62 女王とか王妃とか
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何で皆さんここに集まってるんだろう?フィル様はともかく、シオン様、ウォルク様それにアルジェ神官様までいる。何よりも驚いたのは……。
「ノア?!」
「久しぶり?エリーが寂しがるかと思って来ちゃったよ」
ノアがいる!って、すっかり以前のノアに戻ってる。あの時の悲壮感溢れるノアはどこに?随分と明るくて良かった……じゃない!
「ノア?ノアは無期限の謹慎なんじゃなかったの?」
「うん。そう。ノアレーンはね。僕はノアだから!」
「またそんな詭弁を……」
フィル様が額を押さえてる。
「それにさ、帰ろうと思えばいつでも帰れるしね」
「ああ、魔法でね!じゃないの!いいの?本当に?大丈夫なの?」
「エリー、僕の事心配してくれるんだ。さすがお師匠様だね」
ノアが片目を瞑って笑った。そして抱きついてこようとするのを隣に座ってるフィル様が阻止してくれた。
「はいはい。席に戻って下さいね」
ノアはムッとしてたけど大人しく座り直した。
「…………」
もしかしてノアの事って心配するだけ無駄だった?
「で?エリーが未来の女王候補になったんだって?」
ん?
「ああ、女王または王妃候補だね。正確には」
シオン様、ノアを受け入れるの早すぎませんか?会議に参加してたシオン様もノアの処遇を決めてたのに……あれ?今何て言った?
「悪いけど、フィルとエリーの婚約は一時凍結になってるから」
「…………」
え?フィル様ウォルク様に言い返さないの?え?え?何?どういうこと?
「あの……、私が女王とか王妃とかどうしてそんなお話になってるんでしょうか?神様の言葉はまだ脅威が去ってないから、みんなで気を付けなさいってことじゃなかったですか?」
王都にあるリーフリルバーン家のお屋敷の応接間。お茶を飲みながら、お菓子を食べながらそれぞれ談笑していた皆さんが一斉に動きを止めてこちらを向いた。
「…………」
それから顔を見合わせて黙っちゃった。え?違った?
「そうですね。では私がご説明しましょうか」
アルジェ神官様が私を見て静かに微笑んだ。
「神様からのお言葉は大体エリーさんの仰ったとおりです。悪魔の脅威は去っていない。それどころか更なる危険が迫っているという警告でしょう」
「やっぱりそうなんですね」
「悪魔は完全に倒されたわけじゃなくて、弱体化してどこかに身を潜めてるのか」
ウォルク様が厳しい顔になる。神官様が静かに答える。
「恐らく今はあの時に負ったダメージを回復しているのでしょうね」
「王妃様の話ではあの悪魔は自分の半身を求めてる。だから闇の扉を開けて呼び戻すつもりだろう」
シオン様も私と同じこと考えてる。やっぱり「扉」って闇の扉の事なんだ。
「神々は貴女とカレンさん……カレン様を中心に協力し合い、事態を収束させよと仰ったのですよ」
「そうですよね。私とカレンは花光玉を作って悪魔が原因の病を抑えればいいんですよね?」
「はい。それは正解の一部分ですね」
「一部分ですか?」
「もったいぶった言い方だとエリーには伝わらないと思うよ。神官サマ」
ノアの言葉に神官様はああ、と微笑んで頷いた。なんか引っかかるけど……いいか。
「貴女とカレン様は神々の加護を得ています。つまり貴女達お二人が王国のトップに立つことで王国自体が加護を得られるということになりますね」
「それで女王とか王妃とかってことになるんですね……」
え?じゃあ、あの場にいた人達はみんなそうやって受け止めたんだ。だからあの時異様な圧を感じたんだ。とってもくらくらして気分が悪くなったんだよね。フィル様に支えてもらいながらお城を出ようとしたんだけど、引き留める人達をフィル様やウォルク様が説得してくれてたような気がする。結構無理やり帰って来たんだった。でも助かっちゃった。やっぱりお城は落ち着かなかったから。
私はほぅっと息をついた。やっぱりおうちが一番だよね、うん。正確に言うと私の家じゃないけど……。うん。やっぱり私には無理だわ。
「という訳で、私は辞退しますね!カレンがやる気満々だったみたいですし」
そう言ってはいって手を挙げて宣言した。再び静まり返って集まる注目……。あれ?
「何が、という訳、なの?全然話が繋がらないんだけど?」
シオン様が少しだけ咎めるように私を見た。
「私には無理です。もちろん、花光玉の事は頑張ります。でも王様とかそんな大それたこと……できません……」
ふふ、と神官様が小さく笑った。
「変わりませんね、貴女は。国王、王妃になればどんな贅沢も思いのままですよ?」
「贅沢……」
私は目の前に置かれた綺麗なティーカップを見た。もうずいぶんと慣れてしまったけど、家に帰ったら到底飲むことなんでできない高価なお茶が注がれてる。食事やドレスなんかもそう。元の生活に戻るのは辛いかもしれない。でも。
「それでもやっぱり、私が欲しいものは違うものかなって思うんです」
将来そう思ったことを後悔するのかもしれないけど。
「そんなエリーさんだから、クリアルの神は貴女を好ましいと考えておられるのでしょうね」
「神官様……」
私は胸元の花光玉と白雪華晶を握った。あれから神様の声は聞こえない。今も。
「俺はあのカレンって子よりエリーに王位について欲しいな」
「それは僕も激しく同意する」
ウォルク様の言葉にシオン様がうんうんと頷いてる。
「エリーが不安がるのは当然だと思うけど、王配が補佐すればいいし。それに王が交代するのは十五年後なんだし。勉強する時間はたっぷりあるよ」
「それにしてもカレンまでが神に選ばれたのは何故でしょうか?カレンもクリアルの神に選ばれたのですか?」
フィル様が神官様に訊ねる。神官様は一口お茶を飲んで満足そうに微笑んだ。このお茶、神官様の好みらしい。
「いいえ。カレン様はクリアルの神とは別の神に選ばれたようです。守護の光の色が違いました。はっきりとは分かりませんがリュミエールの神々は事態を重く捉え、話し合いをなさったようですね」
「神サマも会議をするんだね」
ノアはテーブルの上の木の実を飴がけしたお菓子を一つ摘まんだ。そのままウォルク様を指差す。
「あとさ、ウォルク様ってさりげなく王配とか言ってるけど、うちの国では女王は稀だからね。エリーは次期国王となる者の妃になるのが普通だよね」
「ウォルク様もエリーの伴侶に名乗りを挙げるということか?」
シオン様の言葉にぎょっとしてしまう。
「今の国王陛下は金の一族の方です。次の国王は当然それ以外の一族の方にということになりますしね。ウォルク様とエリー様がご結婚となればエリー様が女王様という可能性もでますねぇ」
神官様がお茶を楽しみながらのんびりととんでもないことを言い放った。
「し、神官様っ……」
「そういえばここ最近は金、銀、紫の一族が王位を継ぐことが多かったし、陽の一族は歴史の浅い一族だ。まだ国王の輩出は過去に一度もないから、彼らは今頃躍起になっているだろうな」
シオン様はお菓子を次々と食べながら、それでも上品な姿で話してる。すごい才能だわ。
それにしても権力闘争か……。嫌だな。余計に無理かも。やりたい人がやればいいのに。カレンでいいんじゃないかな?言いたいけどなんだか言い出せない雰囲気なのは何故?私は内心途方に暮れていた。
「今はまだそのことは考えなくても大丈夫だよエリー。会議の場でもひとまず目の前にある危機について早急に対策をとるべきだと決まっていた。当面は潜んでいる悪魔の捜索と病の対処。そして式典を成功させることだ」
フィル様が握り締めていた私の手をポンポンと叩いた。
「……そうですね、フィル様。私、花光玉作りを再開します!」
うん。女王とか王妃とかはとりあえずは置いておこう。そういえば、フィル様への返事がまだできてない。それを思い出したらフィル様の顔を見ていられなくなってしまった。どうしよう。私は慌ててお茶のカップを手に取った。夕日色のお茶に映る私の顔。私はどうしたいんだろう?
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