【14話】変な事はしていない
その後、私は貴弌と百衣にテスト結果が貼り出されている廊下から教室に連れてこられた。
2人に片腕ずつ掴まれていた私は他の生徒から見れば、強制連行されているように見えただろう。
まぁ、半分そうなのだが。
「神前、あれは偶然じゃないよな?」
「偶然で満点取れる訳ないだろう」
運がいい奴はそうかもしれないが、私は生憎、運がいい方ではない。
どちらかと言えば、運が悪い方だ。
今までもよく運悪く(・・・)死にかけそうになったものだ。
「つまり、あれがかんざきちゃんの実力?」
「まぁ、そうなるな」
「うそだろ……」
「おい、零」
貴弌が何か話そうとしていたが、それを遮って、黒屋が話しかけてきた。
教室がシンッと一切の音がなくなった。
廊下から漏れてくる生徒の声が鮮明に聞こえてくる。
ここまで静かになるのかと私は思った。
「なんだ」
「お前、神前道場の者か?」
「あぁ、そうだが」
「段持ちか?」
「段は覚えてない。
道場内の職位は師範代だ」
「!……そうか」
黒屋は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻り、自分の席へと戻っていった。
教室では沈黙が続いたが、しばらくして、いつもの喧騒が戻ってきた。
「ねぇ、かんざきちゃん」
「なんだ、百衣」
「いつの間に黒屋と仲良くなってるの~?」
「別に仲がいい訳ではないが?」
私は首を傾げた。さっきのは仲がいいと言えるのだろうか。普通に話しただけだ。
「だって~、下の名前で呼んでいたよ~」
「苗字で呼びたくないらしい」
本人にちゃんと確認した訳ではないが。
「へ~。じゃあ、オレも『レイちゃん』って呼んでイイ?」
「許可しない」
「え~、黒屋だけずるい~」
百衣が私に抱きつこうとしたので、伸びてきた手を叩く。
「近付くな」
「え~、友達なんだから、いいじゃん~。
スキンシップは大事だよ?」
「スキンシップ多可は好ましくない」
「じゃあ、近付かない代わりに『レイちゃん』って呼んでイイ?」
名前をちゃん付けで呼ばれるのは嫌。だが、それ以上に抱きつかれるのは嫌。仕方がない。ここは百衣に譲歩しよう。
「……分かった。呼び捨て(・・・・)で呼んでくれ」
「え~」
「これでも譲歩した」
「仕方ないな~」
百衣はつまらないという表情をしながら、自分の席に着いた。
朝のHRまで後数分となっていた。
百衣と話している間、貴弌が何も話しかけてこなかったな。
貴弌は自分の席に座り、ずっと黙ったまま、何かを考えているようだった。
「貴弌?」
「ん? 黒屋とはもういいのか?」
どうやらまだ黒屋がいると思っていたようだ。黒屋が来た時からずっと考え込んでいたようだな。
「黒屋はもう自分の席に行ったぞ」
「あぁ、そうだったか……」
「大丈夫か?」
「え?」
「何か考え込んでいたから」
「あ、あぁ、別に大丈夫だ……」
「お前ら、席につけー」
織原が教室に入ってきた。どうやら朝のHRの時間になっていたようだ。
それから昼休みまでは何事もなく、過ごした。
昼休みに一波乱が起きる事を予想していたが、大事になるとはこの時の私は考えもしなかった。