最終話 それでも歩く
朝の空は、以前より少しだけ明るかった。
それでも青、と断言できる色ではない。
環象社は平常を流し、黒鋼は回収を続け、人々は名簿にサインをして避難所を出る。
巨大な白の夜は、もう「原因不明の異常が収束した日」として整理され始めている。
廃ビルの上階で、【01(ライトニング)】は布で目を覆い、鞘に手を置いている。
二刀は戻っている。
光は、戻っていない。
なのに、雷の声は聞こえる。
『……行く』
誰にも届かない声だった。
通信先はない。
応答もない。
同じ空の下で、【02(ヘイル)】が砲を担ぎ、【03(レイン)】が鎌を担ぐ。
【04(イラプション)】は抑止の位置に立ち、【05(ライトピラー)】は次の光を待つ。
【06(ハリケーン)】は守る距離を測り、【07(オーロラ)】は面倒くさがって屋根を移動する。
揃わない。
名乗らない。
英雄には、ならない。
加賀美リンは鍵を閉じ、カツヤと並んで歩く。
アヤは文面の末尾に「調査中」と打ち、私用メモは開かない。
知った側の人々も、それぞれの日常に戻っている。
歪みは、まだ来る。
鎮めても、完全には戻らない。
対症療法の反復が、世界の底で続く。
それでも影は、現場へ出る。
命令がなくても、自然の声が届けば動く。
青を返すための歩みが、個別に、静かに続く。
『青は、まだ戻らない』
【01(ライトニング)】は廃ビルを出る。
布の下の眼は、光を持たない。
持たないまま、次の雷の匂いへ足を向ける。
それでも、歩く。
——了——
『青を返す -Adjuster of Distortions-』を、最後まで読んでくださりありがとうございます。
この物語は、最初から「強いアンドロイドが世界を救う話」にしたくありませんでした。
七嵐は英雄になりません。
感謝の向け先にも立ちません。
鎮めても、青はすぐには戻りません。
それでも彼女たちは、自然の声が届けば現場へ出ます。
書いていて一番残ったのは、その「それでも」でした。
命令系統がなく、通信もなく、揃うことも稀な番号たち。
表では安心の文面が流れ、裏では回収と思想が動く世界。
その隙間で、人間側の三人——リン、カツヤ、アヤ——が、知ってしまった重さとどう生きるかを見守る時間も、私にとっては大切でした。
光を司るものが光を失う、という理不尽さ。
兵器として作られ、対症療法を反復するしかない設計。
なのに、放っておけない相手がいて、守る距離を選ぶ番号がいる。
強さの格差と、それでも消えない個々の意思を、最後まで並べてみたかったのです。
青は、まだ戻っていないかもしれません。
それでも歩く影がいるなら、物語としてはそれでよかったと思っています。
長い構築と、短い本文の往復に付き合ってくださったすべての読者に、心から感謝します。
またどこかで、濁った空の下の話を書けることを願っています。




