第73話 旧端末
避難所の東棟に、更新の止まった端末が一台残っていた。
廃棄予定の札が貼られ、電源ケーブルだけが仮止めされている。
リンは本来、触る立場にない。
なのに、アヤの夜のあとに、目が吸い寄せられた。
一般権限のPCでは、何も出なかった。
04 も ERUPTION も、壁に跳ね返された。
古い端末なら、違うかもしれない。
端末を起こすと、色の褪せたUIが開く。
今の環象社のシステムとは、階層が違う。
検索欄に、震える指で打つ。
04_ERUPTION
一瞬、砂時計が回る。
次に、黒塗りの多いページが開いた。
『計画名:八嵐(仮)』
『現象核適合・実働個体』
一覧が、欠落を残して並んでいる。
00 ——(欠落)
01 LIGHTNING
02 HAIL
03 RAIN
04 ERUPTION
05 LIGHTPILLAR
06 HURRICANE
07 AURORA
08 IGNITION
さらに末尾に、更新の古い追記が残っていた。
『08 反応消失。計画呼称を七嵐へ移行』
『表層開示禁止』
『環象対応文面と分離』
『実働は個体判断』
リンは画面から顔を上げ、息を止めた。
八嵐。
08が消えて、七嵐。
04は噴火。
自分が助けられた相手の刻印と、一致する。
雹を止めた影も、犬を守った影も、この一覧のどこかにいる。
06の言葉が、裏から支えられる。
気象の歪みを正すために作られたアンドロイド。
それ以上でも、それ以下でもない。
誰が、何のために、どこまで隠しているかまでは見えない。
見えるのは、現場で見た個体が、偶然の英雄などではなかったという事実だけだ。
端末の電源が、勝手に落ちかける。
リンはメモを取らない。
取れない。
頭の中にだけ、七嵐の名前と、08消失の一文を残す。
通用口の鍵を握り直し、夜の外へ出る。
カツヤには、話す。
話し方だけは、選ぶ必要がある。
青は、まだ戻っていない。
知った側の地図が、また一枚、増えていた。




