妾
「椿芽……?」
――頼成が怪訝な顔を見せる。
「ちっ……。殺ってねぇのかよ。まだリンクの調整が不安定か? まぁ……あの短時間じゃな……」
はき捨てるように言い、足元の……倒れ伏し、失神したままの天道乱世を見やる。
「まぁ……いい。とりあえずこっちはこっちで……」
そのまま無防備な彼に歩み寄り……。
「天道乱世は……首尾どおり、殺っておくから……よッ!」
その拳で彼の頭部を砕き潰そうとするが――。
「……………………」
それを遮るように、ふわりと立つ。
「なんだ……牙鳴円。聖徒会が……そいつを庇うのか?」
「とき――」
「ああ……?」
「まだ……満たず。彼の相手は……あんたじゃあ……ない」
「ふん……」
頼成、構わず拳を固める。
「構わんぜ? どっちみち……この能力は、お前や……副会長……聖徒会や『その上』をブッ潰す為に手に入れたんだからな」
「………………」
「ちっと……順序が狂うだけだ。へへ……」
「………………」
「ムセツ……だかって技か。こいつを使ってみるか。あんたも……未来を読まれちゃ、どうにもならんだろ」
「………………くふ」
「笑ってろ……。そら……いくぜ……?」
間合いが縮まる。
「………………くふふ」
「笑ってろって……言うんだよッ!」
「くふふ♪」
もはや、手の届く――。
「見えた、そこ――――」
まるで勝利を確信したような、顔――。
「―――――ッ!?」
……が、すぐさまそれは不可解な驚きの顔に変じ、間合いを離す。
「…………♪」
「はぁっ……はぁっ……!?」
驚愕の表情のまま……汗だくの顔で自分の腕を、脚を、次々に見遣る。
「はぁっ……!? 手……ッ! 俺の……腕っ!? 足ッ!?」
「……まだ……斬ってない、よ?」
「な……なんだ……いまの……」
「でも……『本当に』来たなら……斬った♪」
「ば……馬鹿なッ!」
そのまま、今度は逆に頼成に間合いを詰める。
と、と……と、つま先で、歩く。
「……今度は……胴体♪」
「――――ッ!?」
まるで『胴を日本刀で薙ぎ払われたかのように』、腰を曲げる頼成。
「……それとも……首? ふふ♪」
「――!?」
次は、がくん、と首を不自然に揺らす。
「真っ二つ?」
「ぎ――!?」
頭のてっぺんをまっすぐに打たれたように、膝を着く。
「どれでも……好きな未来を♪」
「――――!」
青ざめた表情で間合いを離す頼成。
「ば……馬鹿な……? こんな……」
がくがくと……数度の『死』に震えている。
「ふ……不完全、なのか? あのムセツだかっていうのは……! 未来を見れるって……あの女の話は誇張かッ!」
「う~ん?」
「ち……クショウッ! それなら……リンクで別の技をッ……!」
「だ め だ ね」
「……は?」
「正しい……よ。それは。その未来たちは」
「な……な……!?」
「ふぁ……」
大きく、欠伸。
目覚めての、欠伸。
「アンタにゃあ……ネぇ」
とす、とす……。
久々にきちんと地に足をつけ、ゆっくりと、歩く。
「ひっ……!」
「アンタにゃあ……ねェ? 何も得られない。妾の命もォ……この学園もゥ……」
「く……来るなッ……!」
「視てェ……ご覧よゥ……? 視得るならァ……。得られないよゥ? 得られやしないよゥ?」
「や、やめ……!」
「アンタさァ? くふふ……自分のい・の・ちさえも……さァ……?」
にたり、と。
咲う。
「ひッ……!」
頼成は無様にも背中を向け振り向きもせずに逃走する。
残されたのは牙鳴円、そして我道帝次と天道乱世のふたり。
その二人も、いまは動かない。
「ふ……ゥ……」
妾――は。
それを見やって小さく溜息を零したのだろうかネ。
「……重そォ」
……てェさ。




