猫と帝王
――ある日のZランク寮。
「よう、興猫」
「我道? どしたのアンタ。わざわざこんなトコまで……」
「ああ。ちょいと状況がキナ臭くなってきやがったんでな」
「頼成組……?」
「……ああ。ウチや真島の下の連中が、かたっぱしからやられてる。しかも今まで全く無名だった……奴隷生徒扱いだった奴らに、だ」
「……例の、あの嶽炎祭で出てきた連中?」
「だろうな。あの時よりも動きや統率に、さらに無駄がなくなってきてる。それに……数も確実に増えてやがる」
「……まずは肩慣らしついでに数を減らそうって?」
「業腹だが……その通りだな。下って言っても四天王に近い、中堅クラスまでも何人か病院送りにされてる」
「準備は整ってきてる……ってことか」
「その手の内を隠す素振りもなく、見せ付けるようにしてきやがる……!」
「苛立ってるね。珍しいこともあるもんだ」
「……あのやり口で鳳凰院も操ってるって……そういうことなんだろ?」
「茂姫あたりはそう判断したけどね。ただ……」
「……ただ?」
「椿芽はあの連中と違って、確実に自分の意思を持ってる。だから……強い」
「……自分の意思もあるって……そういうことか」
「………………」
「晴海先生……いや、聖徒会のほうはどうなってんだ」
「警戒はしているけどね。ただ……ちょっと妙、かも」
「……妙?」
「あたしも自分で調べてみたけど……ちょっと危機感、薄いよ。あの牙鳴遥にしては……」
「おい……まさか、頼成組と聖徒会までもがグルとかって、そういうオチじゃねぇだろうな?」
「さすがにそれは……ないんじゃない?」
「どうだかな……。俺はあのとき、あの会長に一発、もらってやがるしよ」
「あれはまた特別でしょ。なに考えてるのかわかんないってイミじゃ」
「まぁな。実際……そのあと、頼成を撃退したのはあの会長さんらしいしなぁ」
「……どっちにしても……何かあるなら近いね」
「ああ。四天王連中にも気合を入れさせちゃ居るが……」
「……シェリスも気にかかる?」
「……まぁな。幽玄はそっちの護衛に割かれてる。この状況で女々しいって思うかな」
「うんニャ。アンタはそのくらいのがいいよ」
「そうか……。ところで天道の野郎はどこだ? そもそも俺はアイツにその辺のハナシを……」
「ああ、乱世?」
「そうだ。あの嬢ちゃんに特訓つけてやるようなことを言ってたが……そんな悠長なことを――」
「デート」
「――言ってる暇が………………って? ナニぃ?」
「だから……勇とデート。乱世は」
「な……なにいいぃぃっ!?」