↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/5

プロローグ 一年ぶりの招待状



トレーニングの後のプロテインシェイカーを振りながら、大岩大和はスマホの通知を見て手を止めた。


件名は【重要】ハンターズ・オンライン運営移管のお知らせ。差出人の名前には、見覚えのないゲーム会社が並んでいる。


「……ハンオン?」


思わず声が出た。一年前に見切りをつけて、アカウントごと放置していたゲームだった。


ハンターズ・オンライン、略してハンオン。フルダイブ型のVRMMOで、大型モンスターを狩って素材を剥ぎ、装備を作って、さらに強いモンスターに挑む。コンセプトだけ聞けば、大和の好みのど真ん中だった。


ただ、出来は最悪だった。大剣を振れば当たり判定がずれる。サーバーは週に二回は落ちる。クエストの途中で壁にめり込んで、そのままタイムアップになったことさえある。運営に報告しても返事は来ず、気づけば街から人が消えていた。


それでも、大和は半年は粘った。最初に大型モンスターを倒した夜の、あの手応えが忘れられなかったからだ。結局、その手応えだけでは足りなくなって、ログアウトしたきり、一年が過ぎた。


メールを開くと、長い文章が並んでいた。旧運営の事業停止、新運営への全面移管、システムの総入れ替え、判定とサーバーの再構築。そして最後の段落に、こう書いてある。


「長らくご不便をおかけしたお詫びとして、すべてのアカウントに特別な補償をご用意しました」


「お兄ちゃん、お風呂あいたよ。何見てるの?」


ドアの隙間から、妹の葵が顔をのぞかせた。濡れた髪をタオルで拭きながら、画面を覗き込んでくる。


「ハンオンの運営が変わったって」


「ああ、あのクソゲーって言ってたやつ?」


「クソゲーだった」


大和は即答した。葵が呆れた顔で笑う。


「やっぱりクソゲーなんじゃん。それなのに、なんでちょっと嬉しそうなの」


「嬉しそうか、俺」


「口の端が上がってる。隠せてないよ、筋肉のお兄ちゃん」


言い返せなかった。大和は頬を手のひらで押さえてから、クローゼットの奥に視線を向けた。そこには、一年間触れていないフルダイブ用のヘッドギアがしまってある。


「ちょっとだけ、見てくる」


「ちょっとで済んだことないくせに。ご飯までには戻ってきてね」


「夕飯は?」


「お母さんが唐揚げって言ってた」


「……それは戻る」


大和はヘッドギアを取り出し、埃を払った。ベッドに仰向けになると、百八十六センチの体がマットレスを深く沈める。胸の上でヘッドギアを持ち上げ、天井を見た。


あの頃のハンオンは、確かにクソゲーだった。けれど、大和の中にある「もう一度あの大剣を握りたい」という気持ちは、一年かけても消えなかった。


ヘッドギアを被り、電源を入れる。


起動音のあとに、アカウントの認証画面が浮かんだ。パスワードを打ち込むと、真っ暗だった視界に、白い光が広がっていく。


「ダイブを開始します」


身体の感覚が遠のいていった。ベッドの柔らかさも、部屋の空気も、少しずつ消えていく。落ちていくのか、浮かんでいくのか、自分でも分からない。


やがて、頭の奥で、聞き慣れない女性の声が響いた。


「おかえりなさいませ、アルド・ヴォルドレン様。長らくのご無沙汰をお詫び申し上げます」


光の中で、半透明のウィンドウが開く。


【プレイヤー名:アルド・ヴォルドレン】

【レベル:1】


「……え?」


一年ぶりの冒険は、予想外の数字から始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。