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83 光の言葉

来ていただいてありがとうございます!





闇の中で黒髪の女の子が泣いてる。


怖いのでしょう?裏切られるのが。

「ええ、とても怖いわ」

だから誰にも答えなかった?

「ええ、誰も信じられない」

そうだよね。目を閉じて、心を閉じておけば傷つかずにすむね。

「そうなの?……そうね。きっとそう」

じゃあ、ずっとここにいよう。ここは安全だから。


優しい声がゆりかごのように私を揺らす。眠りに落ちそうになる私。だってこの暗がりはとても心地良いから。






「エリーっ!やっと見つけた!……エリー?」

僕の目の前で倒れているエリーの顔は白くて、あの時のお師匠様を思い出させた。

「エリー?ねえ、起きてよエリー!何寝てるの?エリー!エリーっ!!」

「君!落ち着きたまえ!」

倒れているエリーを揺さぶる僕を止めるこの男は誰だ?

「あんた誰だ?エリーに何をした?!悪魔の仲間か?」

聖の力を帯びた魔法が彼を傷つけることなく見覚えのあるペンダントに吸収されていく。

「お前!それをエリーから奪い取ったのか?!」

複数の魔法を展開し始める僕を見てその男はため息をついた。人ではないのだろうに随分と人間らしい仕草をする。僕はエリーを抱き上げ、距離を取った。


「初めまして。私はグラース・リーフリルバーン。緑の一族の者です」

彼は胸に手を当て頭を下げた。

「君は黒の一族の方とお見受けする。どうだろう、これが血筋の証明になるだろうか?」

そう言うと彼はその薄緑の髪と同じ色の魔力を全身にうっすらと纏ってみせた。

「フィルと同じ魔力の色……」

彼はフィルフィリーとの血縁者か?僕の顔に戸惑いの色が浮かんだのを見たのか、彼は今度は安堵のため息をついた。


「君がフィルフィリートの事を知っててくれて良かった。私はフィルフィリートの父です」

僕が発動しようとしてた魔法を消すと、彼はエリーの顔を痛ましそうに見て話し始めた。

「エリー嬢は私と王国を助けてくれたのですよ」

グラースは白雪華晶のペンダントに触れながら、ここで起こったことを話し始めた。




「それでそのペンダントが貴方のところにあるのですね」

グラースは辛そうにエリーの顔を見ている。

「私の心の弱さをついて、悪魔が闇の扉を開けさせようとしたんだ。けれど止めようとしてエリー嬢が……。本来なら僕の方が息子のお嫁さんを守らなきゃいけないのに……」

「まだ、エリーとフィルは正式に婚約してませんよ。エリーはまだ誰の求婚も受けてはいないのですから」

フィルとルーナの関係(冤罪)にショックを受けたエリーの姿を見ている僕には、この先の結果が見えたような気がしている。それでもまだ彼女を諦めることは出来ない。

「そうか、フィルにはライバルが多いのだね。大変だ……」

グラースはクスッと小さく笑った。そんな顔がフィルフィリートに似てると思った。


「それで悪魔がエリーの中に入っていったんですね」

「うん。恐らく彼女の心を支配して、闇の扉を開けさせたいのだろう。悪魔は自分ではあの扉に触れられないようだから。人の心には必ず弱い部分がある。それは仕方のない事だ。闇のような部分も。悪魔はそれを増幅させてそれだけをいっぱいにして支配しようとしてくる」

いつも明るいエリーにだってそういう部分もある。当然だ。そして悪魔の支配から心を守れる花光玉を作れるエリーは邪魔な存在だ。支配できてしまえば一石二鳥だろう。

「でも、それに負けるかどうかは本人次第だ。私は負けちゃったけどね」

グラースは人差し指でエリーの頬をつついた。フィルにされてるみたいで不快になった僕はエリーを彼から遠ざけた。

「嫁入り前の娘にみだりに触らないで下さい」

「おや?君は良いのかい?」

「僕は家族みたいなものですから……」

自分で言ってて落ち込んでくる。


エリーがこの先誰を選ぼうとも僕の道は決まってる。彼女を生涯かけて守り抜くこと。彼女の穏やかな人生を見守ること。だから、ここでエリーを失うことは絶対にできない。エリーの額にそっと自分の額を合わせた。


「エリー。君は悪魔に負けたりなんかしない。あいつに裏切られた時だってあいつを恨んだりはしなかったよ。辛い農作業も家事の手伝いも文句も言わず頑張ってたよ。あ、時々愚痴は言ってたかな?毎日必死で花光玉を作ってくれてたよ。…………それから僕の過ちを許してくれたよ」

僕は以前にエリーに貰った花光玉をエリーの手に握らせその手を握りしめた。

「起きてよ。エリー。悪魔の支配に負けないで。みんなが君を待ってる。僕が一番だけど。シオンもウォルクも神官様もルーナも、もちろんフィルも」









光が降ってくる。


暗闇の中にたくさんの光。お花のいい香りがする。まあるい光の中にお花が咲いていて私に振って来る。花光玉みたい。その光玉は私に当たるとはじけて温かい言葉になる。私を励ましてくれる優しい声。眠りに落ちそうになっていた私に呼びかけてくれる。


「…………リー、エリー?エリー!!早く起きて!」

「やだ!!もう夜明け?早く畑に行かなくちゃ!!」

がばりと起き上がって、おでこをしたたかにぶつけた。

「……っいったーいっ!!」

「それはこっちのセリフだよ、エリー。……痛い」

同じようにおでこを押さえたノアがいる。

「あら?ノアったら、私を起こしに来てくれたの?駄目よ?レディの部屋に勝手に入ってきちゃ……って……ここどこ?」

周りを見渡すと闇の中。なんだ、ここ?だんだん思い出してきた。そうだ!私は悪魔に連れて来られたんだっけ。

「っ闇の扉は?!」

「大丈夫。君のおかげで開かずに済んだ」

「グラース様?良かった!正気に戻ったんですね!」


とりあえず現状確認。私はノアに抱きかかえられてる。かぁっと頬に熱が上がる。顔が近いよ?それにノアってばとっても優しい顔。今まで見たことないみたいな大人っぽい顔をしてる。それに綺麗な涙。……どうして泣いてるの?

「ごめんね。頭突きしちゃって。まだ痛い?」

私はノアのおでこをさすった。

「ううん。痛くないよ。エリー、無事で良かった。帰って来てくれてありがとう」

ノアは私をぎゅっと抱きしめた。

「ノアが呼んでくれたんだね。私こそ助けに来てくれてありがとう。ノア」

私はノアを抱き締め返した。体がずいぶん冷えてしまってたみたい。ノアの温もりが心地良かった。

「まだ、喜び合うのは早いと思うけれど」

遠慮がちにグラース様が言った。そうだったわ!まだ私達は悪魔の根城にいるんだった。


「今、王都は大変な状態になってるんだ」

ノアの説明に私は息をのんだ。









ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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