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63 空高く

来ていただいてありがとうございます!



「やっぱりこっちの方が空気が美味しいわ」


あれから一週間。フィル様と私は無事に緑の一族の領地まで戻って来られた。オーガスト様は王都でまだ話し合うことがあるという事で残られたんだけど、ようやく私は落ち着いた生活ができるって思ってたんだ。



「えっと、これは?」

「いわゆる釣書というものですね」

困ったように笑うエドさん。

「釣書……」

「後は結婚の申し込みの手紙など……」

「何でそんなものがこんなに」

目の前にはたくさん積まれた手紙や書類……。


今日はエドさんのお家、ルヴェール家のお屋敷にご挨拶に来ていた。リーフリルバーン家ほどではないけどやっぱり大きくて立派なお屋敷で、リーフリルバーン家のお屋敷の近くにあるんだ。街の方に近い場所。


てっきり養女のお話もフィル様との婚約同様ほぼ白紙に戻って、解消になったと思ってたんだけど私はルヴェール家の養女、エドさんの妹のままだってフィル様に言われたんだ。

「エリーさんが次期王妃候補または女王候補という事があちこちに知れ渡ったのでしょうね。フィル様がいらっしゃるというのに……。無礼なことです」

エドさんは言いながら手紙の束を握りつぶした。エドさん怒ってる……。ちょっと怖い。


「あ、あの、フィル様との婚約は凍結だってウォルク・キングストーン様が仰っていたんですけど……」

「ははは。婚約許可申請は有効ですよ。一時的に手続きが止まってるだけです。フィルフィリート様は国王の器も持っていらっしゃいます。何も問題ありません。そうですね?フィル様?」

エドさんが無表情でフィル様を見てる。圧が……。なんか怖い……エドさんがとても怖い。

「……ああ、覚悟はできてる」

フィル様が静かに答えて、エドさんが満足そうに微笑む。

「フィル様……」

私はそんな覚悟できてない……。フィル様への返事だってまだ。私以外のみんなが遠くへ走って行ってしまうような感覚……。いけない。落ち込んでちゃ。暗い顔をしてたら心配をかけてしまう。今はそのことは考えないようにしようって決めたでしょ。大体私は一度に色々なことが出来るような器用な人間じゃないもの。



ルヴェール家はリーフリルバーン家に次ぐお家で、エドさんのご両親はとても優しい穏やかな人達だった。ただの平民の私を受け入れてくれてとても親切にしてくれた。

「フィルフィリート様が離さないとは思うけれど、家にもいつでも来て頂戴ね。うちには女の子がいないから、これから楽しみだわ」

エヴァンジェリン・ルヴェール様。ルヴェール夫人はそう言ってドレスをいくつか持たせてくれた。一着着せてもらったんだけど、わざわざ仕立ててくれたらしくてデザインは王都でよく見るタイプのものだった。色は白と明るいグリーンだったのには少し笑ってしまった。緑の一族の人達は緑色が好きみたい。


「結婚の申し込みには全てこちらで返事をしておくよ。ああ、我々はフィルフィリート様の味方だからね」

ご当主様でエドさんのお父様、アルブル・ルヴェール様はにこにこ笑ってひとさし指を立てた。

「ご面倒をお掛けしますがよろしくお願いします」

フィル様の横で私も頭を下げた。全然関係なかったはずのルヴェールご夫妻に私のせいでご迷惑をかけることに申し訳ない気持ちだった。

「気にしないでいい。フィルフィリート様は私達の息子、家族も同然なんだから」

ルヴェールご夫妻とエドさんは暖かい笑顔でフィル様と私を見つめていた。


後からエドさんから聞いたお話なんだけど、先の戦の後フィル様のお母さまが亡くなった時にお父様も失踪されて、お忙しいオーガスト様の代わりにエドさんとエヴァンジェリン様が幼いフィル様のお世話をしてたんだそう。だからフィル様とルヴェール家の方々は使用人の人達も含めてとても仲が良いんだって。








その夜リーフリルバーン家に戻った私は、ベッドに身を投げ出して白雪華晶のネックレスを見つめた。

「あれもそれもこれも、全部神様のせいなんだから……!なんとか言いなさい!」

そう言って指ではじいた。


『すまぬ』


「え?」

今声聞こえた?私はガバッと起き上がり、ネックレスを凝視した。今、聞こえたよね?


『少々忙しかったのでな』


「やっぱり!神様!今までどうして……、これってどういう……ていうかなんで私なのっ?」

聞きたいことがたくさんあって言葉に詰まってしまった。涙が出そう。


神様のいう事には、こうして人と直接話をするのは本当はルール違反なんだそう。神官様みたいな人に言葉を預けたり、おろしたりしないと駄目なんだって。神様の世界にも色々あるんだね。


『ただ、今回は例外ということで許されたのだ。我々の守護するこの地を悪魔に蹂躙されている状態だったのでな』


神様達にも面子とかがあるのかな?


『少し違うが、まあそんなところだな』


苦笑いの気配。

「あの時はお力をお貸しくださってありがとうございました」


『非常措置だった。そなたには以前に力を貸してもらったから。そなたとは縁が繋がれていた』


つまりいつもあんな風に力を貸すことはできないってことだよね?頷くような気配を感じる。

「これからは私達が頑張らないといけないんですね。だから私とカレンに神様の護りを与えてもらえたんだ」


『カレンにおもに護りを与えたのは光の神だ。私と共に古よりこの地を守ってきた神々の一柱。私もカレンを守護してはいるが、どうも相性が良くないようだ』


確か王都の神殿が祀っているのは光の神様だった。まだ神殿のことは不勉強だから神様の事はうろ覚えなんだよね。


『光の神はそなたの事も気に入っているようだ。そなたにも守護を与えていた』


神様がちょっとムッとしてるみたい?どうしたんだろう?


『そなたは我の管轄なのに……』


縄張り争い……?それともやきもち?神様って結構人間と似てるんだね。私は思わず吹き出してしまった。



それからもう少しだけ神様とお話をして、その夜はいつの間にか眠ってしまっていた。夜明け前に目覚めた時、私にできること、やらなくちゃいけないことがちゃんと記憶に残ってた。

「フィル様にお話しよう」

私は窓を開けて遠くに見えるクリアル山にお祈りをした。

「空が高い。もう秋が近いのね」






ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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