第26話 瓜二つの横顔
雷の現場は、すでに規制が敷かれていた。
環象社のランクはB。
広報の白石アヤは、本来この位置に長く留まらない。
発表文面の確認と、現場写真の選定が終われば戻るはずだった。
「アヤさん、こちらはもう十分です。本社へ」
「もう少しだけ」
彼女は規制線の外で立ち止まり、焦げた電柱の向こうを見る。
収束は早かった。
早すぎるほどだった。
煙が切れた瞬間、白い装甲の女が横断する。
布で覆われた目。
長い黒髪。
鞘に手を置いたままの静かな歩き方。
アヤの呼吸が、そこで止まった。
姉だった。
正確には、姉に見えた。
輪郭が、唇の形が、髪の落ち方まで近い。
死んだはずの顔が、規制線の向こうを通り過ぎていく。
「……ねえ」
声にならない。
追おうとして、足が規制のコーンに当たる。
「入れません」
職員の制止が、遅れて届く。
アヤはコーンを掴んだまま、女の背中を追う。
背中は、もう煙の端に溶けていた。
『……行く』
風に乗った短い声がした気がした。
姉の声に似ている。
似ているが、温度が違う。
アヤは端末を取り出し、震える指でメモを残す。
『雷。B。収束過早。白い装甲。目隠し。姉に酷似』
環象社の拡声器が、定型を流す。
「異常雷が収束しました。被害は最小限です」
最小限。
その言葉が、今夜はひどく軽く聞こえた。
帰宅後、アヤは姉の写真を開く。
並べて確認する必要はない。
見てしまった。
瓜二つの横顔を、現場の煙の中で見てしまった。
彼女は広報用の文面作成を止め、別の検索を始める。
表に出ない収束。
属性ごとの目撃。
消された時刻。
姉の死の違和感が、今夜、別の形で繋がった。




