↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Light or Thorn  作者: Hoeplow
序章
PR
1/24

01

序章 ~十二年前~






「チェリル様……ッ!」


 人々の苦しみの声で溢れる大広間。目の前の惨状に茫然としていた幼い少女は自身付きの女官であるシルヴィアの声に我に返った。

 少女の名前はチェリル・エルライード。エルライード王国の国王夫妻の一人娘であり、今日は彼女の四歳の誕生日を祝う為に国内の貴族たちを呼び宴を開いていたのだ。自慢の亜麻色の髪はシルヴィアに綺麗に結い上げてもらい、一番お気に入りのドレスを着せてもらい、彼女は上機嫌で国王夫妻の間に座っていた。

 これまで公の場に出たことが無かった彼女のお披露目も兼ねており、初めて出会う人々に囲まれ、もてはやされ、数えきれないほどのプレゼントとともに彼女は幸せな時間を過ごしていた。

 しかし、そこへ突然魔王が現れたのだ。

 エルライードがかつて違う名前で呼ばれていた頃、千年前に封印されたという話だけが残っていた魔王サテルの名を語った黒髪の男はその手に握った大剣と風で創られた刃で次々と人々を殺していった。近衛兵たちの剣を大剣で弾き攻撃魔法は魔法の壁で防ぐ彼に、誰も傷をつけることはできない。

 今日の為に念入りに磨かれて輝いていた床が赤く染まっていく。その男は兵も貴族も関係無く命を奪っていった。逃げる間も無く、人々はただただ殺されていく。ついには国王夫妻も大剣で首を刎ねられた。目の前を飛んでいく父と母の頭を見た時、チェリルは正気を失ったのだ。

 そして今、彼女は自身の名前を呼ばれ我に返ると男の放った風の刃が自身へ向かって飛んできていた。幼い彼女に出来ることなど無く、彼女はギュッと目を瞑る。しかしいつまでも襲ってこない痛みに彼女が恐る恐る目を開けると、目の前には彼女の名を叫んだシルヴィアが背中から血を流し倒れていた。


「シル……ヴィ、ア……?」


 シルヴィアはピクリとも動かない。一体どうしてこんなことになったのか。

 圧倒的な力に、いまやおとぎ話のように語られていたはずの魔王は確かに存在したのだと分かっても、もう何もかもが遅い。


「いやぁぁぁぁぁぁっ!」


 絶叫したチェリルは頭を抱え、ついにはその場へ座り込んでしまった。自身に近づいてくるサテルにも気がつかず、彼女は涙を流し叫んだ。その目はもはや焦点も合っていない。

 うわ言のように彼女は一つの名前を繰り返し呼んだ。


「テト」


 それは彼女の唯一の友人であり、彼女の騎士の名前だった。

 テト・ネオペルトという名の彼は、近衛兵の息子でチェリルと同じ歳の少年だ。栗色の髪に同じ色の瞳を持つ彼も、彼の親とともにこの大広間へ来ていたはずだった。ぼんやりとした頭で彼女はその栗色を必死に探す。


「テト……テト、テト! 助けて!」


 振り下ろされるサテルの大剣にも気づかず彼女は名を叫ぶ。大剣が彼女の頭を叩き割るすんでのところで彼女は腕を引っ張られた。すぐ隣の床に大剣は落とされ、地面が抉られる。チェリルが引っ張られた腕の先を見上げると、焦がれていた栗色と目が合った。


「チェリル、遅くなってごめんね」


 テトの声にチェリルは再び声を上げて泣き出す。彼の声を聞くといつだって安心できた。それはきっと初めて会った日に彼がチェリルを助けてくれたからだ。

 テトは彼には大きすぎる剣を重たげに持ち上げて構えた。鍔に黄色く輝く石が嵌められたそれは、テトの父親のものだったとチェリルは記憶している。輝く鍔の石はテトが生まれた時に握っていた石によく似ており、父とお揃いなのだと彼が嬉しそうにしていたこともチェリルは覚えていた。剣の本来の持ち主は一体どこへ行ったのかは、考えなくても分かる。


「貴様……光使いか」


「だとしたら、何?」


 光使い。それは千年前に魔王を封印した四人の少年少女のことであり、また五百年前に戦争を停めた男のことである。混乱の時代に現れ世界を浄化する、魔王と同じようにおとぎ話として語られていた存在だ。

 テトが光使いであることは、彼の首にかけられた輝く石が証明していた。それこそが彼が持って生まれた石、光玉(こうぎょく)である。


「あぁ、その光だ……忌々しい……」


 サテルはそう言って大剣を振りかざす。テトは何とか持ち上げている剣で受けたが、残酷なほどの力の差に彼は吹き飛ばされた。床に叩きつけられた彼の目が閉じていく。

 自身に向かってくるサテルを払いのけるようにチェリルは手を振った。その瞬間、彼女の指先から風が舞う。それはまるでサテルが用いていた風の刃のようで。サテルの頬から血が流れた。


「……ほぉ、泣き叫ぶだけの何もできない小娘かと思えば……この魔力、其方も光使いか」


 チェリルの髪飾りに嵌まる深い海の青色の輝く石。彼女の目の色と同じそれもまた、彼女が生まれた時に握っていたものだった。

 サテルは声を上げて笑う。嬉しそうに笑う彼が何を考えているのか、チェリルには分からない。

 刹那、彼女の身体は宙に浮いた。強い痛みと床に落ちた衝撃で薄れていく意識の中、彼女は視界の端に茨を見つける。今、あの茨に吹き飛ばされたのだ。美しかった大広間は次から次へと現れる茨に埋め尽くされていく。


「やめて……おとうさまと、おかあさまの、おしろ……」


 テトの姿ももう、茨に隠されて見えなくなった。弱々しく呟いた彼女の目蓋が閉じていく。

 これが、後にエルライードの惨劇と呼ばれる出来事であった。

ついに上げちゃうぞ!LoTのリメイク版!

先行公開した『魔女の幸福』の主人公メテルもこの世界の人物です。

長い長い物語にはなりますが、もしも、本当にもしも、よろしければお付き合いいただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。