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映す月  作者: 渡辺律
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なんかよくわからない終わり方ですみません。でもとりあえず愛人視点はこれでおしまい。

「はじめまして、というわけでもないけど、こうして言葉を交わすのは初めてですね」


 斎と連絡を取れなくなって二か月くらい。

 三年、は決して短くないけれどそれだけ我慢すればあたしは一生の安寧を手に入れることができる。だったらいくらだって待つことができる。

 そんなあたしをあざ笑うかのように現れたのは愛しくてたまらない相手、ではなくその弟だった。





 嘉納かのうゆかりという男についてあたしが知っていることなんてほんのわずかだ。

 嘉納斎の弟で、海外に長く留学していた。それだけ。

 あたしと斎が通っていた学園に籍はあったらしいけれど、ほとんど交換留学という形でヨーロッパのどこかの学校に在籍しているのだと女の子たちの噂話で聞いた。斎から弟の話を聞いたことはない。いる、というのは聞いたことがあるような気もするけれど、二つ違いの兄弟は仲良くも悪くもなくお互いに無関心のようだった。同級生によれば、お家の確執なんかもあるらしい。本当かどうかはわからないけれど、斎と紫は母親が違うらしい。斎がいわゆる本妻の子で紫は愛人の子。でもよくあるように旦那の心は愛人のもの、なんだとか。

 そういう醜聞は割かしどこにでも転がっていて、逆にリアリティがない。

 何が本当で何が嘘なのかなんて確かめたりしようなんて人間ばかはいない。ありそうな話だけがそこかしこに浮かんでいる。

 

 嘉納斎と紫はいろんな意味で人目を惹きやすかったのだろう。

 噂話が多いのもこの二人だった。



「なんで…」

「意味が分からない、という顔をしていますね。そりゃあ気になりますよ。だって僕にだって関係のある話ですし」


 にこり、と嗤うこの男は自分が他人にどのように見えているのかよく理解しているのだろう。


「ああ、でも勘違いしないでくださいね。あなたと兄の交際に反対しているわけではありませんから」


 その一言でますますわからなくなる。兄の斎と違って、このおとうとは何を望んでいるのかまったくわからない。








 男はいった。あなたの望むものをあげましょう、と。

 だけど、僕は魔法使いなどではありません。だからあなたの願いを叶えるために対価をいただきます、と。





 ―――― 男はそれはそれはうつくしい笑みを浮かべた。彼は魔法使いなんてかわいらしいものではなく、きっと悪魔だったのだろう。

















 どうやって自分があのカフェから帰ってきたのかよく覚えていない。

 気がつけば自分のうちで、背中はぐっしょりと冷や汗で濡れていた。


 見透かされている、と思った。

 あたしがずるいことなんていまさらな話でしかない。だからずるい女だと罵られても構いやしなかった。むしろ、ずるい女だと思われていたほうがずっと良かったのかもしれない。


 あたしは王様を愛している。

 だけど、王様の伴侶にはなりたくない。王様の影に存在を許されていれば満足できる。王様とのこどもなんていらない。むしろ、こどもなんて邪魔になるだけだ。王様を繋ぎ止めるのに少しは役に立つかもしれないから、最終的な手段としてこどもをうむことも考慮にはいれているけれど、それは本当にどうしようもなくなったときだけ、と決めている。王様があたしに愛情を抱けなくなったり、自分の抱いている感情が所詮は仮初めであったと知ってしまったときに王様が罪悪感であたしをそばにおいてくれるように。あたしのことは切り捨てることができたとしても、自分の血を分けたこどもを見捨てることはあのやさしくてまじめな王様にはきっとできない。




 あたしが恐れていること。それは王様に見捨てられること、と王様の親友である竜崎は認識しているだろう。それは決して間違いではないけれど、正しくもない。

 何度も繰り返すがあたしは「王様」がすきなのだ。王様でない王様なんていらない。あたしは王様という生き物の側でしかいきられない。


 だったら王様が王冠を誰かに譲り渡してしまったら?

 王様が王様の椅子を誰かに奪われてしまったら?



 王様が生まれながらに王様としての貫禄を有していることは否定はしない。

 あの嘉納斎という男は生まれながらにして、他人にこの男は将来王様となるのだろうという思いを抱かせるには十分な能力や貫禄を有していたし、彼自身、王様らしく振舞おうとしていた節がある。彼はそういった意味ではとても幸運な男で、いろんな要素が彼を王様にした。あたしはそんな彼に恋をした。




 男は言った。

 あなたに兄をあげましょう、と。

 あなたが兄を望んだ。王様である兄を。

 だったらあなただけの王様をあげる。

 すきなだけあなたたちふたりのおうこくで暮らせばいい。








 それはまるで呪いのようだった。

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