から、無数の蜘蛛の糸が襲いかかってきた!そして、その先には、紅蜘蛛を構えたお蝶と、鉄甲を鳴らす玄蕃の姿が!
「うふふ、変態侍さん、お待ちしておりましたわ。この先へ行きたければ、まず私たちを倒してからにしてちょうだい?」
ついに、天狗の隠れ里を舞台に、助平太一行と、玉藻の前の刺客たちとの、三度目の死闘の火蓋が切って落とされようとしていた!




